令和5予備試験論文民事訴訟法 評価F

第1 設問1

 1Yの主張の根拠は、Xが①訴訟で勝訴しているため、②訴訟は訴えの利益を欠くとの理由による。勝訴判決を得た後に同一の訴訟物で再び訴えを提起する場合、原則として訴えの利益を失う。なぜならば、勝訴している以上、本案判決により解決すべき紛争は存在しないからである。

 2もっとも、①訴訟でXは訴訟物をYの賃借権の不存在確認に変更し(民事訴訟法(以下略)143条1項)、かかる訴訟物で勝訴判決を得ている。この場合にもXに②訴訟の訴えの利益が認められないか。

(1)訴えを提起するにあたり訴えの利益が必要となる趣旨は、被告の応訴の煩を防止する点にある。そして、訴えを変更できる利益関係が社会生活上共通な訴訟物の範囲内で被告は実質的に防御を尽くすといえるため、かかる範囲内での勝訴判決後には被告の応訴の煩が生じる。したがって、勝訴判決と訴訟物が異なっても、訴えの変更が可能な範囲においては、後訴は訴えの利益を欠き却下されると解する。

①訴訟の確定勝訴判決における訴訟物と②訴訟の訴訟物は訴えの変更が可能な範囲の訴訟物といえる。したがって、②訴訟は訴えの利益を欠き却下されるのが原則である。

(2)しかし、訴えの利益の上記趣旨から、被告に信義則違反があり応訴の煩の保護をすべきではない場合には、例外的に後訴の訴えの利益は認められると解する。

 Yは①訴訟で乙建物はAら3人の所有物であると主張し、この主張が原因でXは訴えを変更することとなった。それにもかかわらずYは①訴訟の確定後に乙建物はYの所有物であると主張している。かかるYの主張は矛盾挙動にあたり信義則に反する。また、この場合に②訴訟が却下判決となると、Xが乙建物を収去できず権利の実現が不当に妨げられる。

 したがって、Yの応訴の煩は保護に値しないため、②訴訟の訴えの利益は認められる。

 よって、Yの主張は認められない。

第2 設問2

 1XはYとの和解交渉におけるYの説明を信じ、やむを得ないと考えて和解に応じている。しかし、Yの説明は虚偽であった。そこで、XはYとの訴訟上の和解を錯誤(民法95条1項)により取消す(民法123条)と主張することが考えられる。

 2もっとも、和解調書には「確定判決と同一の効力」(267条)すなわち既判力(114条1項)が生じる。したがって、Xの主張は既判力に反し、認められないのではないか。

 この点、訴訟上の和解は当事者の意思に基づきなされるため、その意思に瑕疵がある場合には既判力を生じさせる前提に欠ける。したがって、意思表示に瑕疵がある場合には例外的に既判力は生じないと解する。

 よって、XとYとの間の訴訟上の和解にはXの錯誤(民法95条1項)があるため、既判力は生じない。

 Xの主張は認められる。

 2錯誤による取消しにより訴訟上の和解の効力は遡及的に無効となる(民法121条)。したがって、訴訟上の和解による訴訟終了効も消滅するため、Xは訴訟係属を前提として期日指定の申立て(93条1項)をすべきであるのが原則である。もっとも、期日指定の申立てでは紛争を解決できない場合には別訴提起(134条)によることもできると解する。

本件では、訴訟の当事者ではない乙建物の賃借人Dの利益も密接に関連することから、XはDも含めて紛争を一回的に解決する必要がある。そのため、XはY及びDを共同被告人として別訴提起をすることもできる。      以上

 

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