謎のカード・“マスク・オブ・ヒュドラグルム”の影響による力に固執、支配された加我矢ヒユリをその呪縛から解き放つべくファイトを挑んだ「Run」ことヒユリの兄・ユラン。

 

 互いにペルソナライドを重ねた強力な攻撃を繰り出すものの、決着には至らずファイトは長期戦に及んでいた。

 

<ヒユリ>「わたしは、自らの意思でこの力を欲したんだよ…! 圧倒的な力! 憧れたアルターちゃんをも超えたこの力! それを取り上げようとしているというのなら…わたしは抗うよ。お兄ちゃんがこの力に埋もれた本当のわたしを取り戻そうとしているなら、それは今のわたし自身なんだよ」

 

<ユラン/Run>「俺は、力を欲するヒユリに気付けていなかったのかもしれない。それが本当のヒユリていうのなら…俺はそれを否定しない」

 

<ヒユリ>「やっと、わかってくれたんだね。お兄ちゃ…」

 

<ユラン/Run>「けど! その力で他人を煽るようなファイターにはなってほしくない。力に飲み込まれるなら、俺はそのヒユリを救って、正しい道へと進ませる! 俺は…ヒユリの兄ちゃんだから!! 放っておけるわけがないんだ!!」

 

 ファイトはユランの第8ターン目を終え、ヒユリの第9ターンへと進む。

 

ヴァンガードファイター・「Run」。カードゲームを通じて様々な出会いと経験を果たす物語。

 

謎のカードが導く仮面の姿。兄・ユランが、妹・ヒユリへと勝負を挑むようでー。

 

ヴァンガード Extend-Run

 

 

盤面整理

 

〇ヒユリ(先攻)

ヴァンガード:グランドハイター・マスクス・ドラゴン(グレード3)

右前列(龍樹マーカー1枚):バッドエンドネクスト・ドラゴン(グレード3)

右後列:コネクトレン・ドラゴン(グレード1)

左前列(龍樹マーカー1枚):ラッキーナイス・ドラゴン(グレード2)

左後列:グロウアップ“・ワイバーン(グレード1)

手札:1枚

(1) 龍樹の落胤 ラグン・ギムラード

ダメージ:5枚(裏3枚)

ソウル:2枚

◇ユラン/Run(後攻)

ヴァンガード:天空を裂く牙 アテナイアー(グレード3)

右前列:一身の剣 アキナ(グレード2)

右後列:紺碧の勇気 エルペス(グレード3)

左前列:一身の剣 アキナ(グレード2)

左後列:紺碧の勇気 エルペス(グレード3)

手札:10枚

(1) リキッドナイト リフラーニャ(2) 折れない不滅の真理(3) 核心を貫く刃(4) 気高き轟きの鼓舞(5) 情景の乙女 アラナ(☆)(6) デュアルプレッシャー・ドラゴン(☆) (7) カストーディアル・ドラゴン(守護者) (8) デュアルプレッシャー・ドラゴン(☆) (9)ジプソフィラの妖精 アシェル(治)(10) 気高き轟きの鼓舞

(2)ダメージ:4枚(裏1枚)

(3)ソウル:0枚

 

――

 

〇第9ターン(ヒユリ)

 

<ヒユリ>「スタンド、ドロー、エネルギーチャージ! “グランドハイター・マスクス・ドラゴン”の能力で、ドロップから“スパークルリジェクター(守護者)”と“ファルハート”を山札の下に置いて能力獲得だよ」

【ヒユリ:エネルギー3→6】

 

 【GHマスクス】(起動②):〇【T①】:【コスト】[CB①,ドロップからノーマルユニットを2枚山札の下に望む順で置く]ことで、そのターン中、このユニットは、『【自】【(V)】【T①】:あなたのターンにあなたの手札からノーマルユニットが捨てられた時、そのカードを龍樹マーカーのある(R)にコールしてよい。』を3つ得て、このターンにこのユニットがアタックした時、手札から1枚捨てる。

 

<カエデ>「ペルソナライドはない…!」

 

<ヒユリ>「このターンで仕留めるから、特に問題はないよ。ね、お兄ちゃん」

 

