2009年。バラク・オバマ米大統領がノーベル平和賞を受賞した。
この時ほどノーベル平和賞が注目された事はなかったが、昨年、元ノーベル委員会書記ゲイル・ルンデスタドは平和賞授与の際に託された期待を叶えてはくれなかったと回顧録「平和書記」で述べていたことをBBCが伝えた。


7年前、委員会は受賞理由としてオバマの「核兵器なき世界」の実現に向けた構想と努力を特に高く評価。国際協調主義や気候変動問題での建設的役割に加え、「世界に将来への希望を与えた」とした。当時オバマは大統領に就任してわずか9ヶ月。
実績も何もない段階での異例な受賞決定は、世界実現に向けた奨励する意味もあった。

 

10月27日(日本時間28日)、ニューヨーク国連本部で、核兵器を法的に禁止する初めての条約の制定を目指す決議案が国連総会の委員会で採決にかけられ、123か国の賛成多数で採択されたニュースが飛び込んできた。
賛成123、反対38、棄権16の、賛成多数で採択され、
この決議はオーストリアなど核兵器を保有しない50か国以上が共同で提案したもので、核兵器を法的に禁止する初めての条約の制定を目指して、来年3月からニューヨークで交渉を始めるとしている。

さて、注目すべきは反対国だ。


核兵器の保有国のうちアメリカやロシアなどが反対。
中国やインドは棄権した。


そして、唯一の被爆国として、核兵器廃絶を訴えてきたかのように見える我が国日本はアメリカ同様この決議案に反対したのだ。
私はやっと日本でもきちんとニュースが流れるようになったな、と一瞬思ったが。。。

 

NHKは反対の理由を次のように報じていた。

日本の佐野軍縮大使は決議に反対したのは、

 

国連総会第1委員会に出席した佐野利男軍縮大使=27日、ニューヨークの国連本部(共同)


「核軍縮を実効的に進めるには、核保有国と非保有国の協力がなければならない。

国際社会の総意で進められるべきだと強く求めたが、受け入れられなかった。」
つまり、NHKは日本が反対したのは決議案に日本の立場が反映されていないからだったというわけだ。


だが、この報道は正しくない。


萩生田官房副長官はこの決議反対理由について
「北朝鮮などの核、ミサイル開発への深刻化などに直面している中で、決議は、いたずらに核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長するだけであり、具体的、実践的措置を積み重ね、核兵器のない世界を目指すというわが国の基本的考えと合致しない」
と述べている。

日本の国内では毎年のように日本は核廃絶を呼びかける決議を提出していると報道し、昨年は核放棄に反対のアメリカが共同提案国になったのは日本の長年の呼びかけが支持された結果であるともアピールしている。
なので多くの国民は日本は核廃絶を世界唯一の被爆国として積極的にアピールしていると思っているだろう。
だが実際はまったく違う。

冒頭に述べたようにオバマは核兵器の役割縮小に積極的であった。
だが、オバマ政権の核廃絶に向けた最初の基本法案に最も強く抵抗していたのは、被爆国である日本政府だった。


プラハでオバマは「核兵器を使用した唯一の核保有国の道義的責任」に触れながら、核兵器のない世界を目指すことを明確に宣言する。
核超大国アメリカが核兵器廃絶に向けて舵を切ることを宣言したのだ。
オバマは演説で終えることなく、基本政策である「核態勢見直し」(Nuclear Posture Review-NPR)を進めた。
だが、ここで最大の障害となったのは実は日本だ。
情報筋によると従来のNPRに於いては非核兵器による攻撃の抑止のためにも機能させてきたわけだが、オバマの基本法案では核兵器の役割を低下させ、核兵器の役割を核兵器の抑止のみに限定。
核攻撃を受けない限り、核兵器を使用しないという核兵器の先制不使用の方針を採択することにより、核兵器数を大幅に減らそうという議論が盛り込まれた。
だが、日本政府は北東アジア、とりわけ北朝鮮による生物、化学、通常兵器による日本への攻撃可能性、更に中国への不信を理由にこれに強く反対。
アメリカは日本政府が反対する様子を見て、もしアメリカがこのままこの基本法案を進めれば日本は核武装するかもしれないという懸念を持つ。

 

今回、オバマ政権が核廃絶案に反対している背景には日本が将来核武装するという懸念とその懸念を利用する米国内の軍事産業から従来のNPR維持の要望がある。


核兵器の役割を核攻撃による抑止に限定して、先制不使用を核兵器国に宣言させようという動きは、オーストラリア政府と日本政府の共同提唱による有識者会議である「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)でも提言に向けて議論もされていたがここでも日本は、先制不使用に強く反対の意を示した。
被団協、原水協、原水禁、ピースボート、ピースデポ、反核法協、国法協等の日本のNGOとエバンス・共同議長との間で、意見交換会(ラウンド・テーブル)に於いて、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)議長ギャレス・エバンスは、
「核廃絶を唱える一方で、核兵器が大好きだと言っていたのでは、世界からまともに相手にされない」と述べ日本を痛烈に批判。
日本政府が、先制不使用政策採択の大きな障害となっていることを明らかにした。

アメリカなどは色々な国から、核を持ちながら他国に核兵器を持つなという資格があるのかと問われることがあるが、日本は核の傘下入り、いまの体制を維持することを強硬に示す一方で国内のみならず、海外でも核のない平和な世界を訴えるという矛盾した姿を晒している。
では、日本という国は核廃絶に反対しているのか?
国内できちんとこの問題が取り上げられないので、日本は核廃絶を訴えていると思っている国民が多い。
最近極右市民も多いがさすがに核廃絶には賛同する国民は多いはずだ。
では日本政府が、勝手に核軍縮に反対しているのか?
川口順子元外相は我々NGOとの意見交換の席で、核の先制不使用に関して

「安全保障との関係もあり悩ましい」

と述べていて、NGOとの様々な会合で、アメリカの核兵器先制不使用政策の採択に反対しているのは外務省の官僚である構図が見える。
実際外務省は制不使用に表向き反対する理由として、検証不可能性を掲げている。
先制不使用というのは相手への信頼の上に成り立っているものではあるが、国際会議で政治的意思を伴うことで世界が大きく次の段階に舵を切ることができるはずだ。
今回の核兵器禁止条約決議案は賛成多数で採決されたわけだが、核保有国が反対しているいまの状態では実現が難しい。

核保有国間で合意し、お互いに核兵器を使わないということが重要になってくる。
もし、安保理常任理事国5ヶ国で合意が取れれば先制使用を犯罪として扱うことの合意が可能にもなる。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル紙投稿4人組の一人であるジョージ・シュルツは、共同通信の記者に、核兵器は、被害があまりに甚大で文明国としては、実際には使えない兵器だと述べている。
日本国民の多くは核兵器は抑止であるという認識しかないが、前米大統領ブッシュは、核兵器の予防的使用を具体的に考えた核超大国の指導者だ。
平和維持、核の脅威への抑止として保持する武器としては危なすぎるということだ。

 

毎年、広島の平和式典では被爆者が体験を語る。国内で被曝認定された人たちがどんな差別を受けたかは誰もが知るところだろうが、それでも彼らは自分たちの苦痛と体験を語ることをやめない。
長崎、広島への原爆投下から71年間、日本の被爆者は日本国内だけでなく、世界に核廃絶を訴え続けている。
日本の報道はこの問題を正しく国民に伝え、そして私たちは真剣にこの問題を考えるべきだ。