小説 小はん殺し結城純一郎の演説 (6)
飯田勲隊長は舞台袖から再開された結城純一郎総裁の演説をしばらくながめていた。防
衛隊員にあとをたのむと任せ、袖から楽屋口へ歩いていった。防衛隊の控え室には、政治
少年山口音矢が椅子に縛られていた。
「これから打ち合わせをする、ヤツは別の部屋に移動させ監視しておけ」
隊長は防衛隊員に指示を出した。ふたりの防衛隊員が椅子に縛った音矢を持ち上げ、部
屋から移動する。
控え室にはそれぞれの防衛部署からキャップが続々と集結してきた。防衛隊員の制服の
ズボンとジャンパーは黒色だった。布の素材は機動隊の制服と同じ仕様だった。それぞれ
が黒い野球帽をかぶっていた。上から下まで黒衣装だった。情報チームのキャップが切り
出した。
「靖国神社境内には続々と旧右翼が集結しています。国家生活党大会撲滅集会が午後一時
から開催されています。主催は旧右翼の連合ですが、自民党青年部の杉山大蔵が連帯あい
さつで来ております。旧右翼連合による集会開催は、自民党幹事長の武部勤による策略で
あることは間違いありません。自民党は旧右翼を使い国家生活党大会が中止に追い込まれ
るよう画策しております。午後四時からデモ隊が出発します。コースは靖国通りから駿河
台に向かいお茶の水駅で流れ解散となっておりますが、旧右翼連合はわれわれの大会会場
である九段会館に突入してくると推測されます。すでに旧右翼の街宣車は三十台ほどが靖
国神社の門の前に並び、国家生活党を皆殺しにしろとマイクでがなり上げております。街
宣車の中には日本刀や長ドスなどが準備されております。武器に刃物を使用することは間
違いありません。街宣車もろとも九段会館に突入してくることは十分に予測できます。靖
国神社で定点観測しているルポからの報告によりますと、現在の集会参加者は約二千人、
デモ隊が出発する頃には三千人にふくれあがると推測されます。他方、左翼ですが駿河台
明治大学アカデミーコモンにおいて午後一時からファシズム国家生活党大会粉砕集会が開
催されています。ルポ報告によりますと全国大学全共闘、全国反戦青年委員会、全国反帝
高校生評議会による主催です。屋内アカデミーホールで一千名、屋外明大スクエア(広場)
にて一千名、合計数およそ二千人。デモ出発は午後五時です。コースは駿河台から靖国通
り、新宿駅解散です。新宿駅において暴動をたくらんでいると推測されます。左翼過激派
は靖国通りから九段会館に突入してくる推測されます。武器は火炎ビンを使用することは
間違いありません。集会参加者が占拠したアかデミーコスモの中に火炎ビンが入ったケー
ス箱が外から運ばれたのを定点ルポが望遠鏡で確認しました。旗竿部隊は五百人ほどです。
竹竿によって九段会館に突入してくると推測されます。鉄パイプで武装した決死隊の存在
はまだ未確認ですが、おそらく一〇号館か一四号館に待機しているのだと推測します。左
翼は格差社会と階級の固定化による下層国民の不満を暴動によって爆発させる戦術です。
国家生活党大会を実力で粉砕し、労働者階級のたぎる怒りを内乱へと転化せよと絶叫して
おります。以上」
いよいよ首都決戦の激突がはじまると控え室には緊張が走った。
「武道館の現状を報告しろ」
隊長は参謀で臣民軍担当の副隊長である世耕弘成参謀に促した。
「武道館は現在、ロックコンサートパーティを偽造し、武道館の中はロック音楽の大音量
がうなり国家生活党メディア音楽団員が舞台で演奏しております。全国から結集した国家
生活党臣民軍兵士はロックコンサートの観客を偽装し、一万名が武道館で待機しておりま
す。完璧なチェック体制により、敵のスパイや警視庁公安など、一匹として武道館へは潜
入させておりません。大会をなんとしても防衛するという戦闘意欲に兵士ひとりがひとり
が燃え上がっております。いつでも動けます」
「よし、臣民軍を午後三時に武道館から出発させろ。敵は靖国神社の旧右翼と駿河台の左