<ユラン/Run>「いや、このターンで終わらせはしない。絶対にもう一度俺のターンを迎える」

 

<ヒユリ>「…強がっちゃって。らしくないんだよお兄ちゃん! “グロウアップ・ワイバーン”の起動能力で手札の“ラグン・ギムラード”を捨てて1枚ドロー!」

 

<AKI>「今、ヒユリの龍樹マーカーのあるサークルは2つとも埋まっている。“マスクス”でのコールはないが、“ラッキーナイス”、と“バッドエンド”の永続能力を狙っているね」

 

 現在ヒユリの左右前列の龍樹マーカーのあるリアガードサークルにいるユニットカード、“ラッキーナイス・ドラゴン”と“バッドエンドネクスト・ドラゴン”はそれぞれターン中に捨てた手札の枚数によってパワーが変動する。

 “ラッキーナイス・ドラゴン”は捨てた手札が2枚以上なら+10000され、“バッドエンドネクスト・ドラゴン”は3枚以上なら+15000加算される。手始めに“グロウアップ・ワイバーン”で捨てることで、その条件を満たそうとしているということだ。

 

<AKI>「しかし、“マスクス”のアタック時に手札を1枚捨てての連続攻撃をするには、最低でもどちらかの永続能力の発動条件を満たす前にアタックを行わなければならない」

 

<ヒユリ>「“バッドエンドネクスト・ドラゴン”、ヴァンガードにアタックだよ! 龍樹マーカーのパワーを得てパワー18000!」

 

<ユラン>「ノーガード、ダメージチェック。“真紅の波導 マカーディア”。トリガーーなし」

 

 ユランのダメージゾーンに5枚目のカードが置かれる。

 

<ヒユリ>「さぁ、あと1ダメージだよ。“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”でヴァンガードにアタック! 能力で、手札から1枚捨てて、その捨てたカードを龍樹マーカーのあるサークルへコール! “バッドエンドネクスト・ドラゴン”のいる右前列に“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”をコールだよ!」

 

 【GHマスクス】(自動/得/残り2回)〇【T①】:あなたのターンにあなたの手札からノーマルユニットが捨てられた時、そのカードを龍樹マーカーのある(R)にコールしてよい。

 

<カエデ>「このタイミングで“マスクス”をコール…!」

 

<ヒユリ>「手札を2枚捨てたことで、“ラッキーナイス・ドラゴン”はパワー+10000! “グランドハイター・マスクス・ドラゴン”はパワー13000!」

 

<ユラン/Run>「手札から“デュアルプレッシャー(クリティカルトリガー)”でガード! 前列2枚の“一身の剣 アキナ”でインターセプト!」

【13000→38000(13000+15000+5000+5000)】

 

<ヒユリ>「オーバートリガーを捲らなきゃ突破できない数値…。だけど」

 

<ユラン/Run>「ヒユリはさっき、そのオーバートリガーをガードに使っている。このアタックはトリガーを2枚捲っても届かない」

 

<ヒユリ>「大丈夫だよ。何も、このアタックを成功させなきゃ勝てないわけじゃないからね。ツインドライブ。1枚目・“ドラコ・バティカル”。2枚目・“ヒールトリガー(焔の巫女 レオニー)! ダメージ回復、パワー+10000を”ラッキーナイス・ドラゴン“へ!」

 

 ヒユリはダメージの“ラッキーナイス・ドラゴン”を回復し、ダメージが4になった。

 

<AKI>「大丈夫だ。Runは落ち着いてプレイできている」

 

<カエデ>「13000のアタックをトリガー2枚の効果を与えてもガードを貫通されないガードをやったから?」

 

<AKI>「もちろんそれもあります。しかし、時にそれは過剰ガードとなって後に響く。見極めが必要なガード手段。Runはこのガードを手段として取るためにあえて前のターンに前列2枚の“アキナ”をインターセプトに残したんですよ」

 

<ヒユリ>「“ラッキーナイス・ドラゴン”、パワー20000にトリガー効果、マーカーのパワー増加、“グロウアップ・ワイバーン”のブーストを加えてパワー43000のアタック!」

