日々軍事力を増強させ、アジア太平洋の現状変更を画策する中華人民共和国。その源流を孫文と陳独秀という二人の人物から辿ろうというのが本書の内容である。

 孫文、この一人の革命家は共和の理想を抱き、新中国をつくろうとした。その手段が革命であった。幾度も蜂起を起こしては失敗に至ったが、それでも彼は諦めずに闘いつづけた。一九一一年に辛亥革命が勃発し、清王朝は崩壊へと突き進んでいく。だが、革命が始まったとき、孫文は遠く離れたアメリカ中部の都市、デンバーにいた。革命の荒波は孫文を彼の望んだ道とは異なる方向へ歩ませていく。そして「革命」が成るのを見届けることなく、彼は旅立っていった。

 その後のチャイナは毛沢東によって築かれた社会主義の中華人民共和国が支配することになる。この国を統治するのが中国共産党である。その創建者が陳独秀だ。彼は初期の党指導者としての功績が現代に至るまで語り継がれている、という訳ではない。彼は所謂スターリン主義に反対し、党と訣別することになったのだ。

 党の創設者がこのような末路を辿るという事実は、彼の国の共産党組織の本質を如実に表しているように思う。

 孫文と陳独秀は二人とも新しいチャイナを模索した。同じ革命家ではあるが、その理念や行動、現在の評価は全く異なる。その二人の人生を比べ、一時の交わりを眺める本書を読めば、現代シナの新しい座標を感じられるかもしれない。