「張り込み姫 君たちに明日はない3(垣根涼介著)」読了。

今まで、1、2、4とこの「君たちに明日はない」シリーズを読んできた。
本作品はシリーズの3作品目である。リストラ請負会社、日本ヒューマンリアクトの若手社員、真介を主人公とした話である。NHKでも坂口憲二主演でドラマ化された。
1の書評はこちら
2の書評はこちら
4の書評はこちら

NHKドラマ評はこちら

本作品は完全に独立した短編4作品で構成されている。真介が接する対象者、いやターゲットは英会話学校、旅行会社、自動車業界、出版社の4業界。

どれも皆、業界の構造不況の中、必死にもがいているビジネスパーソンばかり。それぞれのポリシーやバックグラウンドを背負いながら奮闘するものの、満足できる結果がついてこないという共通点を持つ。どの業界も私が踏み入れたことがなく、特段興味もなかったものだが、本作品を読んでみて各業界の実情を多少理解出来た。今後の仕事に役立つだろう。

以下は興味深かった点を引用。

・旅行代理店の給料が恐ろしく安いという話は意外と知られていない。代理店という業態上、粗利が良くて売上の一割五分から二割くらいしか確保出来ないからだ。その粗利の中から本店支店の運営費、パンフレットの制作費も出て行くから、当然その皺寄せは人件費に来る。
・通常、旅行代理店業界を除く全ての業界の粗利の平均値は三割と言われている。旅行代理店業界の平均粗利は一割二分…。一品目当たりで扱うロット量が圧倒的に多い商社などならそれでもいいだろうが、一名からの個人旅行までも手間暇かけて扱うこの業界ではとてもそんな粗利ではやっていけない。その弊害の及ぶ最たるものが人件費だ。
→学生時代の友人が何人か新卒で旅行業界に就職し、そのほとんどが別業界へ転職したため、この業界の給料のことはよく知っている。要するに、この業界構造自体が薄給を生み出しているのだ。

・「思うに、一般的に言って、社員としてもらっている給料の約三倍がその社員にかかる人件費、福利厚生費、オフィスのスペース比などを含めた維持経費だと思っています。ですから仕事では最低その三倍は、売り上げでなく収益を出したいと思っています。」
→旅行代理店勤務の古屋が面接時に答えたもの。給料の手取でなく、三倍と捉えている点が素晴らしい。

・「最近ちょっと分かってきたんだけど、俺の仕事って、ある意味ヒトの真実みたいなものに触れる仕事じゃないのかなって。もちろん、相手には否応なしにキツい現実に直面してもらうわけだから、歓迎はされない。それでもその状況の中で、相手の本音が見え、時には相手の真実が見える。俺はたぶん色んな人間の真実を見たい人間なんだと思う。で、どうせやるなら俺でも良いんじゃないかって。その局面で相手を手助けできればなおいい。」
→主人公の真介の言葉。私の仕事についても当てはまる部分があるため共感。

・「お前の言いたいことも分かる。確かに普通のお客さんに対しては、お前は規定通りちゃんとやってる。ただ、問題なのは、そういう懇意のお客とのやり取りを見て、ああいうふうにやってもいいんだ、と他のメカが勘違いしてしまうことだ。知らぬうちにお前に影響を受け、懇意のお客さんを作る。そしてその顧客との集まりが、メカを囲んで知り合いになり、雑談になり、ある意味、工場内で油臭いサロンを形成する。時間を取られ、挙句、彼らの一日の終わりは長くなる。お前のように節度を持って、そのサロン状態で雑談した時間は、サービス残業で穴を埋めるという良心的な人間ばかりじゃないだろう。」
→優秀な自動車メカニックである宅間に対して苦言を呈する店長の言葉。仕事が出来ても、顧客から信頼を勝ち取っていても、部下や後輩からリスペクトを得ていても、それでも認められないもどかしさ、である。