 

<ユラン/Run>「“カストーディアル・ドラゴン”でガード! 手札から“ジプソフィラの妖精 アシェル(ヒールトリガー)”を捨てて、その攻撃はヒットされない!」

【43000→完全ガード】

 

<ヒユリ>「っ…! だったら! “コネクトレン・ドラゴン”のブースト、リアガードの“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”で…お兄ちゃんの“アテナイアー”にアタック! このアタック!!」

 

<ユラン/Run>「ガード! “憧憬の乙女 アラナ(クリティカルトリガー)”!」

【26000→28000(13000+15000)】

 

<ヒユリ>「…そんな! わたしの、“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”のアタックがこんなに…!」

 

 すべてのアタックを終えたヒユリは自分の手札を確認する。手札には“ファルハート”、“ドラコ・バティカル”、“焔の巫女 レオニー(ヒールトリガー)”が。インターセプトは“ラッキーナイス・ドラゴン”の1枚。ダメージは4。

 

<ヒユリ>「まだ…まだ終わらない! わたしは、この力で絶対に勝つ! お兄ちゃんに! ずっと…わたしだけ置いてけぼりになんてさせない!!」

 

<ユラン/Run>「置いてけぼり…?」

 

<ヒユリ>「お兄ちゃんは…、わたしが教えてヴァンガードを始めた。なのに、気付けばお兄ちゃんはすごく強くなっていて…。AKIさんやアルターちゃんと、肩を並べるようになっていて…。わたしは。わたしは…」

 

<ユラン/Run>「見つけたぞ、本当のヒユリを」

 

<ヒユリ>「えっ…」

 

<ユラン/Run>「力に溺れてしまったヒユリが、やっとこっちに来てくれた感じだ。今の俺があるのは、ヒユリのおかげだ。ありがとう、ヒユリ」

 

<ヒユリ>「お兄ちゃ…。…! わたしはまだ負けてない! この力の前に、お兄ちゃんは負ける! 次のターンで、必ず倒す! そしてこの力が正しいことを!」

 

<ユラン/Run>「…だったらまずは宣言してもらおうか。“ターンエンド”を!」

 

<ヒユリ>「…っ。タ、ターンエンド…!」

 

〇第10ターン(ユラン/Run)

 

<ユラン/Run>「行くぞ。今からヒユリを…助けに行く! スタンド&ドロー! エネルギーチャージ! 爪牙オーダー・“折れない不滅の真理”! ドロップの“紺碧の勇気 エルペス”を中央後列にコール! オーダー上限追加!」

【ユラン:エネルギー6→9】

 

 【折れない不滅の真理】〇あなたのドロップから1枚まで(R)にコールし、あなたのヴァンガードを1枚選び、そのターン中、『【永】【(V)】:煌爪状態のあなたのユニットが3枚以上なら、このユニットのドライブ+1。』を与える。あなたはこのターンに、「折れない不滅の真理」以外の爪牙オーダーを追加で1回プレイできる。

 

<ユラン/Run>「登場した“エルペス”の能力で山札の上から3枚見て、1枚公開! …対象なし。続けて、爪牙オーダーをプレイしたことで“アテナイアー”の能力発動! ドロップの“一身の剣 アキナ”を右前列にコール! パワー+5000し、“アキナ”を煌爪状態にする!」

 

 【エルペス】(自動)〇このユニットが(R)に登場した時、山札を上から3枚見て、グレード2以下のユニットカードか爪牙カードを1枚まで公開し、ユニットカードを公開したら、そのカードを捨てる。爪牙カードを公開したら、そのカードを手札に加える。山札をシャッフルする。

 【アテナイアー】(自動①)〇あなたが手札から爪牙オーダーをプレイした時、あなたのドロップから、あなたのヴァンガードのグレード以下のユニットカードを1枚選び、(R)にコールし、そのターン中、そのユニットのパワー+5000し、煌爪状態にする。

 

