作品中でも明確に描かれているように、イオリア計画はリボンズらイノベイドの逸脱行為や、コーナー家の裏切りや野望により、当初の筋書きを歪められてしまった。

アレハンドロ・コーナーは、CBの計画も、統一後の世界も自分の思い通りにしたがっていた。つまりCBの私物化を図り、世界の実質的支配者(黒幕)になろうとしていたと思われる。アレハンドロも戦争根絶や世界意志の統一といった、イオリア計画の理念には基本的には賛同はしていたと思われる。ただそれは、イオリア・シュヘンベルグなどという200年前のジジイの言葉に従って行うのではなく、自分がトップに立って行われても良いはずだと考えていたのだろう。

またリボンズ・アルマークも、基本的にはイオリア計画を忠実に遂行するつもりではあったと思われる。しかし、計画を実行するのは愚かな人間ではなく、あくまでも優良種のイノベイドであるべきだと考えていた。そして、そのイノベイド達の頂点に君臨するのは自分であると自負もしていた。リボンズは、自らの手腕によりイオリア計画を効率的に遂行し、短期間で一気に最大の成果を上げて、自らの有能ぶり(存在意義)を証明したかったのではないかと思う。ボクに全てを任せてくれれば、人類を正しき方向に導くのも容易なことだと言いたかったのだろう。

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アレハンドロとリボンズの共通点は、スメラギ達が立案・遂行していたミッションプランは、世界を劇的に変えるには生温くてまどろっこしいやり方だと捉えていたことだろう。もっと過激に徹底的に武力介入しなくては、世界を変えるのに時間が掛かり過ぎると考えていたように思う。有能な自分が主体でやれば、イオリア計画はもっと効率的に上手く進む…アレハンドロもリボンズも、どちらもそう思っていたに違いない。

トリニティとガンダムスローネによる苛烈な武力介入は、まさにアレハンドロとリボンズの意向を反映したものだったろう。どうせ武力介入するなら情け容赦の必要などなく、犠牲を最小限に留めようなどというキレイ事を考える必要もないと。世界を一度徹底的に破壊することで、その後の再生も根本的なところから作り直せるのだと。

その後に擬似太陽炉とGN-Xを三大国家群に提供したのも、ガンダムやマイスターは計画初期段階の道具に過ぎないという考え方に基づくものだと思う。当初から使い捨てにするつもりだったトリニティをサーシェスを雇って密かに始末させ、トレミーのマイスター達を国連軍に対する生贄のように処理させる。自らの計画に邪魔なものは容赦なく処分して排除する。用が済んだモノを維持する手間は無駄だ。それよりはサッサと始末してしまった合理的だという冷徹さ。

世界中を平和的な話し合いで協調させ、その上で統一するのでは手間隙が掛かり過ぎる。そんな悠長な事をやってる暇はない。緩やかに戦争根絶をする前に、むしろ一時的に戦禍を拡大させてでも、協調しない国々や人間は抹殺してしまった方が手っ取り早い。擬似太陽炉搭載型MSをエサにして国連軍を結成したのも、その後の治安維持部隊アロウズに繋がるようなコンセプトで、圧倒的武力を保有する軍による世界支配の布石だろう。

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GNドライヴは、CB固有の技術によって製造されたものであり、世界の軍事力に少数で対抗する為の、CBの優位性を保つ上で最大の存在だ。このイオリア・シュヘンベルグによる画期的発明品は、いずれは人類全てに貢献するエネルギー発生装置となるものだったろうが、今すぐに世界に引き渡せるものではなかったはず。例えそれが擬似GNドライヴであったとしてもだ。CB本来の計画上は、GNドライヴを全人類が手にする前に、まずは世界からは戦争が無くなる必要があったはず。

それを擬似型とは言えど早々に世界(の特定の一部)にバラ撒いたのは、アレハンドロとリボンズの仕業だ。イオリア計画の歪みの最大の根っ子は、GNドライヴがCBから外部に流出したことだろう。それによって、世界の中に擬似太陽炉搭載型MSを保有する大国(地球連邦)と、それを持たない弱小の非連邦加盟国という軋轢構造が生み出された。対等な戦力を持つ者同士の冷戦状態は無くなったが、一方がもう一方を武力で弾圧するという歪みが生じた。

支配者の言う事に従わない人間は滅べばいい。それが、早急に世界を統一する為に、最も効率的で無駄の無いやり方だと。

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ところで、こういった歪みを生み出したアレハンドロやリボンズが存在しなかったら…。イオリア計画が当初の予定通りに最も理想的に進んでいたら、世界は本当に緩やかに平和になって、人類は互いを理解し合って順調な発展を遂げて幸せになっただろうか?

