小説 小はん殺し結城純一郎の演説 (8 | 高原山

小説 小はん殺し結城純一郎の演説 (8

 フジテレビ報道クルーキャプテンの中村は、警視庁機動隊から次の展開の情報を仕込み、
伊藤ゆかりとカメラマン小泉たちスタッフが陣取るクルー場所へ戻ってきた。

「どうだったぞな、もし」

 カメラマン小泉が中村に聞いた。

「他社に聞かれとまずいから、報道車のなかで話そうや……」

 そう中村がうながした。フジテレビ報道車は小型のバスを改良してあり、まるで編集ル
ームのようでもあった。カメラから送信される何台ものモニターが特殊仕様枠に設置され
てあった。

 報道クルーの打ち合わせが始まった。

「次の事件は外で起きる。靖国神社で集会を開いている旧右翼過激派と、明治大学で集会
を開いている左翼過激派がこの九段会館に突入してくるそうだ。おそらく阿鼻狂乱の修羅
場になるだろうな。旧右翼のデモ出発は午後四時、左翼のデモ出発は午後五時、夕方の報
道番組で実況中継ができるぜ。テレビ朝日の原田総一郎もわざわざ現場からの報道と称し
て、来るとのことだからやつらに負けねぇように迫力ある映像を切り取っていかねぇとな。
本社に今、手配したところだよ、もっと九段と靖国、駿河台に人数を派遣してくれってな
あ。くれぐれも衝突は安全地帯から望遠カメラで撮れよ。ケガしないように頼むぜ、クル
ーから労災を出すと、部長が不機嫌になるからな」

 中村は坊ちゃん顔で話した。それがニヤリと笑うとキモイと伊藤ゆかりは思った。

 どうせ危険なところは労災を適用しなくていい下請けの協力会社スッタフが撮るんだん
べよ。おれたちフジテレビの社員は高給とりのエリートだけん、いつでも安全地帯だんべ
よ。そのようにカメラマン小泉は社員意識で思った。彼らはいつでも世間を笑いながら見
下ろしているマスゴミだった。映像を切り取る社会とはカメラマン小泉にとって、ただの
無機質な物質にしか見えなかった。

 すでに報道車のモニターには靖国神社と明治公園からの映像が送信されてきていた。
「それから、おもしろい情報を、国家生活党防衛隊長の飯田さんがリークしてくれたよ」

 中村は話を続けた。

「なにか、あるんだんべかな、もし」とカメラマン小泉が髪をかきあげ身を乗り出した。
彼はナルシストだった。

ああ、まあな。と中村がしゃべりだした。

「どうやら・・・大会に参加している、群馬県本部代議員の山本太一と東京都本部代議員
の池子百合子が自民党のスパイだって話なんだよ。山本太一と池子百合子はスパイ摘発と
して大会でさらし者にされるそうなんだ」

「山本太一って、あの変態みたいな顔で目が三角のお坊ちゃま?」

 伊藤ゆかりが聞いた。

「その男だんべな、もし」とカメラマン小泉が割り込んで答えた。

「でも池子百合子が自民党のスパイなんて信じられない。彼女の経歴は確かに、日本新党
から新進党へ、そして保守党へ、それから自民党へ、そして国家生活党へ移ってきた渡り
鳥だけど、そのつど前の政党とはきっぱり決別してきたんでしょ」

 伊藤ゆかりが突っ込んだ。

「まぁ、いくら飯田さんからのありがたいリークとはいえ、おれはスパイ摘発によるさら
し者つるし上げは絵にならないと思っているんだ。視聴者は政治の汚いものをあえて見た
くないからね」

 中村が断言した。

「そうかな? 女性受けすると思うよ。自民党政権で環境庁長官までやったエリートの池
子百合子がスパイとして大会で糾弾され、つるし上げられるなんて、最高の絵になるわよ。
女の視聴者は残酷なものが好きなのよ。中村さんの判断はおかしいわよ」

 伊藤ゆかりが反論した。

「まあ、一応、会場の中にいる報道2001の白岩さんには携帯メールでリーク情報を知
らせておくよ」

 報道クルーキャプテンの中村が、女はがんばるからにがてだよと思ったとき、首にぶら
下げていた携帯電話が着信バイブレーションに震えた。大会防衛隊長の飯田勲からのメー
ルだった。内容は山本太一と池子百合子の糾弾は中止になったとの情報リークだった。
「今、飯田さんからメールがきたよ、スパイ摘発つるし上げは中止になったとのことだ。
大会防衛が緊迫していて、それどころではないんだろう」

 キャプテン中村が報道クルーに伝達した。情報の共有化だった。

「つまんなーーーい」

 伊藤ゆかりが落胆の声をだした。