<ユラン/Run>「さらに手札から爪牙オーダー・“気高き轟きの鼓舞”をプレイ! “アテナイアー”へ能力を与えて、1枚ドロー! 再び“アテナイアー”の能力で、ドロップの“アキナ”を左前列へコール! 煌爪状態にしてパワー+5000! “気高き轟きの鼓舞”の能力で、前列にパワー+10000!」

 

 【気高き轟きの鼓舞】〇あなたのヴァンガードを1枚選び、そのターン中、『【永】【(V)】:煌爪様態のあなたのリアガード1枚につき、あなたの前列にいるユニットすべてのパワー+5000。』を与え、このターンにあなたが手札から他の爪牙オーダーをプレイしているなら、1枚引く。

 【アテナイアー】(自動①)〇あなたが手札から爪牙オーダーをプレイした時、あなたのドロップから、あなたのヴァンガードのグレード以下のユニットカードを1枚選び、(R)にコールし、そのターン中、そのユニットのパワー+5000し、煌爪状態にする。

 

<ヒユリ>「2枚…!」

 

<ユラン/Run>「俺も、このターン最大値は出せない。けど…このターンでヒユリを救う! “エルペス”3枚はブーストを得る!」

 

 【エルペス】(永続)〇煌爪状態のあなたのユニットがいるなら、このユニットは『ブースト』を得る。

 

<ユラン/Run>「行くぞ。“アキナ”でヴァンガードにアタック! 煌爪状態でパワー+10000! パワー35000!」

 

 【アキナ】(自動①)〇煌爪状態のこのユニットがアタックした時、そのバトル中、このユニットのパワー+10000し、さらに[SB①]することで、相手のカードすべてのシールド-5000。

 

<ヒユリ>「ノーガード! ダメージチェック…来た! クリティカルトリガー(焔の巫女 ゾンネ)! “グランドハイター・マスクス・ドラゴン”にパワー+10000!」

 

 ヒユリのダメージに5枚目のカードが置かれた。

 

<ユラン/Run>「もう片方の“アキナ”でアタック! パワー+10000して、パワーは35000!」

 

<ヒユリ>「“ファルハート”でガード! エネルギーブラストで1枚ドローして、さらに“コネクトレン・ドラゴン”、そして“ラッキーナイス・ドラゴン”でインターセプト!」

【ヒユリ:エネルギー9→6】

【35000→38000(15000+10000+5000+5000+5000)】

 

 【ファルハート】(自動①)〇このカードが手札から、(G)に置かれた時かライドデッキからライドする際に捨てられた時、 [CB①かEB③]することで、1枚引く。

 

<AKI>「ヒユリ、もうわかっているはずだ」

 

<カエデ>「ヒユリちゃんの手札は残り2枚…。対してユランくんの攻撃は…」

 

<ユラン/Run>「ヴァンガードの“アテナイアー”に“エルペス”をブーストしてアタック。能力で煌爪状態のユニットをすべてスタンド。“アキナ”2枚を再攻撃可能にする」

 

 【アテナイアー】(自動②)〇このユニットがアタックした時、 [CB①]することで、煌爪状態のあなたのリアガードすべてを【スタンド】させる。

 

<カエデ>「残り3回…! 手札と、残りのアタック回数を見ても…足らない」

 

<ユラン/Run>「パワー41000!」

 

<ヒユリ>「っ…、ガード! “ドラコ・バティカル”、“レオニー(ヒールトリガー)”ちゃん!」

【41000→43000(13000+10000+5000+15000)】

 

<カエデ>「トリガーが1枚でも出たら…通る!」

 

<AKI>「…残念ながら。ほぼ出るよ」

 

<カエデ>「えっ…」

 

<AKI>「ここまでのRunのファイトを思い出してください。Runは、繰り返し“エルペス”の能力を使用して山札からトリガーではないカードをドロップに落としている。そして、ファイトは10ターン目にまでもつれ込んでいる。…つまり」

 

 “紺碧の勇気 エルペス”の『山札の上から3枚見て、1枚公開する。公開したカードがグレード2以下のユニットカードなら捨て、爪牙オーダーなら手札に加える。』の能力を繰り返し使用してきたユラン。それによってユランの山札は圧縮に圧縮を重ね、トリガーの出る確率を上げていた。