翼だ。一挙に壊滅しろ。わが党軍の戦略は大会を成功させることにある。戦術としては大
会防備でありながら、先制的に戦場を創出することにある。大会防衛でありながら先取り
として敵に攻撃を加える。戦場を敵味方彼我の関係において、わざとこちらから創出し、
最初から最後まで主導権を奪取する作戦だ。九段会館の外広場は旧右翼突入によって戦場
となるため、大会は武道館に移動する。九段会館での大会は結城純一郎総裁の大会議案基
調報告が午後三時半に終了予定となっている。ここで一旦大会を打ち切り、代議員一千名
は九段会館から武道館に向かってもらう。九段会館からの出発は午後三時五十分とする。
九段会館ホール裏の舞台搬入口から縦隊で党幹部と代議員は九段会館から脱出。九段会館
の裏から千代田区役所の裏を通過し、千代田公会堂の脇から内堀通りに出て、清水門から
北の丸公園に向かう。北の丸公園から党幹部と代議員が武道館の中に入る。党幹部と代議
員の隊列による移動行程の脇は防衛隊が固める。武道館での大会再開は午後六時とする。
それまで代議員には夕食をとってもらう。臣民軍、防衛隊、党幹部、代議員の夕食は、お
にぎりだが、国家婦人同盟が武道館に届けてくれる。夜の部は都道府県本部と各支部から
選出された代議員の発言となる。明日の予定だが武道館において午前の部は引き続き代議
員発言。午後の部は午後三時まで代議員発言。その後、大会報告の採択。そして中央幹部
委員の選出となる。午後五時が大会終了予定。今日と明日が大会防衛の決戦だ。臣民軍は
三個師団とする。第一師団は靖国方面隊、四千の部隊で靖国神社の旧右翼に襲い掛かれ。
火炎ビンを武器につかうと靖国神社を燃やしてしまう危険性がある。武器はゴキブリ退治
のバルサンをつかえ。目潰しの煙を一斉に投げ込みナチス棒と鉄管で殲滅しろ。デモ隊の
先頭を九段会館への突入へとおびき寄せ一挙に襲え。戦場は靖国神社境内と九段坂靖国通
りだ。左翼の定点観測ルポも靖国神社にいるはずだ。わが臣民軍が旧右翼部隊を壊滅すれ
ば、その情報はすぐさま明治大学で集会を開いている左翼どもに伝わるはずだ。第二師団
は駿河台方面隊。四千の部隊で明治大学から出発する左翼デモ隊に襲い掛かれ。戦場は明
大アカデミーコモス前の明大広場と駿河台明大通りの坂だ。左翼は火炎ビンを武器として
使用するだろう。高圧水銃のドラゴンを出動させ、水攻めにしろ。敵は烏合の衆として逃
げ惑う。そこを襲い掛かれ。駿河台で壊滅しろ。靖国通り、駿河台明大通りも車の交通が
激しい道路だ。車の往来をスットプして戦場に転化しろ。第三師団は武道館防衛隊。二千
で武道館防衛に従事しろ。武道館から靖国方面隊と駿河台方面隊を送り出した後の武道館
防衛の指揮は、防衛副隊長である世耕弘成参謀がする。大会防衛隊が九段会館から党幹部
と代議員を無事、武道館まで移動させる間が防衛の勝負だ。靖国方面部隊は旧右翼を殲滅
した後、武道館にすぐさま帰還し、世耕弘成副隊長の指揮下に入り武道館防衛体制に従事
しろ。駿河台方面部隊は駿河台で決着がついたら武道館へと撤収を開始しろ。警視庁機動
隊が騒乱罪を適用し、武道館を包囲するだろうが、ここで長期持久戦として対峙しろ。こ
の戦争は臣民軍の長征への出発としてある。思想戦争として戦え。ふたつの戦場での勝利
をもって、われわれは日本臣民軍創設に向けて、自衛隊に乗り込む。自衛隊を日本臣民軍
として再編するためである。今日の戦争は国家生活党臣民軍から日本臣民軍への飛躍をか
けた戦争であることを肝に銘じよ。イデオロギー戦争としての実践訓練だと思え」
隊長はもはや将軍であると防衛隊のキャップたちは思った。ふたつの戦場、首都決戦に
誰もが武者ぶるいした。膝がガクガクと自動的に動いている。大会を成功させ、同時一体
として、ふたつの戦場で勝利する。今日の戦争の後も警視庁機動隊との長期持久戦の対峙
は、突撃隊である国家青年同盟が占拠する自民党本部ビルと武道館というふたつの場所と
