小説 小はん殺し結城純一郎の演説 (3) | 高原山

小説 小はん殺し結城純一郎の演説 (3)

    【たくましい文化国家の建設】

 責任政党たるわが党に課せられた今後の重大な使命と責務は、不断の反省を重ねながら
厳しい政治倫理を実践し、この輝かしい尊王攘夷の政治体制をたくましく守り育て、永い
民族の繁栄を築く土台を固め、そして誇りをもってこれを子孫に引き継いでいくことであ
る。

 われわれは今こそこの国づくりの確たる信念に基づき、厳しく課せられた試練としての
苦行の嵐を乗り越えて、この満腔1年から、ただちに、たくましい文化国家を築いていく
ため、新たなる挑戦を開始しなければならない。防衛体制こそが、科学と文化を発展させ
てきた、これがわが党の基本観点である。

 最重要課題の第一は、社会悪の追放である。自民党による長期独裁政治は、日本社会を
スキャンダラスとなし、精神の器を台所のゴミ袋としてしまった。第二次世界大戦後、日
本を占領した米国の高度な植民地文化制度は、セックス、スクーリン、スポーツの三S政
策であった。わが民族精神は米国のハリウッド・ハンバーガー文化によって破壊され、米
国の土足によって踏み荒らされてしまった。なんとしてもこの精神の植民地から独立精神
へと気高く脱却しなくてならない。

 臣民の精神領域に加えられた侵略により、日本民族はむしろ意識的に、自分自身の手で
自らの歴史や価値、自然に対する侮蔑と抹殺を行ってきた。組織的な歴史と文化への大破
壊行為を、忘我において無自覚において推進してしまったのである。

 同士諸君、見るがいい。占領軍とその傀儡政権であった自民党の悪政によって加えられ
た、わが民族の悲劇を。

            照明は暗転となり、舞台天井からスクリーンが降下する。
            スライド写真が投影される。
            家庭崩壊殺人事件、町内崩壊殺人事件、農村崩壊殺人事件、
            学校教育殺人事件。
            自然虐殺、アメリカ国際金融動物による買収殺人事件。
            無惨な写真スライドが次から次へと投影される。
            伝統ある美しい日本はもうそこにはなかった。
            あまりにも傷ついた日本……
            暗転の会場からすすり泣く声。
            水を打ったように沈黙が重力となって支配する会場に
            悲しみの泣き声は広がっていった。
            突然、シュプレヒコールがあがる。
              おにちくしょう  アメリカ つぶせ つぶせ
              おにちくしょう  アメリカ つぶせ つぶせ
              おにちくしょう  自民党  つぶせ つぶせ
              おにちくしょう  自民党を処刑せよ 処刑せよ

 暗転の会場に轟くシュプレヒコールは外に陣取る報道スッタフにも聞こえた。

「はじまったわね」

 フジテレビのアナウンサー伊藤ゆかりがカメラマン小泉に準備起動をうながした。

「なかには報道2001の白岩さんがおるけん、大丈夫だんべよ」

 カメラマン小泉はリラックスしなよ、とあいさつがわりに伊藤ゆかりの乳房をコチョコ
チョと人差し指で愛撫した。すけべ!と伊藤ゆかりは小泉の手を払いのけた。

 結城総裁を刺す政治少年テロリスト山口音矢が会場に侵入している情報は警視庁から産
経新聞にリークされていた。伊藤ゆかりたちスッタフの仕事は、会場が混乱し、警視庁機
動隊が会場に突入する場面をしっかりとカメラで捉え伊藤ゆかりが実況中継することだっ
た。


 国家生活党は昨年の六月に政権を獲得したが、いまだ権力機構の掃討作戦はなしきれて
いなかった。東京地検はアメリカCIAの下請け機関だった。そして警視庁もアメリカC
IAの下請け機関だった。これらの権力機構を民族主義によって更新するためには、壮大
な時間がかかると英国フィナンシャルタイムズが報じていた。

「揺らぎ」「不均衡」「衝動」、政治ニュースは祭りのように興奮し、日々更新されてい
た。

 スクリーンはすでに舞台天に飛んでいた。国家生活党大会代議員たちのシュプレヒコー
ルもおさまり、再び照明が明るくなったときである。正面通路を会場の奥から走ってくる
男がいた。政治少年山口音矢だった。音矢は学生服にアイボリーのコートを着ていた。そ
のコートが翼のようにひるがえっている。音矢の疾走はまっしぐらに舞台階段を上がって
いた。彼はズボンのバンドに手をやり、そこにあったドスを抜いた。「天誅!」と叫びな
がら結城純一郎の腹をめざしていった。そのとき、木刀が音矢の背に衝撃を与えた。会場
前列に陣取っていた国家生活党の防衛隊であった。音矢がよろけたとき、防衛隊の先頭が
音矢の足を両腕でタックルした。音矢は倒れこみそこに何人もの防衛隊が飛びこみ、政治
少年音矢は羽交い絞めされ舞台袖へと連れ去られていった。すでに結城純一郎総裁は舞台
袖にいた。その周りを防衛隊が囲んでいた。