いつものように、友達と遊んでいた。

 

カフェに行ったり、カラオケをしたり、服を見たり。

 

普通に、遊んでいた。

 

全然、そんな空気もなかったのに。

 

「椎名ちゃん…ずっと、好きだったんだ。付き合ってくれん…?」

 

震える声で、西野は言う。

 

「え………………」

 

もう夕方。遊び終わって解散しようというその時。

電車がもうすぐで来る。

 

「なんで…??好きって…今までそんな素振りも…」

咄嗟に理由を聞いてしまった。

 

「出会ってから…悩みとかも聞いてくれて、寄り添ってくれて。

あと、かわいいなって…。今までそんな雰囲気でもなかったから、

せめて…卒業する前に、言っておきたくて。」

 

顔を少し赤らめて、照れた表情をして、

声は震えていて。

 

ーー本当に、好きだったんだ…ーー

 

今までそんな雰囲気も、なかった。

いや、私が鈍感なだけだったのかもしれない。

 

「いや、無理なら無理って言ってもらっても…言いたかっただけだから。」

 

なんて、勝手なんだ。

 

気持ちは嬉しい。すごく嬉しい。

 

だけど、気持ちを伝えられて、付き合ってほしいと言われて、

もう3分で電車が来るところだぞ??

 

そんなことを考えるのは不謹慎だが、判断を誤ってしまうかもしれないじゃないか。

 

「え…えと。ごめん…ね。でも、ありがとう。」

 

ごめんとありがとうしか、伝えられなかった。

 

西野には、散々恋愛相談もしてきた。

出会った時からということなので、私はずっと西野を傷つけてきたことになる。

 

「そっか…。分かった。最後にありがとう。じゃあ、またな!」

 

そう言った西野の顔は、見ていない。

どんな表情をしていたのかも、分からない。

 

でも、西野が乗る予定の電車を、西野が一本逃したのは事実だ。

 

私は、もう10秒ほどで発車する電車に急いで乗り込んだ。

 

(我ながら…残酷だな…)

 

遊んでいるうちに、言ってほしかった。

それなら、もっと話をすることもできたのに。

 

 

ずっと、彼氏ができなかった自分に、女の子として見てくれて、

2年間も想ってくれた人がいた。

 

もう卒業してしまったけど、その事実がただ、嬉しかった。

 

西野自身も、振られる覚悟で言ってくれたのだと思う。

 

(西野は好きだけど…恋愛としてじゃ、ない…)

 

一途に思ってくれる彼に、応えられないことが悔しかった。

でも、付き合うとなるといい加減な気持ちでは付き合ってはいけない。

 

電車が来ていて、時間がないからと言って、関係が切れるのが惜しいからと、

付き合うのは違うと思った。

 

一途な彼に、ハッキリとごめんと伝えること。

それが、今の西野にとって最大のやさしさだと思った。

 

ごめんね、西野。

気付かなくて、ごめんね。

 

でも、嬉しかった。

 

そして、電車で家に帰るまでの間、ずっと西野のことを考えていた。

 

あれから5年半ほど経った今でも、西野からの連絡は来ない。

もちろん、また会いたいとも思わなかった。

 

今では、付き合っている彼氏もいる。

 

でも、ふと思い出す。

 

想いに何も応えられなかった彼のことを。