2ndシーズン第19話「イノベイターの影」におけるCBとアロウズの戦闘中に、沙慈・クロスロードとルイス・ハレヴィが再会を果たす。といっても直接面と向かってではなく、ダブルオーライザ-のトランザムによって作り出される、意識共有空間内での話だが。


通常、トランザムによる意識共有中の映像表現の大半は、俗名「裸祭り」等と揶揄される、白い異世界のような仮想空間での一糸纏わぬ姿での会話だ。初めてのオーライザーとのドッキングの際も、後々の刹那とグラハムの時も、劇場版でELSとの対話を初めて試みた時も。しかし、沙慈とルイスとの間で表現された仮想空間は、特例的に趣の違う映像表現となっていた。


宇宙空間の、低軌道ステーションかどこかの場所から、青い地球を見下ろした場所。裸でもなければパイロットスーツ姿でもなく、沙慈もルイスも私服姿で。まるで実際に再会しているかのように。これは演出上のご都合主義…とも言えなくはないが、どうやら沙慈の心象風景が投影されているらしい。要するに沙慈の望むイメージをルイスに言葉としてではなく、強いイメージとして伝えた結果作り出されたようだ。沙慈にとって、宇宙で働く夢を描いたキッカケの場所は、1stシーズン第5話でルイスと一緒に見た青く美しい地球の姿だった。ルイスとの再会を夢見て勉学に就職に頑張り続けて来た沙慈にとっては、ルイスを宇宙で待つ原点とも言える場所。この青い地球の見える場所での再会を、5年間ずっと思い描いてきたということなのだと思う。


互いに私服姿というのも、沙慈の望みの反映だ。沙慈が一番望んでいる事は、ルイスとの楽しかった思い出の日常に再び戻る事。オーライザーやカスタムアヘッドのパイロット姿なんかではなく、ごく普通の日常生活の姿でルイスと会いたかったに違いない。そしてルイスに普通の女の子に戻って欲しい。そういう沙慈の強い願いが、意識共有空間のイメージとして二人の会話の舞台として形成されたのだと思う。


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ルイスに対する正直で真っ直ぐな言葉、「ずっと待ってた!会いたかった!ルイス!ルイス!!…」という呼びかけから、この意識共有領域に突入した。


沙慈は語りかける。「5年前も、こうやって2人で地球を見たよね?あの時僕はこの青い地球を見て、宇宙で働こうって決めたんだ。そしていつか、この景色をもう一度君と見ようと、そう思ったんだ」と。沙慈の語り方は、学生の頃と変わらない温かさと純粋さと律儀さを、今も持ち続けているとルイスに印象付けた気がする。しかしそんな沙慈をルイスは素直には受け入れられず突き放そうとする。「もう、会わないと決めていたのに…」と。会いたかったと言う沙慈に、会う気などなかったと告げることで、沙慈との距離を取ろうとしたのだと思う。沙慈が凹んで傷つくだろうと思いながらも。


しかし、沙慈は学生時代よりは強く逞しく成長していた。ルイスが実は自分と2度と会わないつもりだったと知らされても、その程度の事では挫けない。「でも…僕達はこうして出会えた」と明るい声のままで食い下がる。「戻ろうルイス、あの頃へ。何もかも穏やかだった、あの日常へ」と。勿論ルイスはそう簡単に頷くはずはない。「出来ない…」と一言答える。ルイスの心はまだまだ頑なに閉ざされている。


ここで沙慈が「僕はソレスタルビーイングじゃない、ただ巻き込まれてあそこに…!」と釈明するが、ここは聞いていて個人的にはちょっと引っ掛かった。自分の浅はかな行動のせいでカタロン基地を壊滅に追いやり、その責を痛感して自らの意志でトレミーに残るとまで言ったはずなのに、この言い訳はちょっと無責任というか、また被害者づらだなと。でもまぁ、ルイスに対してはあまり細かく説明しても話がややこしくなるだけだし、限られた時間で説得しなければならないので、ここはしょうがないかと割り切って。


しかし、ルイスが元の日常に戻れないと言う理由は、そんな事とは関係なかった。そういう次元の話じゃない。ルイスは沙慈に銃を向ける。これは仮想空間内なので当然本物の銃ではないが、ルイスの軍人としての意志と覚悟を象徴したものだと思う。沙慈が自分の望みをこの地球の見える空間として具現化したように、ルイスが沙慈に向けてイメージとして伝えた心情の表現なのだと思う。ルイスは両親の仇を討つ為にアロウズに入隊して銃を手にする道を選んだ。そのことをもっともわかりやすく沙慈に突きつけるつもりだったのだろう。それと、以前にアンドレイから「他人の命は奪えても、肉親は出来ないのか?」と問われて、沙慈を撃てるだろうか?と思い悩んだ自分を、試すつもりもあったような気がする。(沙慈は肉親ではないけれど)