コーナー家やリボンズ達イノベイドの計画介入がなかったら、擬似太陽炉搭載型MSがこんな早期に国連軍や地球連邦軍に量産配備されることはなかったはず。そして、GN粒子特有の効果によるMSの圧倒的性能向上がなかったら、その戦力を用いる独立治安部隊アロウズの結成もなかっただろう。世界には既存技術の延長線上にある兵器類が相変わらず主力であり続け、多少の技術進歩があったとしても、従来の常識を覆すほどのものではなかっただろう。

CBのガンダム4機による武力介入は、世界の軍事力を実質的に無力化し始めていた。紛争を起こす行為に伴うリスクは増大し、それを機に穏やかに軍縮が進んだ可能性もある。その後ガンダムやマイスターに世界の審判が下され、計画に含まれる滅びがあったとしても、そこにGNドライヴの流出やヴェーダへのハッキングという事態が伴わなければ、その後の統一世界は軍備縮小へと向かったのではないだろうか。

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イオリア計画は、痛みを伴う武力介入によって戦争の火種を根本的に無くし、その後は人類意思の統一、外宇宙への進出までを想定していた。軍事力拡大に回していた国家予算を宇宙開発に回すことにもなるだろうし、宇宙を舞台にしてまで人類が戦争をしたがることもない。人類が種として成熟し、争いを生まない社会構造を築き上げること。人々が知性を正しく使える精神を持ち、宇宙を活躍の場とするだけの品格と資格を手に入れること。それがイオリア計画の目指したもの。

ここまでは、何だかんだあったけど、計画達成によって世界中が平和になって良かった良かった!…という筋書きになりそうに見える。

イオリア計画には『来るべき対話』の実現という夢が込められている。これは人類が次なるステップに進んで外宇宙中への進出を成し遂げれば、地球外の知的生命体との出会いもあるはずだという明るい未来への希望に根ざしたものだと思う。その出会いを友好的にする為にも、まずは同じ人類同士が争うことがない世界を作るという意図が込められているはずだ。しかし、イオリア計画では、来るべき対話はあくまでも“人類の外宇宙進出”によるものと想定していた。そしてそれは、まだまだ数百年先になるというのがヴェーダの予想でもあった。

しかし、西暦2314年。地球外生命体との遭遇は、イオリア計画での想定よりもかなり早く訪れた。木星に出現したワームホールから、金属生命体のELSが出現した。来るべき対話は、人類が外宇宙に進出するほどの力を得る前に、外宇宙ではなく太陽系の地球圏で起きてしまったのだ。

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もしも、西暦2314年当時の世界に、地球連邦軍が擬似太陽炉搭載型の兵器を保有していなかったらどうなっていただろうか?

ELSは木星で偶然、木星有人探査船エウロパの残骸を発見し、エウロパと融合して入手した情報で地球に向かって来たと思われる。地球連邦軍が擬似太陽炉を持っていたかどうかに関わらず、とりあえず知的生命体の居そうな地球という惑星を調査する為に、ELSは必ず地球に来たように思う。

もしも連邦軍に擬似太陽炉を扱う技術が無ければ、GN-X Ⅳやガデラーザは開発出来ていない為、地球に迫り来るエウロパを破壊する事は出来なかったかも知れない。実際はガデラーザがエウロパを爆破したことで、ELSの破片は人知れず地球に降り注ぐことになったが、仮にエウロパをガデラーザが攻撃しなくても、地球連邦軍は何らかの迎撃対応はとったはずで、地球人類とELSの接触自体は回避出来なかったと推察される。ELSの真意を図り知る術を持たない人類は、結局ELSによる人類への接触行為を外敵からの攻撃と判断した可能性は高く、ELSに対する駆除を試みることになるだろう。意思疎通の出来ない異様な相手を、友好的に受け入れられるほど人類は異種との交流経験やノウハウを持ち合わせていない。

