令和5予備試験論文刑事訴訟法 評価C

第1 設問1

 1本件住居侵入・強盗致傷の事実について裁判官は甲を勾留することができるか。

(1)勾留するためには勾留の理由(刑事訴訟法(以下略)207条1項、60条1項)と必要性(207条1項、86条1項)、逮捕の前置(207条1項)が必要である。

(2)本件では、勾留の理由、必要性はあり、令和4年7月1日に同一の被疑事実で逮捕がなされている。したがって、裁判官は甲を勾留することができる。

 2本件暴行について裁判官は甲を勾留することができるか。

(1)本件暴行については逮捕が先行されていない。そうだとすれば、勾留はできないとも思える。

(2)もっとも、本件住居侵入・強盗致傷の事実についての逮捕が先行することをもって、逮捕が前置されているといえないか。

逮捕、勾留の規定は事件単位で定められている(64条1項、200条1項等)。そうだとすれば、前置される逮捕の基準は事件単位で判断するべきである。そして、事件の同一性は「公訴事実の同一性」(321条1項)の有無により判断する。具体的には、両事実の基本的事実関係の同一性に、補充的に非両立性も加味して判断する。

本件住居侵入・強盗致傷の事実と本件暴行の事実は日時場所が全く異なり、基本的事実関係が全く異なる。そして、両事実は併合罪関係にある(45条前段)ため、完全に両立する。

よって、公訴事実の同一性がないため、本件住居侵入・強盗致傷の事実についての逮捕をもって逮捕前置主義は満たさない。

本件暴行の事実での勾留はできないのが原則である。

(3)もっとも、逮捕前置主義の趣旨は、比較的短期の身柄拘束である逮捕を先行させることによって不必要な身柄拘束を回避する点にある。そうだとすれば、被疑者の身柄拘束に有利であれば、裁判官は本件暴行の事実を付加して勾留できると解する。

 本件では前述の通り本件住居侵入・強盗致傷の事実で勾留がなされる以上、本件暴行の事実で逮捕を先行させない方が、その分の身柄拘束を省略でき甲にとって身柄拘束上有利である。したがって、裁判官は本件暴行の事実を付加して勾留できる

第2 設問2

 1本件住居侵入・強盗致傷の事実の事実については逮捕が前置されている。もっとも、逮捕について準抗告が認められない(429条1項2号)趣旨は、勾留の段階で逮捕の適法性を審査することが予定されているからである。したがって、逮捕の違法は勾留に影響を与える。しかし、逮捕に些細な違法があるだけで勾留を認めないとすると、司法に対する国民の信頼が害される。そこで、逮捕に重大な違法がある場合に限り、勾留は違法となると解する。

 2甲は令和4年9月7日と同年10月19日に本件住居侵入・強盗致傷の事実という同一の被疑事実で逮捕されている。そこで、後の逮捕は再逮捕再勾留禁止の原則に反し違法ではないか。

 この点、199条3項は再逮捕を前提とする規定である。したがって、再逮捕が許容される場合はある。しかし、安易に再逮捕を認めると厳格な身柄拘束期間(203条以下)を定めた法の趣旨を没却する。そこで、不当な蒸し返しといえない場合に限り再逮捕は許されると解する。

 本件では最初の逮捕後に乙は本件住居侵入・強盗致傷の事実について甲との共謀を認める趣旨の供述をしている。また、乙の携帯電話から甲との共謀を裏付けるメッセージのやり取りが記録されていることが分かった。かかる事実は甲の犯罪との関係で重要な新事実である。また、本件は事案が重大であり、かかる事実により甲の嫌疑も濃厚となった。そうだとすれば、最初の逮捕の被疑者勾留が9月28日の期間満了までなされている(208条2項、1項)ことを考慮しても、再逮捕はなお不当な蒸し返しとはいえない。

 よって、再逮捕は認められるため、逮捕は適法である。

 3再逮捕は10月19日であり勾留請求は同月21日になされているため、期間制限も満たされている(203条1項)。そして、逮捕と勾留は密接な関係にあるため、逮捕が適法であれば、勾留も適法である。よって、裁判官は甲を勾留することができる。                                              以上

 

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