なる。指導主体が問われていた。
衛隊員にあとをたのむと任せ、袖から楽屋口へ歩いていった。防衛隊の控え室には、政治
少年山口音矢が椅子に縛られていた。
「これから打ち合わせをする、ヤツは別の部屋に移動させ監視しておけ」
隊長は防衛隊員に指示を出した。ふたりの防衛隊員が椅子に縛った音矢を持ち上げ、部
屋から移動する。
控え室にはそれぞれの防衛部署からキャップが続々と集結してきた。防衛隊員の制服の
ズボンとジャンパーは黒色だった。布の素材は機動隊の制服と同じ仕様だった。それぞれ
が黒い野球帽をかぶっていた。上から下まで黒衣装だった。情報チームのキャップが切り
出した。
「靖国神社境内には続々と旧右翼が集結しています。国家生活党大会撲滅集会が午後一時
から開催されています。主催は旧右翼の連合ですが、自民党青年部の杉山大蔵が連帯あい
さつで来ております。旧右翼連合による集会開催は、自民党幹事長の武部勤による策略で
あることは間違いありません。自民党は旧右翼を使い国家生活党大会が中止に追い込まれ
るよう画策しております。午後四時からデモ隊が出発します。コースは靖国通りから駿河
台に向かいお茶の水駅で流れ解散となっておりますが、旧右翼連合はわれわれの大会会場
である九段会館に突入してくると推測されます。すでに旧右翼の街宣車は三十台ほどが靖
国神社の門の前に並び、国家生活党を皆殺しにしろとマイクでがなり上げております。街
宣車の中には日本刀や長ドスなどが準備されております。武器に刃物を使用することは間
違いありません。街宣車もろとも九段会館に突入してくることは十分に予測できます。靖
国神社で定点観測しているルポからの報告によりますと、現在の集会参加者は約二千人、
デモ隊が出発する頃には三千人にふくれあがると推測されます。他方、左翼ですが駿河台
明治大学アカデミーコモンにおいて午後一時からファシズム国家生活党大会粉砕集会が開
催されています。ルポ報告によりますと全国大学全共闘、全国反戦青年委員会、全国反帝
高校生評議会による主催です。屋内アカデミーホールで一千名、屋外明大スクエア(広場)
にて一千名、合計数およそ二千人。デモ出発は午後五時です。コースは駿河台から靖国通
り、新宿駅解散です。新宿駅において暴動をたくらんでいると推測されます。左翼過激派
は靖国通りから九段会館に突入してくる推測されます。武器は火炎ビンを使用することは
間違いありません。集会参加者が占拠したアかデミーコスモの中に火炎ビンが入ったケー
ス箱が外から運ばれたのを定点ルポが望遠鏡で確認しました。旗竿部隊は五百人ほどです。
竹竿によって九段会館に突入してくると推測されます。鉄パイプで武装した決死隊の存在
はまだ未確認ですが、おそらく一〇号館か一四号館に待機しているのだと推測します。左
翼は格差社会と階級の固定化による下層国民の不満を暴動によって爆発させる戦術です。
国家生活党大会を実力で粉砕し、労働者階級のたぎる怒りを内乱へと転化せよと絶叫して
おります。以上」
いよいよ首都決戦の激突がはじまると控え室には緊張が走った。
「武道館の現状を報告しろ」
隊長は参謀で臣民軍担当の副隊長である世耕弘成参謀に促した。
「武道館は現在、ロックコンサートパーティを偽造し、武道館の中はロック音楽の大音量
がうなり国家生活党メディア音楽団員が舞台で演奏しております。全国から結集した国家
生活党臣民軍兵士はロックコンサートの観客を偽装し、一万名が武道館で待機しておりま
す。完璧なチェック体制により、敵のスパイや警視庁公安など、一匹として武道館へは潜
入させておりません。大会をなんとしても防衛するという戦闘意欲に兵士ひとりがひとり
が燃え上がっております。いつでも動けます」
「よし、臣民軍を午後三時に武道館から出発させろ。敵は靖国神社の旧右翼と駿河台の左
翼だ。一挙に壊滅しろ。わが党軍の戦略は大会を成功させることにある。戦術としては大