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ルイスは語る、「統一世界、恒久和平を実現する為、私はこの身を捧げたの」と。「世界を乱すソレスタルビーイングを倒す為。そして、ママとパパの仇を!」と。この台詞の前半は自分に言い聞かせてる建前で、後半こそが本音であると思うけど。自分の本音に建前の大義名分を被せて、自分の決意が揺らがぬように自他に対して取り繕っている気がするが。そして、私怨による仇討ちという本質を、大義で誤魔化して正当化しようとしてる。沙慈に銃を突きつけ大義を語りながら銃の撃鉄を起す事で、自分は沙慈を撃てる…撃つ覚悟がある!と思い込みたがってるところもあると思う。そして、出来れば自分の覚悟を見せることで、沙慈が怯んで諦めてくれれば良いなとも思っている。本当は沙慈には軍人となった自分を見せたくなかったはず。それに本当は沙慈を撃ちたくはない。沙慈にはこの場をサッサと去ってもらいたい。気の弱かった沙慈ならば、脅せば去ってくれるかも知れないと思ったのかも?「もし、邪魔をするなら、あなたを撃つ!」と。


しかし、沙慈は引っ込まない。「おかしいよ?君はそんな女の子じゃなかった…何が君を変えたんだ?」と。沙慈がここで、ルイスの恒久平和実現の意志をウソだと否定したり、仇討ちなんて愚かでくだらないから止めろなんて正論でルイスを論破などしようとしたら、ルイスとの関係はこじれた気がする。沙慈が理屈でルイスを説き伏せようとしたならば、ルイスは沙慈に対して「何もわかってないくせに!」と余計に心を閉ざしただろう。でも、沙慈はここで優しくて賢明な対処をした気がする。沙慈は下手な理屈でルイスの行為を過ちだと決めつけるような事はせず、ただひたすらに自分の知っていたかつてのルイスの姿を訴える。

自分の意志で変わったと言うルイスに対して、その一点だけは「それは嘘だよ!」と強く否定して。「僕は知ってる、ルイスのこと。優しい女の子だってこと。宇宙に行く為、一生懸命勉強したことも」と。「我が侭を言って、相手の気を引こうとする不器用なところも」まぁ、沙慈はそれで散々振りまわされた本人だからな。「本当は、寂しがり屋だってことも」…それは別に沙慈がルイスの特別な心の奥底を暴き出したわけではないけれど、素朴で素直な理解だからこそ、難しい理屈以上にルイスの心に響いたような気がする。沙慈はルイスに銃を…ルイスの頑なな覚悟と気迫を見せられながらも、その銃はルイスが無理をして意固地になっているだけのものだと気付いていたような気がする。それはGN粒子の効果による心の伝達の恩恵もあったかも知れないが、それ以上に沙慈は以前からルイスを、良く理解していたからだと思うのだが。


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だから沙慈は恐れなかったし怯まなかった。ルイスは引金を引かないだろうと信じていたし、例え引いてもそれを甘んじて受けるつもりであった気がする。強がって覚悟を装ったルイスに比べて、ルイスへの真摯な思い(愛情と言ってもいい)の強さで、逆にルイスを気押した沙慈だった。自分が信念だと思い込んでいた物が揺らいで戸惑うルイスを、そっと優しく抱き締める沙慈。その抱擁は、父を殺して昇進した後のアンドレイからの抱擁とは比べ物にならないほど温かかったはず。


その後、ルイスは動揺の余り感情が一時破綻し、そこにアンドレイの駆るアヘッドの介入、ダブルオーライザ-のトランザム限界時間と来て、沙慈のルイスに対する説得は中断を余儀なくされた。結果的にはルイスを取り戻し切れなかった・しかし、沙慈の語りかけはルイスに対して非常に効果的に行われたと思う。沙慈が自分の都合や感情に走り過ぎることなく、限られた時間内に真剣に丁寧にルイスに語りかけた。ルイスを尊重して大事に扱いながら、自分の気持ちをしっかりとわかりやすく素直に伝えたのが功を奏したと思う。この回の説得は結果的には志し半ばで終わってしまったが、ルイスの心には大きな波紋を投げかける事には成功したと思う。これが後々の結果に結び付いたと思う。