令和4予備試験論文商法 評価B

第1 設問1

 1 Aが本件招集通知(会社法(以下略)299条1項)に乙者の議案の要領を記載しなかったことは、招集手続の法令(305条1項)違反(831条1項1号)にあたるとの主張が考えられる。

(1)乙社の請求は令和5年4月10日になされているところ、本件総会は同年6月29日であるから、株主総会の「八週間前」までになされている。乙社は令和5年6月ごろから引き続き甲社の株式を1000株有している。したがって、「三百個」以上の議決権を「6個月」前から引き続き有する株主にあたる(305条1項)。したがって、乙社の請求は適法である。よって、甲社の行為は招集手続の法令違反にあたる。

(2)また、乙社は甲社の総議決権の10分の1を有する大株主である。かかる株主からの議案の提案を記載しなかったことは「違反する事実が重大でなく」とはいえない。また、総議決権の10分の1を有する大株主が議案の要領を記載することで本件決議の結果が変わっていた可能性がある。したがって、「決議に影響を及ぼさない」とはいえない。よって、832条2項により裁量棄却となることもない。

(3)乙社の主張は認められる。

 1 AがEを本件総会に出席させず議決権を行使させなかった行為は、310条1項に反するため、本件決議には決議方法に法令違反がある(831条1項1号)と主張することが考えられる。

(1)まず、甲社には株主総会における議決権(308条1項)の代理行使を甲社の株主に限るとの定めがある。定款自治のもと、定款による議決権の制限は合理的必要性、相当性があれば認められると解する。かかる定款の趣旨は、議決権の代理行使を株主に限ることで議場のかく乱を防止し株主を保護する点にあると解される。株主総会において議場がかく乱されると株主総会自体が成り立たなくなってしまうため、制限は合理的必要性がある。また、議決権の代理行使を会社の実質的所有者である株主に限ることで議場のかく乱を防止することができる。したがって、定款による議決権行使の制限は合理的必要性に基づく相当程度のものといえる。よって、甲社の定款自体は有効である。

(2)もっとも、かかる定款の趣旨から、代理人に議場がかく乱されるおそれがなく、議決権の代理行使を認めなければ株主の議決権の行使の機会を事実上奪う場合には、その代理人には定款の規定が及ばないと解する。

 Dは乙社の管理運営をすべて自ら行う乙社の唯一の取締役である。したがって、乙社はいわゆる一人親方会社であり、乙社の使用人はDの言う通りに動くはずである。したがって、Dは乙社の使用人としてDの言う通りに議決権を行使するはずであるため、議場がかく乱されるおそれはない。また、Aはスケジュールの都合により自らが乙社の代表として本件総会に出席することは不可能である。そうだとすれば、Dによる議決権の代理行使を認めなければ乙社は議決権を行使することができず、議決権の行使の機会を事実上奪うことになる。

 したがって、Dには甲社の定款が及ばず、Dの議決権の行使を認めなかった行為は310条1項に反する。

(3)よって、裁量棄却も認められない本件では、乙社の主張は認められる。

第2 設問2

 1募集株式はその発行により利害関係人が多数生じる。したがって、取引の安全を重視すべきである。そこで、募集株式の発行の無効事由(828条1項2号)は、発行手続に重大な法令、定款違反がある場合に限られると解する。

 2本件発行における1株当たりの払込金額は10万円である。本件発行における公正な支払金額は1株当たり20万円であるから、かかる金額は公正価格に比して著しく低い金額といえ、「特に有利な金額」(199条3項)にあたる。したがって、甲社は本件発行にあたり株主総会の特別決議が必要となる(199条2項、309条2項5号)。ところが、本件発行は取締役会限りで募集事項が定められているため、違法である。

 それでは、かかる違法が重大な法令違反といえるか。

 この点、甲社のような公開会社(2条5号)では、募集株式の発行は業務執行行為に準じるため、取引の安全を重視すべきである。したがって、特別決議を欠く場合でもなお重大な法令違反には当たらないと解する。

 よって、本件発行において特別決議を欠くことは重大な法令違反あたらない。乙社の主張は認められない。

 3本件発行は「著しく不公正な方法」(210条1号)によりなされたとして、無効とならないか。

 会社の支配権の帰すうは会社の実質的所有者である株主が決定するべきである。したがって、会社の支配権の維持、獲得を目的とする募集株式の発行は「著しく不公正な方法」によるといえると解する。

 丙社は本件発行により甲社の株式15000株のうちの6000株を有する筆頭大株主となると思われる。他方、甲社の株式を2400株有している乙社の甲社に対する支配権はこれにより著しく減少する。また、定時株主総会においてDは取締役の対立候補を擁立するとの発言をしている。そして、それを受けてAは乙社の甲社の持株比率を増やし続けるのを放置するわけにはいかないと発言している。したがって、甲社には会社の支配権を甲から奪い丙社に獲得させるという目的がうかがえる。

 したがって、本件発行は会社の支配権の維持、獲得を目的とする。よって、「著しく不公正な方法による」といえる。

 それでは、かかる募集株式の発行は重大な違法といえるか。

 この点、「著しく不公正な方法による」募集株式の発行の場合、株主は差止請求(210条)をすることにより救済される。したがって、取引安全の要請から、無効事由とならない。

 よって、乙社の主張は認められない。

 4本件発行について甲社は「通知」(201条3項)や「広告」(201条4項)をしていない。したがって、本件発行は違法である。

 それでは、かかる違法は重大な法令違反といえるか。

 通知や広告の趣旨は、株主に差止請求の機会を確保する点にあると解する。そうだとすれば、通知や広告を欠く場合、株主は差止請求をする機会が奪われてしまうため、株主保護という210条の趣旨を没却する。したがって、通知や広告を欠く場合、原則として重大な法令違反にあたると解する。もっとも、差止事由がない場合はこの限りではない。

 本件発行は前述の通り差止事由があるため、本件発行は無効である。

乙社の主張は認められる。                                      以上

 

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