刹那がライルを救う為に、アニューの乗るガッデスを撃墜した。それによってアニューは機体と共に爆散し死亡した。この事に対して沙慈は後に(2nd第21話「革新の扉」にて)、「他に方法はなかったの?」と刹那に訊ねた。


刹那にとっては、恐らく他にはどうしようもなかったように思う。ダブルオーライザーの調整で戦場への出撃自体が遅れに遅れていた。ティエリア達の防衛ラインが突破されて、あわやトレミーがヒリング達の攻撃に晒されそうになるギリギリのタイミングでの出撃だった。ヒリングらを撃退して、刹那はすぐにライル達のもとに急行したのだと思う。しかし、恐らく刹那がケルディムとガッデスの姿を確認した時には、もうあと数秒でケルディムのコックピットをガッデスのサーベルが貫こうとしているところだったのだと思う。


ダブルオーの手が届く距離であれば、ガッデスの進撃を物理的に止める事も出来たかも知れない。しかし、距離のある状態でガッデスの攻撃を止めるには、ビームで狙撃する以外に手がないだろう。しかも、アニューの生存を優先してガッデスへの致命傷を避けるようにピンポイントで撃つには、もう時既に遅しという切迫したタイミングだった。手心加えて撃ったとしても、それではガッデスの動きを止める事も逸らす事も出来ない可能性がある。それぐらいガッデスのサーベルはケルディムの近くに迫っていたのだと思う。敵であるアニューの命と味方であるライルの命を天秤に掛ければ、ライルを失うリスクを刹那が選ぶ事は出来ない。


あの一瞬で「どうするべきか?」という判断において、刹那にはアレ以上のことを求めるには無理があると思う。


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刹那よりも、ライルには「他に方法はなかったの?」だろうか?実は、ライルにはもう少しうまいやりようがあった気もする。


ライルも辛い状況の中でそれなりに精一杯やったと思える面はある。ライルはただの人間なわけで、精神的に動揺もすれば冷静さを失う事もある。そんなにいつも客観的に最適な判断ばかりは出来ないし、余裕がなくて何かを見落とす事もあれば、能力の限界でミスをすることもある。ライルはアニューの件では淡々と冷静ではいられない。見た目以上に内心は熱くもなっているし、色々と頭に血が上って平常心とは言えない状況だったはず。何をしても、何かが出来なくても、それなりに同情の余地はあるし仕方のない面もある。しかし、それを踏まえた上で、それでも敢えてライルの為すべきだった(かも知れない)他の手段の可能性について、考察してみたいと思う。


まず、ライルがケルディムのシールドビットやトランザムを駆使して、アニューの乗るガッデスを圧倒したのは悪くない。そうすることでアニューに対して「お前は戦場に出るべきじゃない」ということを思い知らせる効果も期待出来るし、何よりもガッデスの戦闘能力を奪わなければ、落ち着いて交渉や説得をする状況にならないだろうから。だが、ライルがガッデスにトドメを刺さずに攻撃停止したタイミングは、果たして最適だっただろうか?この点に非常に疑問というか、ライルの落ち度を感じたりする。何故ならばライルが攻撃を止めた場面は、形勢こそケルディムが圧倒的に優位だったが、ガッデスにはまだ戦闘能力が十分に残されていたからだ。


ガッデスは戦局的にはケルディムに翻弄されてフルボッコ状態だったが、まだファングを4基と左腕や顔面等を破壊されたのみ。右腕にはGNヒートサーベルとGNバルカン、GNカッターを残していたし、ファングもまだ3基残していた。完全に武装解除されていたわけではない。


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恐らくライルは状況的に自分の方が優位であり、総合的な戦闘能力もケルディムの方が高く、ガラッゾのダメージも小さくはないと判断してここで手を止めたのだろう。そして、相手が他ならぬアニューであるからこそ、ここまですればアニューはもう反撃してこないだろうと思い込んだに違いない。しかし、これを“アニューを信じた”とでも言えば聞こえは良いが、ライルの迂闊さと判断ミスだったと言わざるを得ない。相手が誰かに関係なく、敵の武装は可能な限り破壊して、アニューが戦意を喪失しているかどうかに関わらず、反撃の芽を完全に摘んでしまうべきだったと思うのだ。アニューとの対話はそれからでも遅くはなかった。


まぁ、武装を全部破壊しようにも、ファングやバルカンがガッデスのどこに内蔵されているかをライルは知らなかった可能性も否定は出来ない。だけど、少なくともヒートサーベルが主武装であることぐらいは素人でもわかるだろう?とりあえず右腕ぐらいはサーベル共々へし折っておけ。そうすればこの後何があろうとも、ガッデスの反撃の可能性は大幅に減ったはず。実は、ライルは知る由もないが、右手に持っていたヒートサーベルは武器としてだけじゃなく、ファングの制御アンテナも兼ねていたので、これを排除するだけでもファングのコントロール能力をも低下させられたのだ。この事を知らなくても、サーベルは奪っておいて然るべきだから、これを怠らずにやっておけば、その後の展開が大きく変わったはずだ。


