Legend of the Galactic Heroes
~daybreak~
西暦二八〇一年、宇宙歴一年とした遥かな未来その勢力圏を銀河系にまで拡大させた人類は人類統一政府である銀河連邦を成立させるが、やがて進取の精神を失い、その政治体制は長い年月を経て腐敗していった。社会の閉塞感を打破する強力な指導者が求められる中、各地に出没して人々を悩ませ続けた宇宙海賊を壊滅させた連邦軍の英雄は、やがて政界に転ずると民衆の圧倒的支持を得て強大な政治的権力を掌握し、首相と国家元首を兼任して終身執政官を自称、独裁政権を確立した。宇宙暦三一〇年に至って、「神聖にして不可侵たる」銀河帝国皇帝に即位して銀河帝国を建国、新たに帝国暦一年とした。みずから信奉する正義を疑わぬ英雄は、共和主義者を中心とした反対派を弾圧・粛清し、議会を解散して専制政治へと移行させた。共和主義者を排斥し弱者を社会から排除するその支配は苛烈を極める一方、自身を支持する「優秀な臣民」に対しては特権を与え、帝国を支える強固な貴族階級を形成した。英雄の死後も、至高の権力をえるのはその子孫にかぎられ、世襲だけが権力の移動のあるべき姿になったかにみえた。
・・・どこぞの百科事典から抜粋したような説明は全く耳に入らないな。
ちなみに、この世界を完璧に理解するには約十二年の年月が必要とする。
俺の実体験だから間違いない。
さらに言うと、説明を理解出来たところで大して役に立たん。
これも実体験だから間違いない。
『ちょっと、キョン!さっさとミーティングルームに来なさい!!』
俺が自室で微睡んでいると携帯通信機から大音量で、このSOS同盟軍第一艦隊の司令官・涼宮ハルヒ閣下から呼び出しを食らった。
どうしてこんな奴が司令官なのか未だに分からない。
そして、どうして同盟軍の士官学校を合格過程ラインをギリギリで卒業出来た俺が同盟軍第一艦の隊作戦参謀という役職に就けたのか、本当に分からない。
噂によればハルヒ直々の任命だったらしいが、俺にとっては迷惑千万な話だ。
『ちょっと、聞いてるの!?』
「聞こえてるさ」
『だったら早く来なさい!』
「・・・イエス・マム」
これが大事な会議だったらハルヒに言われなくとも招集されているさ。
しかし、これは絶対違う。
声を大にして断言出来る。
またくだらない事を考えているに違いない。
配属後初の任務、国境線敵国偵察の為、最前線で宇宙へ飛び立ち、それなりに困難を乗り越えようやく先日故郷の星へ帰還することが出来、一週間の休暇を頂いたというのに早くも休暇二日目で平和が宙へと四散するとは・・・横暴もいいところだ。
重い腰を上げ、ミーティングルームへと足を運ぶ。
何人かの士官候補生とすれ違い、ミーティングルームのドアが開くとそこにはハルヒの他に情報参謀の長門と補給部隊長の朝比奈さんが招集されていた。
あー、このメンバーだと確実に良からぬ事をさせようとしているな・・・。
「遅ーい!他の二人は時間通りに来たっていうのに!!」
「お疲れ様です。今お茶をご用意しますね」
「・・・」
三者三様の反応で例え説明しなくても誰が誰だか分かってしまう。
開口一番怒鳴りつけたのは、ハルヒ。
来てやっただけでも感謝して欲しいね。
俺を素敵な笑顔で出迎えてくれたのは、朝比奈さん。
あなたの入れたお茶を飲めるだけで幸せです。
最後に無表情かつ手元の本から目線を外さないのが、長門。
うん、お前はそれで良いと思うぞ。
「はい、お茶です。熱いので気を付けて下さいね」
「ありがとうございます」
その笑顔でこの星は平和になるんじゃないだろうか。
「馬鹿な事言ってないで、モニターを見なさい!」
ハルヒ、お前はひとときの幸せも俺から奪うのか?
「ほら、みくるちゃんも早く座りなさい!」
「はぁい」
パタパタと慌てて朝比奈さんは席に着いた。
「これでみんな揃ったわね?」
「で、今日はどうしたんだ?」
なんの怪しい活動をするつもりだ?
