朝日新聞より
 日本で生まれ育ち、米国で教えてきたシカゴ大学名誉教授(日本文学)のノーマ・フィールドさん。原爆投下原発事故の「被ばく者」に寄り添いながら、日本社会に発言を続けている。いま、福島原発事故の被害者らに「沈黙を強いるメカニズム」が気になって仕方がないという。

■シカゴ大学名誉教授(日本文学)ノーマ・フィールドさん

 5年前に福島原発事故が起きた時、シカゴでテレビやネットを見ていて、ある直感にとらわれました。これは、これから余生を捧げる事柄だっていう直感です。

 もしかしたら、10歳の時に初めて東京の家にテレビが入って、広島の原爆投下直後の映像を見た時の衝撃があってのことかもしれません。こんな大変なことが起きたのに、大人はなぜ平気で毎日暮らしてられるんだろうって、10歳の時に思ったんですね。日本とアメリカが再び戦争をしたら大変。家は日本ですが、学校はアメリカの世界で生きる自分にできることは何か。それは、大きくなったら日本について英語で教えることじゃないかと。それで戦争が阻止できるかのように、10歳の頭で考えたのでした。とっくの前に忘れていた眠っていた思い。もしかしたら福島の衝撃が、10歳の時に感じたものを呼び覚ましたのかもしれません。

 ある風景が頭に焼き付いています。それは(今年3月12日の)「311甲状腺がん家族の会」の発足記者会見です。ユーチューブで動画を2時間。目が離せませんでした。福島県民健康調査(「核の神話:18」で紹介)で小児甲状腺がんと診断された子どものご家族に話を聞くのは難しいと聞いていたので、画期的だと思ったんです。

 ところが、実際見てみると、会見に出た保護者、お父さん2人なんですが、福島からスカイプでの参加なんです。「カミングアウト(告白)」といわれているものが、顔を見せずに、声も操作されて。それで、「白い服の方」とか「黒い服の方」と司会者に指されるんです。「カミングアウト」と称しても、こういう形を強いる日本の社会のおぞましさ。