 

<ユラン/Run>「ヒユリ…」

 

 ユランは山札の上に手を添えると、ヒユリの笑顔を思い出す。

 

 これから起こり得ることは、“マスクス”の力を使用してAKIに敗北したヒユリの幼馴染・リエナと同じこと。たちまち、ヒユリは精神を壊すことになるだろう。

 

 しかし、ユランもわかっていた。それが束の間の苦しみであることを。今が最も辛い時であることを。それを乗り越えた先に、本当のヒユリを救いだせるということを。

 

<ユラン/Run>「…ツインドライブ! 1枚目・“海鳴のブレイブ・シューター”。トリガーはない」

 

<ヒユリ>「……」

 

<ユラン/Run>「2枚目…! フロントトリガー(狂乱の令嬢)。前列のパワー+10000」

 

<ヒユリ>「っ…!!」

【51000(43000+10000)→43000】

 

<ユラン/Run>「さぁヒユリ。ダメージチェックだ」

 

<ヒユリ>「わ…わかっているよ…! ダメージチェック! こんなところで…終わらない! この…最強の“マスクス”の力が!」

 

 ヒユリはそっと山札の上から1枚をトリガーゾーンに置いた。

 そこにトリガーマークは…

 

<ヒユリ>「“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”……!」

 

 ヒユリのダメージにそっと、6枚目のカード。“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”が置かれるのであった。

 

……

 

 ファイトが決着すると、カードを片付ける間もなく…その時がやってくる。

 

<ヒユリ>「あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ…!!!!」

 

<カエデ>「ヒユリちゃ…!」

 

<AKI>「…カエデさん。今は」

 

 AKIはヒユリを心配し、ヒユリの元へ駆けだそうとしたカエデを制止する。

 

<ヒユリ>「わたしの…力が…力が…! そんな…! わぁぁぁぁぁぁぁあぁ…!!!」

 

 精神を崩壊させ、膝をつき泣き叫ぶヒユリ。

 ユランはそんなヒユリに近づくと、そのヒユリの身体を自分の方に寄せてその小さな身体を抱きしめた。

 

<ユラン/Run>「負けるな。ヒユリ…。ヒユリなら…絶対に勝てる。本当の優しいヒユリに戻ってくれ!」

 

<ヒユリ>「あ…あぁぁぁぁぁ…! あぁぁぁぁぁぁあ…!!!」

 

<ユラン/Run>「…今は泣いていい! いっぱい泣いていい! 俺は今ここにいる! 俺は…ヒユリの兄ちゃんだから、ずっと…ここにいる」

 

 ユランの胸元に、次第にヒユリの涙が広がっていく。

 AKIとカエデも、泣き叫ぶヒユリと、ヒユリを抱きしめるユランをただ…見つめていた。

 

 ファイトテーブルにあった“グランドハイター・マスクス・ドラゴン”のカードは、静かに塵となり消滅していった。

 

……

 

<ヒユリ>「……」

 

 しばらく時間が経った。ユランは、ヒユリの叫びが収まるまでヒユリを抱きしめていた。ヒユリは泣き疲れ、そのままユランの胸元に身体を預けていた。

 

<ヒユリ>「…ありが…とう。お兄ちゃん。全部、聞こえていたよ」

 

<ユラン/Run>「そ…そっか。なんだか、急に恥ずかしくなってきたかも」

 

<ヒユリ>「ううん…。嬉しかった。わたし、お兄ちゃんにヴァンガードを教えてよかったよ。本当に…」

 

<ユラン/Run>「俺も。ヴァンガードと出会えたから、こうしていろんな出会いに恵まれた。それもこれも、ヒユリが教えてくれたから。あとがとう、ヒユリ」

 

<ヒユリ>「…うん」

 

<カエデ>「…よかった。よかったよ…」

 

 カエデも思わず涙を流しながら、ヒユリの帰還に浸っていた。

 

<AKI>「…ヒユリは強い子だね。…さて、問題はまだある」

 

<ユラン/Run>「…あぁ。ヒユリ、辛いこと聞くかもしれない。…いいか」

 