会防備でありながら、先制的に戦場を創出することにある。大会防衛でありながら先取り
として敵に攻撃を加える。戦場を敵味方彼我の関係において、わざとこちらから創出し、
最初から最後まで主導権を奪取する作戦だ。九段会館の外広場は旧右翼突入によって戦場
となるため、大会は武道館に移動する。九段会館での大会は結城純一郎総裁の大会議案基
調報告が午後三時半に終了予定となっている。ここで一旦大会を打ち切り、代議員一千名
は九段会館から武道館に向かってもらう。九段会館からの出発は午後三時五十分とする。
九段会館ホール裏の舞台搬入口から縦隊で党幹部と代議員は九段会館から脱出。九段会館
の裏から千代田区役所の裏を通過し、千代田公会堂の脇から内堀通りに出て、清水門から
北の丸公園に向かう。北の丸公園から党幹部と代議員が武道館の中に入る。党幹部と代議
員の隊列による移動行程の脇は防衛隊が固める。武道館での大会再開は午後六時とする。
それまで代議員には夕食をとってもらう。臣民軍、防衛隊、党幹部、代議員の夕食は、お
にぎりだが、国家婦人同盟が武道館に届けてくれる。夜の部は都道府県本部と各支部から
選出された代議員の発言となる。明日の予定だが武道館において午前の部は引き続き代議
員発言。午後の部は午後三時まで代議員発言。その後、大会報告の採択。そして中央幹部
委員の選出となる。午後五時が大会終了予定。今日と明日が大会防衛の決戦だ。臣民軍は
三個師団とする。第一師団は靖国方面隊、四千の部隊で靖国神社の旧右翼に襲い掛かれ。
火炎ビンを武器につかうと靖国神社を燃やしてしまう危険性がある。武器はゴキブリ退治
のバルサンをつかえ。目潰しの煙を一斉に投げ込みナチス棒と鉄管で殲滅しろ。デモ隊の
先頭を九段会館への突入へとおびき寄せ一挙に襲え。戦場は靖国神社境内と九段坂靖国通
りだ。左翼の定点観測ルポも靖国神社にいるはずだ。わが臣民軍が旧右翼部隊を壊滅すれ
ば、その情報はすぐさま明治大学で集会を開いている左翼どもに伝わるはずだ。第二師団
は駿河台方面隊。四千の部隊で明治大学から出発する左翼デモ隊に襲い掛かれ。戦場は明
大アカデミーコモス前の明大広場と駿河台明大通りの坂だ。左翼は火炎ビンを武器として
使用するだろう。高圧水銃のドラゴンを出動させ、水攻めにしろ。敵は烏合の衆として逃
げ惑う。そこを襲い掛かれ。駿河台で壊滅しろ。靖国通り、駿河台明大通りも車の交通が
激しい道路だ。車の往来をスットプして戦場に転化しろ。第三師団は武道館防衛隊。二千
で武道館防衛に従事しろ。武道館から靖国方面隊と駿河台方面隊を送り出した後の武道館
防衛の指揮は、防衛副隊長である世耕弘成参謀がする。大会防衛隊が九段会館から党幹部
と代議員を無事、武道館まで移動させる間が防衛の勝負だ。靖国方面部隊は旧右翼を殲滅
した後、武道館にすぐさま帰還し、世耕弘成副隊長の指揮下に入り武道館防衛体制に従事
しろ。駿河台方面部隊は駿河台で決着がついたら武道館へと撤収を開始しろ。警視庁機動
隊が騒乱罪を適用し、武道館を包囲するだろうが、ここで長期持久戦として対峙しろ。こ
の戦争は臣民軍の長征への出発としてある。思想戦争として戦え。ふたつの戦場での勝利
をもって、われわれは日本臣民軍創設に向けて、自衛隊に乗り込む。自衛隊を日本臣民軍
として再編するためである。今日の戦争は国家生活党臣民軍から日本臣民軍への飛躍をか
けた戦争であることを肝に銘じよ。イデオロギー戦争としての実践訓練だと思え」
隊長はもはや将軍であると防衛隊のキャップたちは思った。ふたつの戦場、首都決戦に
誰もが武者ぶるいした。膝がガクガクと自動的に動いている。大会を成功させ、同時一体
として、ふたつの戦場で勝利する。今日の戦争の後も警視庁機動隊との長期持久戦の対峙
は、突撃隊である国家青年同盟が占拠する自民党本部ビルと武道館というふたつの場所と
なる。指導主体が問われていた。