また、この後ライルはケルディムの両手に持っていた、GNビームピストルⅡをカッコつけて放り投げ、空いた両手でガッデスのコックピットハッチを強引に剥ぎ取りに掛かる。この行為もちょっとどうかと思う。確かにこの思い切りの良さは見た目にはカッコイイし、ライルもきっと内心で自分の大胆な行為に酔っていたに違いない。しかし、この“ええかっこしい”で後にしっぺ返しを食らう事になる。GNビームピストルⅡは攻撃のみならず、近接戦闘時には敵の剣撃を受け止める防御兵器ともなる。これをポイッと (´ー`*)ノ⌒゚ と安易に手放したことで、ケルディムは後にガッデスのヒートサーベルやファングから身を守る術がなくなる。ライルが殺されかけたのは、実は誰のせいでもない自業自得な面もあるのだ。


ガッデスの反撃手段を完全に奪い、さらに自分自身の武装はきちんと確保して、圧倒的優位だった状況を最後まで油断なく崩さない事。その上でアニューを取り戻す手段を講じたなら、アニューが刹那に撃たれるような事態も、根本的に回避出来た可能性がある。この点においてライルは迂闊で配慮に欠けていたと思う。さすがのリボンズも、武器のないガッデスではアニューを乗っ取っても攻撃のしようがない。まぁ、敢えて言えばガッデスを自爆させるという手があったのかも知れないが…。


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また上記以外にも、アニューをガッデスから降ろす手段として、強引にコックピットハッチをむしり取る以外の方法はなかったのか?と思う点もある。


ガッデスは今回初登場だが、ほぼ同系のガデッサ、ガラッゾとの交戦データはCB側にも十分にある。ガ系MSの特徴のひとつとして、その背部に脱出ポッド(擬似太陽炉搭載コアファイター)が装備されている点がある。これまでのガ系MSとの対戦において、機体を大破させた場合にイノベイド達は、毎回この脱出ポッドにて迅速に戦線離脱するという実績がある。いきなりコックピットを撃ち抜いてパイロットを殺してしまったり、脱出の暇もないほどに一気に機体が爆発した場合はダメだろうが、そうでない限りはガ系MSを完全に戦闘不能状態にまで大破させれば、自然とパイロットは脱出するという予測が立てられて然るべき状況にあった。


ガッデスに対するケルディムの攻撃をもう少し続けて機体をもっと破壊する事で、アニューは脱出ポッドでガッデスを離れたのではなかろうか?脱出ポッドは確かに飛行速度は速いが、ガッデスから切り離されるタイミングを見計らっていれば、遠くまで飛び去る前にケルディムのトランザムで捕獲する事も出来たのでは?脱出ポッドには武装は無いようなので、この場合もアニューからの反撃を予防する事が出来る。丁度、ついこの間ティエリアがリヴァイヴを捕虜にした際にこの手を使ったんだから、それを真似て応用するのがライルの戦術としても効果的だったように思うのだが?この方が無難でスマートなアニュー奪還では?


まぁ、乱暴に強引に、やや暴力的に、まるで女を犯すかのようにガッデスの装甲を脱がせる行為で、ライルは自分の男らしさをアピールしたかったのかも知れないが。アニューをなだめすかして懇願して説得するのではなく、有無を言わせぬ男の熱さで押し切るように。


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だが、ライルが本気で真剣にアニューを取り戻したいと思うなら、自分の感情ばかりに突っ走った行動を取らず、もう少し慎重さと洞察力を持って動けば良かったようにも感じる。ライルは恋愛感情に突き動かされて行動していた為、少し興奮状態で自分の言動に酔っていたフシがある。


だから、沈着で合理的な手段ではなく、自分らしさ全開の大胆な行為に出たのだと思う。それは、アニューの心を動かして、愛情を確かめ合う上では悪くはなかった。だが、アニューがリヴァイヴと脳量子波で繋がって、ライルの予想外の展開で裏切りという事態が発生した事実を忘れている。アニューの心を動かす事が出来ても、敵がそれだけでアニューをライルに簡単に返してくれるはずがない。その点にはライルは考えが及んでおらず、警戒を怠ってスキを作ってしまった。要は、ライルはもう一歩の所までは情熱の赴くままの行動で辿り着いたが、最後のツメが甘かったという事になる。ライルは目先の“アニューの気持ちを説き伏せる”という点にしか、視野が働いていなかったかも?


ただ、仮にアニューの生身を取り戻して確保する事に成功したとしても、それでその後も穏便に済んだとは言えない。アニューがイノベイドである限り、リヴァイヴとの脳量子波の繋がりがアニューにどういう影響を及ぼすかわからないし、アニューがいる限りこれまで同様にトレミーの場所はリヴァイヴに筒抜けになる。そして何よりも恐ろしいのは、リボンズが脳量子波でアニューをリモートコントロール出来てしまうという事実だ。こうなるとアニュー自身の意志に関係なく、アニューがいつ再び乗っ取られてしまうかわからない。アニューがトレミーに無事に戻ったとしても、生身のアニューが突然豹変し、ライルや他のメンバーに凶行を働く可能性もある。


ライルの腕に抱かれるフリをして、ライルの殺害を企てるかも知れない。それを防ぐ手立てを講じられない限り、アニューを本当に取り戻した事にはならなかったとも言える。なので、ライルがどんなに上手にアニューをトレミーに連れ帰ったとしても、何らかの悲劇は避けられなかった可能性がある。