<ヒユリ>「…大丈夫。耐えるよ、わたしはユランお兄ちゃんの…妹だから!」

 

 ヒユリは、ユランが思い描いたような笑顔をする。その笑顔を見たユランも、思わず頬が緩む。

 

<ユラン>「リエナとヒユリが使っていた“マスク・オブ・ヒュドラグルム”っていうカード。それに“マスクス・ユニット”。それは誰から渡されたんだ」

 

<ヒユリ>「それは…」

 

 ヒユリは先ほどまで泣き叫んでいたことを忘れるように必至に思い出す。

 

<ヒユリ>「…今日の朝、だったかな。お兄ちゃんたちと別れて、ヒユちたちを待っていた時…。誰かから渡されたんだよ」

 

<AKI>「そこまでは…僕たちの予想通りか。その誰かは知っている人だったかい」

 

<ヒユリ>「ちょっと待ってね…」

 

 ヒユリは首を傾げながらその時の光景を思い出す。

 

……

 

 時間は、ヴァンガードチャンピオンシップ初日の朝。つまり、今日の朝にまで遡る。

 

 チーム・エクステンドの3人が揃ったユランたちは一足早く会場入りするため、ヒユリと別れた後のことだ。

 

<リエナ>「おまたせー! ヒユち! すごいね~! 大きな会場だぁ!」

 

<ヒユリ>「すごいよね! ここで今日、わたしたちはファイトするんだよ!」

 

<リエナ>「うん! リエナ楽しみ! …ってあれ、カエデさんはまだ来ていないの?」

 

<ヒユリ>「うん。もう来ているかもしれないけど、まだ合流できていないんだ」

 

 2人が話していると、そこへ1人の男の影が現れる。

 

<?>「キミたち…特別なカードに興味はないかな」

 

<リエナ>「えっ…だれ? どちら様ですか…!」

 

<ヒユリ>「…あれ? もしかして…。お兄ちゃんの知り合いだよ! 安心してリエち! この前ね、“カードライナー”っていうショップで初めて会って、お兄ちゃんを鍛えてくれた人だよ!」

 

<リエナ>「そうなの? なら、安心だね!」

 

<ヒユリ>「ところで、どうしたんですか? 特別なカード…とかなんとか?」

 

<?>「このカードだよ」

 

 男はカードをヒユリとリエナに手渡した。

 カードがヒユリとリエナの手元へ渡ると、男はハッと我に返ったかのように目を見開いた。

 

<男>「俺は…今までなにを。それに、江久世さんはどこへ…?」

 

 “江久世”と呼ぶ者の姿を探す男の目線の先に、1人の少女の姿があった。

 正確には2人だが、面識のある人物が1人だったので1人にしか目が入らなかった。

 

<男>「キミは…、ユ…ユリちゃん…!? ランラン(ユラン)の妹の…!」

 

 そこにいたのは、男とは面識があるというユラン(Run)の妹・ヒユリだった。

 

<男>「どうして…俺はユリちゃんと一緒に…?」

 

 記憶のないかように戸惑う男に、ヒユリが語り掛ける。

 

<ヒユリ>「…さん。ありがとう。…これが、わたしの力なんだね」

 

 その目はハイライトが消え失せ、その手には、例のオーダーカードが握られていた。

 

 そのカードの名は………、“マスク・オブ・ヒュドラグルム”。

 

……

 

 そして時は現在へ戻る。

 

<ヒユリ>「そうだ…! 思い出したよ! “熱”さんだよ! あのカードを渡してきたのは!」

 

<ユラン/Run>「熱!? 熱って、あのカードライナーで出会った! ブラントゲートを使っているあの熱さんのことか!?」

 

 驚くユラン。だが、それ以上にその事態に静かな怒りを表す人物がいた。

 

<カエデ>「…AKIくん? 大丈夫?」

 

<AKI>「アイツ……!」

 

 AKIだった。

 

 それから、ユランたちは自分たちのホテルの部屋へと戻り、ヒユリのホテルの部屋を後にした。

 自分たちの部屋へと戻ってきたユランたちは、明日の注意事項に目を通していた。

 

