ブロードウェイの『Some Like It Hot』を最後に、観劇旅行は終了。
家に帰って1959年公開のアメリカ映画『お熱いのがお好き』を見ました。
「ギャングの殺人現場を目撃してしまった二人組のミュージシャン、ジョーとジェリーが、ジョセフィーヌとダフネと名前を変えて女装し、女性だけのバンドに潜り込む。
ジョー(ジョセフィーヌ)は歌手のシュガーに一目惚れ。列車で旅をして巡業先に到着すると、ホテルで出会った富豪がジェリー(ダフネ)に一目惚れ。
バンドメンバーとギャング、富豪、最後は警察やホテルマンも巻き込んだドタバタ喜劇の末、歌手のシュガーとジョー、ダフネ(ジェリー)と富豪が結ばれる」
… というあらすじは同じで、映画の雰囲気もしっかり引き継いでいるのですが、描かれていたのはまったく異なるものでした
たとえば男ふたりの女装姿は、映画では滑稽なお笑いの対象に留まっていましたが、ミュージカルでは人間のアイデンティティーを考えさせるモチーフのひとつにもなっている…と思うのです。
映画作成当時は、異性の服で装うことが映画製作倫理規定の承認を受けられない事項だったそうです。女装自体がタブーという時代があったのですね
それを考えると、当時としては映画も斬新な内容だったのでしょうし、世の中はさらに大きく移り変わったとも言えますよね。
それから、映画はオール白人(ユダヤ人含む)で演じられていましたが、ミュージカルでは、バンドのリーダーであるスウィート・スーや、ミュージシャンのジェリー(ダフネ)、可愛く色っぽい歌手のシュガーといった主要キャストの人種が白人からアフリカ系の役者さんになり、ギャグやストーリーにも変化を与えていました。
例えばジョーとジェリーがシカゴのスピークイージー(禁酒法時代の隠れ酒場)で働かせてくれと売り込む場面。
その酒場は白人しか受け入れない店なのですが、ジョーとジェリーは肌の色が違う。そこでジョーが、親から捨てられたジェリーを育てたのは自分の両親である、だから一緒に育った自分達は兄弟なのだ、として話を通します。どうせウソだと思うけど笑いのなかに暖かさのある場面でした。
(で、女装してバンドに潜り込んだ時には、女の子たちからあなたたちについて教えて!と言われ「自分たちは孤児で、修道院で尼さんに育てられたんだ」と答える。ブルースブラザースっぽい? その時のジョーの「アーメン」も間が最高。)
映画で列車に乗り込むバンドが目指したのは、お金持ちの老人がたくさんいる南部フロリダ州マイアミでしたが、ミュージカルでは西部カリフォルニア州のサンディエゴでした。ミュージカルのバンドリーダーは(歌手も)白人ではないから、1930年代にフロリダに巡業するのは無理、という理由のようです。(黒人混成のガールズバンド、30年代初頭の南部ではギャングがいなくても殺されてしまうかも、てのは私の個人的感想です…)
カリフォルニア州のなかでも国境に近いサンディエゴのコロナドは、ギャングに追われている二人がメキシコに逃げるにも打ってつけの場所だと思います。
そのほかにも設定の違いがいろいろありますが、富豪にはメキシコの名前があり、彼は二重のアイデンティティを感じている、というエピソードも効いてました。
ところで、今回初めて映画を見てびっくり。
有名なセリフ「Nobody's perfect 完璧な人はいない」は、映画では富豪のシメの言葉なのですね。しかし舞台ではダフネの言葉となり、富豪は君は私にとって完璧だ、と応えるのです。これまた大きな"進化"ではないでしょうか。
記憶力と語学力に自信が無いので、今回のブログはニューヨークタイムズとWikipediaで確認しつつ書きました