「聞いて驚きなさい!SOS同盟軍第五艦隊に新しい副司令官が配属されたわ」
「それがどうした?」
人事異動なんて珍しくない。
「馬鹿ねー。あんたみたいなへなちょこ軍人ならいつどんな時にどんな場所へ飛ばされても気にしないわ」
そのへなちょこをここに配属させたのはお前だがな。
「でも第五艦隊の副司令官よ!第五艦隊と言えば司令官が第三艦隊兼任だから実質第五艦隊の司令官ってことになるの!しかも配属された人物っていうのがね、同盟軍で一度も軍歴がないらしいのよ。ってゆーより軍経験が一度も無いって聞いたわ。士官学校も出てない、ごく一般人!そりゃあ、たまにいるわよ。でも軍歴ゼロでいきなり副司令官だなんてすっごく怪しいでしょ?だから今からその人に会ってみようと思うの!」
「涼宮さん、その方に会ってどうするんですか?」
「実力があるのならあたしの隊に配属させるに決まってるじゃない」
「お前、何考えてるんだよ。第五艦隊に配属されてるんだろ?俺達の艦隊に配属させる事なんで出来ないって」
そしてその副司令官殿にも迷惑がかかる。
「甘いわね、キョン。第一艦隊のトップはあたしなの。そのあたしが欲しいって言ったら第五艦隊の司令官に拒否権が無いのも当然でしょ!もちろんそいつが使えない奴だったり、あたしの気に入らない奴だったらそのまま第五艦隊の副司令官としてこき使ってやるわ!」
どっちにしても副司令官はハルヒにこき使われるわけだ。
御愁傷様ってヤツだな。
まあ、会うだけならまだ迷惑にはならないな。
同じ同盟軍としていずれ顔合わせも必要になるし。
「その副司令官殿は何処にいるんだ?」
「それは有希が調べてくれるって言ってたから有希が知ってるわ」
「・・・今はシュミレーションルームで作戦会議をしている」
「丁度良いわ!あそこならシュミレートマシーンがあるから実力が分かるわね。さっそく行くわよ!」
ハルヒは誰一人の意見も聞かずシュミレーションルームへ足早と向かって行った。
やれやれ。
取り残された俺達三人もハルヒの後を遅れて付いて行く。
「それにしても、噂が本当だったらすごい方ですよね」
朝比奈さんの言う通り、確かにすごい人物だ。
そしてすごく怪しい。
軍経験ゼロでいきなり副司令官なんてどっかのコネが無けりゃありえない。
「長門、お前は副司令官の詳しい情報知ってるのか?」
「涼宮ハルヒに情報収集の依頼をされた日から現在までの行動範囲は把握している。但し、配属以前の経歴及び個人情報は一切存在しなかった。第一級機密事項と判断し、それ以上の情報詮索はしていない」
えーっと、つまり詳しい事は分からないってことだな?
「そう」
長門ですら情報把握出来ないって・・・ますます怪しいじゃねえか。
もしそんな人物が自分の上司となったら・・・面倒な上司は一人で充分だ。
ミーティングルームから五分ほど掛けてシュミレーションルームへ移動すると「みんな遅いわよ!」とハルヒの声が響いた。
そしてハルヒの隣に腕をガッシリと掴まれている青年が少々困った顔で笑っている。
「この三人があたしの部下その一と二と三。みんな先の国境線敵国偵察で苦楽を共にした仲間だわ!そしてあなたがその四なるかどうか今からシュミレートするからよろしくね!みんな、彼が第五艦隊副司令官予定の古泉くんよ、仲良くしなさい!」
ハルヒの捲し立てる説明を、さも当たり前のように聞き入っている爽やかスポーツマンが俺に対して手を差し出してきた。
想像していた人物と大きく違っていた。
とんでもない噂をもっている副司令官だったからおそらく少しは若い人間だと思っていたが、歳は俺とそう変わらない風貌だ。
恐ろしく童顔、という説もなくはないが、それにしても若すぎだろう。
ちなみに、ハルヒは俺と同じ歳で第一艦隊司令官だが、こいつはくそ汚い手でこの地位に就いたのだからノーカン扱いだ。
「はじめまして、古泉一樹です。至らない事ばかりかと思いますがよろしくご教授願います」
「お、おう」
出された手を振り払う理由が無いから、俺も右手を差し出し軽く手を握る。
「俺は」
「それはキョン。ウチの作戦参謀よ。まあ、大して役に立ってないから気にしなくて良いわ」
俺の紹介にハルヒが割り込んできた。
おい、こら。
そんな紹介があるか!