<ユラン/Run>「明日からのルール。デッキの中4枚を自由枠として設定可能…か。これってつまり、提出するデッキリストの中から4枚の自由枠を作って、その枠を対戦前に変えられるんだよな?」

 

<AKI>「そうだね。ただし、変えられるのはファイトの前まで。この4枚の枠以外は相手に知られることになる」

 

<ユラン/Run>「そうだな…。ヒールトリガーの枠を2枚は設定しておくか。残り2枚のヒールトリガーは普通のヒールトリガーでいいかな」

 

<AKI>「いいと思うよ。対戦前に相手のデッキの自由枠以外は見ることができる。それでカウンターヒールを調整できるからね。…さて、僕もリストはできたかな」

 

<ユラン/Run>「お! どんなリストになったんだ?」

 

 ユランはデッキ登録アプリに記入されたAKIのデッキに目を通すと、突然目を見開いた。

 

<ユラン/Run>「なぁ…AKI。これ…どういうことだ…!」

 

<AKI>「…次の対戦カード。僕たちの対戦相手は“チーム・ダイナマイト”。僕たちにも縁のあるチームだ」

 

<ユラン/Run>「“ダイマイト”…、熱さんたちの!」

 

<AKI>「ヒユリの件もある。少し、いや…かなり怒っていてね。俺は」

 

<ユラン/Run>「お…おれって。AKI」

 

 普段は「僕」と言うAKIが突然「俺」と言ったことにも驚くユラン。

 しかしユランはそれ以上に驚いたことは、AKIの使用デッキリストに記されたとあるカード名だった。

 

 そのカードの名は…『明日砕く王者 メグリビ・マスクス』。

 

 

 

続くー。

 

 

 

〇注目カード●

 

『一身の剣 アキナ』

所属国家:ストイケイア

種族:バイオロイド

ノーマルユニット

グレード:2

パワー:10000 シールド:5000

インターセプト

【自】【(R)】:煌爪状態のこのユニットがアタックした時、そのバトル中、このユニットのパワー+10000し、さらに【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、相手のカードすべてのシールド-5000。

【自】【(R)】:あなたのターン終了時、このユニットが煌爪状態なら、【コスト】[このユニットを退却させる]ことで、あなたのドロップから爪牙カードを1枚まで選び、手札に加える。

出自:オリジナルカード

 

 「アテナイアー」デッキの強力なアタッカー。煌爪状態にすることでその真価を発揮する1枚で、アタック時にパワー+10000と、ソウルブラストすることでさらにバトル中相手のガーディアンすべてのシールドを-5000することができ、アタックを通しやすい。また、エンドフェイズに退却させることで次のターンの爪牙オーダーをドロップから手札に加えることも可能。アニメ『ヴァンガードDivinez』シリーズの主人公「明導アキナ」とは一切無関係(ただの偶然)。

 

 

●登場人物

 

加我矢 ユラン(加我矢 癒爛)/Run(H.N.)/チーム・エクステンド

使用デッキ:ストイケイア/アテナイアー(オリジナル)

樋野 アキト(樋野 愛生人) /AKI(H.N.)/チーム・エクステンド

使用デッキ:ケテルサンクチュアリ/メグリビ(オリジナル)

叶絵 コウノ(叶絵 香乃 /Kさん(H.N.)/アルター/チーム・エクステンド

使用デッキ:ダークステイツ/ギィルゼクス(オリジナル)

 

加我矢 ヒユリ(加我矢 日癒璃))/ヒユリン(H.N)/チーム・なかよし

使用デッキ:ドラゴンエンパイア/グランドハイター・ドラゴン(オリジナル)

神定 リエナ(神定 梨恵那)/チーム・なかよし

使用デッキ:リリカルモナステリオ/ルカルファー(オリジナル)

宮川 カエデ(宮川 楓)/チーム・なかよし

使用デッキ:ケテルサンクチュアリ/ファントム・ブラスター

 

熱(H.N.)/チーム・ダイナマイト

使用デッキ:ブラントゲート/グレイトフル(オリジナル)

 

 

ヴァンガード Extend-Run 10話:兄として(3)