結局、地球連邦軍とELSは、相互の誤解とコミュニケーションの不成立により戦闘状態に陥る可能性が高い。となると、もしもイオリア計画が歪み無く遂行されて戦争根絶が成されていた場合、数的にも質的にも脆弱な軍隊でELSを迎え撃つ事態になったはず。

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アレハンドロ・コーナーらによって、擬似太陽炉が世界にもたらされる事が無く、刹那達の武力介入によって順調にイオリア計画が進行…。そして地球上から戦争行為が一切なくなれば、地球上の軍備は無用の長物と化す。宇宙開発の技術は多少は進むだろうが、世界が軍縮へと歩を進める中では、兵器類の技術革新はあまり起きないだろう。従来型のティエレンやフラッグやイナクトからは、数年程度では大幅な変化は起きない。しかも、その配備数は減少の一途を辿っていたかも知れない。

擬似太陽炉の設計データの存在は、本家CBのスメラギやイアンでさえも当初は知らなかった。つまり、コーナー家の裏切り行為がなかったら、擬似太陽炉はヴェーダの極秘データベースの中にしか存在しないままだった可能性がある。設計データを入手していたコーナー家でも、擬似太陽炉の製造開始までには長年を要している。ゼロからのスタートでは、擬似太陽炉でさえもそう簡単に即量産に入れるものではない。ましてやオリジナルのGNドライヴは、量産が非常に困難な装置だ。よって、ELSの襲来があってから、慌てて用意しようと思っても無理なものだ。

となれば、ELSの大群が地球に押し寄せる中、CB保有のガンダム4機程度と、地球連邦軍の旧型兵器の戦力がこれを迎え撃つことになる。地球上の人類同士は平和になっても、外宇宙からも来訪者が地球に来るとなれば、その相手も平和的にアプローチしてくるとは限らない。それをきちんと迎えて対処出来るまでの準備は地球側には無い。擬似太陽炉すら持たない地球連邦が、ELSを相手にどこまで粘りを見せることが出来ただろうか?仮にCBにイノベイター刹那とクアンタがあっても、トランザムバーストによる対話の場面に持ち込む前に、抵抗力の弱い連邦軍では、呆気なく壊滅していたのではなかろうか?

GN粒子による高性能を発揮出来る機体がCBのガンダム4機だけだったら、ELSとの対話を成功させるまでの時間稼ぎすらままならなかっただろう。

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アレハンドロやリボンズが計画を歪めたお陰で、人類は擬似太陽炉を手に入れた。三国家群や地球連邦にGNドライヴの技術が流れたことで、当たり前のように大量の擬似太陽炉搭載機が量産され普及するに至れた。大量の擬似太陽炉をエネルギーカートリッジとして使えたから、外宇宙航行母艦ソレスタルビーイングの主砲も撃てた。

確かに、地球連邦軍側に擬似太陽炉という強力な戦力があったからこそ、ELSとの戦闘は激化したとも言える。ELSが地球連邦軍の兵器と融合しコピーしたからこそ益々苦戦したとも言える。しかし、ELS本来の機動性や能力等を考えれば、ティエレンやフラッグ等の従来型のMSがELSに一時的にでも対抗し得たとはとても思えないわけで、ELSの地上到達を遅らせて時間稼ぎを出来たのは、高性能な擬似太陽炉搭載機が、地球側に多数配備されていたお陰だというのは否めない。

アレハンドロやリボンズのやり方は、地球上の人々を真の平和に導くには、独善的で無慈悲過ぎて色々と問題があった。地球上の戦争を根絶に導く上では、擬似太陽炉を世界にバラ撒くのは戦禍を拡大し必要以上の犠牲を生むという面では悪行だったとも思える。しかし、ELSの襲来までを視野に入れたら、それに対抗する為に擬似太陽炉がどれほど貢献したことか。

擬似太陽炉の普及が人類の戦闘能力を底上げした。それがなかったらELSによって人類は、呆気なく滅ぼされてしまっていたかも知れない。アレハンドロやリボンズが、ELSとの遭遇までを視野に入れて行動していたとはとても思えないが、人類にとっての結果論としては、イオリア計画に歪みが生じてたお陰で助かった…のかも?