「そんでその隣にいるのがみくるちゃん。補給部隊長兼マスコットキャラ」
「ふぇぇ、ま、ま、ま、マスコットキャラなんですかぁ~」
朝比奈さんはフルフルと両手を振った。
「最後に、後ろにいるのが有希。とっても頼りになる情報参謀なの」
「・・・・・・」
長門は相変わらず無表情。
「さて、紹介も済んだしちゃっちゃと始めましょうか!」
ハルヒはズンズンとシュミレートマシーンへ乗り込んで行く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ハルヒの暴走を止めたのは第三艦隊及び第五艦隊の司令官だった。
「勝手に話を進めないでくれ!古泉副司令官は我々の・・・」
「うっさいわね、文句があるなら勝負に勝ってからにしなさい!いい?これから古泉くん含めたあたし達五人とそっちの隊選抜五人でシュミレート対戦してあんた達が勝ったら大人しく諦めてあげるわ。まあ、あたしが勝つに決まってるけど、古泉くんが足を引っ張ったり協調性に欠けてるようであればコッチが勝ってもいらないけどね。とりあえず、話は対戦してからだわ。キョン、有希、みくるちゃん!さっさと準備しなさい!」
ハルヒは第三艦隊及び第五艦隊司令官に一方的に条件を押し付けた。
申し訳ございません、司令官。
俺達に拒否権はないんです。
「ほら、ちゃっちゃと始めるわよ!」
斯くして俺達は副司令官争奪シュミレート対戦をおっ始める事となった。
対戦内容としては各艦隊数機を自分の駒として操作し、大将の戦艦を陥落させた方が勝利という至って簡単なもの。
簡単なものであり、チームワークが大切となる。
「それじゃあ、行くわよ!レディ、ゴー!!」
スタートと共に敵艦から総攻撃を食らった。
遠方からの攻撃の為、ダメージは少ないがこちらのわずかに命中することによって今現在の位置を相手に教えてしまう事になる上、動きに関する選択肢がぐっと減る。
そうなると先読みされやすくなり、いずれは追いつめられるだろう。
さすが連携のとれた艦隊だ。
「もう、キョン!何やってるのよ、さっさと砲撃用意しなさい!」
「馬鹿、今攻撃したら命中率が悪くなる上に弾が無くなるだろ」
スタートと同時に総攻撃、という手は早いもん勝ちだ。
今からやったところで無駄弾を使うだけだ。
「長門、偵察機出せるか?」
「すでに三十基、索敵操作してる。しかし全て把握するにはまだ時間が掛かる」
「そうか。朝比奈さん、補給艦隊は長門のすぐ後ろに付けて下さい。あと、向こうの偵察機を発見しましたら全て撃墜してください」
「わ、分かりました」
長門の索敵結果はまだ時間が掛かる。
それまでなるべく弾数を消費しないようにし、最後に総攻撃を仕掛ければなんとか勝率は五分五分となるだろう。
少々雑な作戦だが、本来副司令官殿は向こうの副司令官となる為に配属されたのだから、負けても大して問題無い。
「ちょっと、何ちまちまやってるのよ!もういいわ、あたしが前線に出て戦うわ!『ハルヒ☆閣下☆艦隊』全速前進よ!」
「勝手に動くな!」
作戦をなんだと思っているんだ。
これがハルヒの悪いクセだ。
とにかく前線に出たがる。
というか、ハルヒはただ単に派手に動きたいのだ。
先日までの国境線敵国偵察も、本来ならそれほど難しくない任務だと言うのにハルヒの突拍子も無い行動を思いとどまらせる為に一番困らされた。
「黙ってお前は後ろでふんぞり返ってろ」
「何よ、その言い方!」
「あ、あの、喧嘩はだめですよ~」
一気に氷点下の世界になった。
その間にも敵艦は迫ってくる。
「閣下」
聞き慣れない声が、俺の耳に入る。
「閣下の素晴らしい統率指揮と武勲は我が同盟軍の栄光と共に語り継がれております。閣下が最前線で砲撃・指示をしながら勝利を手に入れる事はいとも容易いこと、と我が軍及び敵国の総帥すらも理解していることでしょう。しかし、今回は閣下の指揮下で任務を果たしてきた作戦参謀、情報参謀、補給部隊長と共に新参者である私がどのような術策を駆使するかを把握する為の戦いと聞き及んでいます。閣下は我々の後方に遷移し、全体の戦術指揮と私の術策の監視をお願いしたいと愚考する所存であります」
サイドモニターに映る副司令官は危機感のない笑顔でハルヒに進言した。
「確かにそうよね・・・古泉くんの言う通りだわ。あたしの腕をあいつらに見せたところで今更だもんね。でもあんまりモタモタしてるとあたしが全部撃ち落とすから肝に銘じておきなさい!」
「了解しました」
物は言い様というのはこの事だろうな。
上手くハルヒを思いとどまらせる事が出来た。
「作戦参謀殿」
単独モニターから俺のみに副司令官の通信が入ってきた。
「あと十分もすれば敵艦は我々の位置を把握するかと思います」
「多分そうだな」
朝比奈さんが偵察機を処理しているが、全てを撃ち落としているわけではない為、撃ち落とされなかった偵察機と撃ち落とされた偵察機の位置とタイミングを計れば今、俺達が何処にどのような配置で応戦しているか分かってしまうだろう。
「情報参謀殿が索敵終了するのに残り五分ほどと思われます。ここはひとつ賭けに出てみませんか?」
賭け、だと?
