朝日新聞より

 チェルノブイリ原発事故後のベラルーシと現在の福島で、「エートス」プロジェクトを指揮するジャック・ロシャール国際放射線防護委員会(ICRP)副会長は「あなたもジャーナリストだったら現地へ行って村人の話を聞くべきだ」と促した(「核の神話:24」で紹介)。現地取材に基づく著書「チェルノブイリの犯罪」(緑風出版から邦訳)や映画「真実はどこに」(ネット上で公開)といった作品があるジャーナリストのヴラディーミル・チェルトコフさんは、チェルノブイリ後、子どもたちを無用に被曝(ひばく)させた「犯罪」が福島でも繰り返されかねないと告発する。3月に広島、兵庫、京都、東京で講演したチェルトコフ氏にインタビューした。

■ジャーナリストのヴラディーミル・チェルトコフさん

 ――原発事故から5年、福島でも166人の子どもが甲状腺がん(悪性または悪性疑い)と診断されました。

 「チェルノブイリと福島は同じような事故ではない。チェルノブイリは10日間の火事の間に放射性核種があちこちに拡散してしまった。福島は短時間に何度か爆発が起きたが、それで終わった。放射能は出たけれども、放射性物質の拡散はチェルノブイリと全く同じだというわけではないと思う。どういうふうに違うのかは科学者がきちんと調べる必要があるだろう」

 ――科学者たちは「福島はチェルノブイリとは違う」といい、医師たちも「低線量被曝(ひばく)と福島の人々の健康被害との因果関係は考えにくい」と言います。一方、ICRP副会長でフランスのNPO原子力防護評価研究所(CEPN)ディレクターのジャック・ロシャール氏は福島に頻繁に入って、ベラルーシで実践した「エートス」の活動を広めています。

 「ICRPやIAEA国際原子力機関)は『福島はチェルノブイリと違う』と言うことによって、低線量被曝の影響さえも消去しようとしているのだろう。いわゆる強い放射線による外部被曝の問題と違い、毎日毎日少しずつ摂取せざるをえない環境に置かれる問題は、チェルノブイリであれ福島であれ、いずれにしてもセシウムが体内に入って長く慢性的に摂取することによって細胞が傷つけられ、一種の臓器の崩壊現象が起こってくる。そういうことが、チェルノブイリでも福島でも起こりうる。違いをいくら強調したところで、低線量被曝の問題を否定することはできないだろう」

 「私のドキュメンタリー映画『真実はどこに』で、2001年にキエフで開かれた世界保健機関(WHO)後援の『チェルノブイリの健康影響に関する国際会議』の模様を撮影することができました。IAEA、UNSCEAR(国連科学委員会)、ICRPの代表者らと、科学者や現地の医師らが大論争を繰り広げます。当時のUNSCEARのゲントナー事務局長は『内部被曝と外部被曝を分けるのはナンセンスだ』とはっきりおっしゃっている。彼らの主張は、外部被曝だけが健康に影響があって、内部被曝は考慮するにあたらないと言いたいわけです。原子力を推進する国際機関や原子力ロビーは内部被曝というものが実証されると非常にまずい。自分たちの生き残りの問題になってくるので、どうしても否定したい。さらに、低線量被曝が慢性化して健康が悪化してくることを認めて、(ベラルーシでベルラド研究所のネステレンコ氏が導入した)ペクチンが効くということを認めてしまうと一大事になってしまう。ベラルーシの何十万という子どもたちに毎日ペクチンを与えなくてはならないとなると、経済的にも大変なことになるし、原子力が人間の体にいかに悪い影響を与えるかの証明になってしまうのもまずい。だから、あの会議の時点では、内部被曝を認めることは絶対にできなかったのだろう。その主張は今も福島で続いている」