諸君、ご壮健かな。
桜が咲いた、春だ。
暖かくなると、花粉や虫と一緒に現れるのが変態。やはり、湧いてきたようだ。
何か。
新型コロナウイルス。
この感染拡大は止まり、弱毒化も進み収束へと向かっている。
日本も遅まきながら警戒も緩和され、国もマスク着用の判断は個人の判断に任せることとした。
誰もが喜ぶ局面に。
狼狽している爺がいるという。
それは私の友人の販売員・ウリコから情報が舞い込んできた。
話はこうだ。
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「また来たよ…」
コロナ禍の最盛期、その爺は毎日のように売場にやってきた。ノーマスクで。
そしてショウケースの目の前に立ち、顎を突き出すようにアピールしてくる。
(きったねえ顔…)
ふぅ…でもウリコは、あの言葉を言わないと他のお客さんに怒られるので、一応お願いをする。
「マスクのご協力を…」
爺は一瞬ニヤッとして、激怒する。
「マスクは要らないの!意味ないの!国が間違ってるの!あんたに強要される筋合いないの!」
お願いだし…しかも私有地でのお願いだし…叫ぶたびに唾飛んでるし…何だか汚いし。来なくていいし、迷惑だし、話しかけたいわけでもないし。
買ってくれないし、めんどくさいし、臭いし。
しかし爺はいろんなお店で同じことをして、同じように叫んで何も買わないで帰る。毎日毎日。
しかし、ついに時はきた!
それはマスク自由化。するかしないから個人の判断となったのだ。
爺はいつものようにきて、マスクなしで顔を突き出す。しかし誰も何も言わない。目も合わせない。理由もないのだ、買わないし。
「どちらになさいますか?」
この言葉で、爺は逃げるように立ち去る。
爺はあちこちでいつものように汚い顎を突き出すが、空気。完全なるいないもの。もはや、ニューヨークの幻。
そして、トボトボと帰ることを繰り返し数日。
来なくなった。
寂しかったんだね。ウリコたちはそういいながら、全く寂しくなかったということだ。