まあ、シュミレートだからどんな賭けでも出るには構わないが、これで負けるとハルヒになんて言われるか・・・。
「今、補給部隊長殿が敵艦の偵察機を全て砲撃していますが、一時中断させるんです。そして閣下と補給艦隊のみ此処に留まらせます。今まで偵察機への砲撃を素早く行っていたのをいきなり停止させれば、敵艦は我々が何かを仕掛けてくると思い、総攻撃に躊躇いが出ると思います。それに作戦参謀殿と情報参謀殿、そして私の艦隊はなるべく此処から離れ、敵艦の偵察機の索敵範囲を広げれば情報処理も送らせる事も出来ますので、その間に確実に体勢を整え総攻撃を仕掛けしょう。閣下は前線で戦いたいようですし、正面から撃てば敵艦大将は打ち取れるはずです。索敵結果が終了し、敵艦の位置情報を把握した瞬間、情報参謀殿のみ敵艦の後方に回り砲撃を開始させれば陥落も早いかと」
なるほど、その方がハルヒのイライラも解消出来るかもな。
さすが副司令官殿だ。
「いえいえ、作戦参謀殿の初期配備が適切だったからです。偵察機撃墜は単純故に荒さが出てしまうものですが、補給部隊長殿は丁寧に一定の距離で撃墜をして行く為、このような作戦が出来るのです。それに、一度に何十基も偵察機を操作するというのは並大抵のことではない所業ですが、情報参謀殿は索敵操作を短時間で行ってくれていますので、敵艦包囲が危なげなく出来ます。それもこれも、作戦参謀殿の全体指揮の素晴らしさというべきでしょう。おっと、長く話し過ぎましたね。それでは先程の作戦を皆さんに伝えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「それは副司令官自ら指示した方が良いんじゃないか?」
「私よりも、ここは信頼されている作戦参謀殿から指示をした方が動きやすいかと。それに途中でアクシデントが発生する事も考えられます。その際の対策も作戦参謀である貴殿の方が私より適切な指示が出せるかと思います」
「了解」
通信を切り替え、副司令官から提示された作戦を伝えた。
その後は、描写が面倒な為、結果だけ報告すると副司令官殿の作戦が上手くいき、見事勝利した。
ハルヒも最後総攻撃でストレス発散したのかスッキリした顔でシュミレートマシーンから出てきた。
「決めたわ!やっぱり古泉くんはウチの艦隊に連れて行くわね!安心しなさい、古泉くん。あなたには第一艦隊幕僚総長の座を与えるわ」
待て待て待て、副司令官じゃないのか?
無理矢理引っ張ってきたんだからせめて役職だけでもそのままにしてやれよ。
「何言ってるの?幕僚総長よ、幕僚総長!副司令官なんて司令官の右手程度の扱いなの。そんなのあたしには必要無いわ!自分の右手があるからね。その点幕僚総長は司令官のあたしにも意見を言っても許される役職よ!古泉くん、良いわよね?」
ハルヒの言う事なんて断っても問題無いと思っていたし、断るだろうと思っていたが、副司令官もとい幕僚総長から出た言葉は、
「拝領します、閣下」
というものだった。
「いいのか本当に?」
俺は断るなら今だけだぞ、と忠告してやった。
今ならまだ間に合う。
「断るなんて、とんでもない。同盟軍きっての功績をお持ちになっている閣下直々に第一艦隊へ配属させて頂いた上に、幕僚総長という大役を頂いたのですからこれは名誉と言えるでしょう」
そんなもんかね。
俺ならのしを付けて送り返すね。
「来週からは古泉くんを加えての任務になるわ!それまでにみんな仲良くなってなさい!これは命令だからね!」
こうして謎の幕僚総長、古泉一樹は俺達第一艦隊へ配属されたのだった。


古泉愛してるぜ×一樹Rank