放課後の教室


机や椅子が、後ろに追いやられ代わりにそこにはテレビの音楽番組で見るドラムやアンプが置かれていました

エレベーターもない公立のオンボロ校舎で、クラブ活動のためその都度倉庫から機材を出して階段を上り下りするってどんだけの労力なんだ。

今思えば、そうなるのでしょうが当時は
「ま、仕方ないか」
という感覚だったのだと思います。


教室にたどり着いたワタシたちを待っていたのは黒髪長髪の男子学生でした。

2本の棒を持って交互に上下しています。

いわゆるスティックコントロールの練習ですが。当時はスティックという言葉も知りませんでした。


黒髪「遅い」
あひる先輩「こいつに言ってよ」

もう一人の先輩は、ヘラ先輩ということにします。

ヘラ先輩「.......」ヘラヘラしてます。

ふと気がつくと教室の隅にもう一人。

高校生とは思えない老けっぷりです。

やっぱりオッサンと呼ばれていました。

オッサン「おう」

オッサンはアンプに繋がず、ギターを弾いていました(~_~;)

あれ弦が、4本しかない!

楽器店に行ってもベースの存在に気づかなかったマヌケなワタシ。


推測
この4人はバンドメンバーだ

黒髪がドラム、オッサンがベースはわかった。

となるとあひる先輩がギターでヘラ先輩がボーカルか。


そんなことを考えていたら、ヘラ先輩はおもむろに立て掛けていたエレキギターを持ち上げ、手慣れた様子でアンプにコードをさしました。

おお、手が長いからギターなのか。

そして、顔のインパクトが強いからあひる先輩は、ボーカルか。


この4人の役割に妙に納得したのでした。
新しく現れた男子学生は、どうやらあひる先輩と同じカテゴリーの人でした。

彼はワタシをチラリと見ると軽く会釈をしました。

ワタシも慌てて返します。

あひる先輩「この子、練習みたいんだって」

そこまではっきり言ってないのに。

新しい男子、名前はN先輩ですが

N先輩「あ、そ」

そっけない…
仕方ないか。

あひる先輩は、立ち上がるとギターを立て掛けて窓からひょいと廊下に降り立ちました。

颯爽と歩いていくN先輩とあひる先輩のあとをちょこちょこと追っかけていくと、やがてとある教室に着きました。

そこには知らない世界が!

音楽生活の始まりでした。


まさかこんな展開になるとは。

気ままにアコースティックギターをつまびく、あひる先輩とそれを見守るワタシ。

いつまで続くのかと冷や汗が出そうになった時に、また新しい登場人物が。

「やっと終わった」

あひる先輩は手を止めてその声の人物を見上げました。

振り向くとそこにはやたら手の長い男子が。

マンガのようです。
音楽室の隣の準備室の廊下に面した窓を挟んで、その男子学生とワタシは顔を合わせていました。


アコースティックギターを弾いている彼に向かってワタシ

「何してるの?」

ギター弾いてるんだよって言われたらそのままですが、ほかにかける言葉が見つからなかったのです。

彼「まち」

ワタシ「まち?」

彼「みんなのホームルームが延びてさ」

まち→待ち

ああ、そういうことね。

胸の楽章をふと見ると、

しまった! 一年先輩じゃん。

その後会話もなく、どうしようと思っていたら

彼「見にくる?」

ワタシ「え」

彼「これから練習するから。見てから入部決めてもいいし」

主語がないため、理解するのに時間がかかりますが、なんだか音楽に関する活動であることはわかりました。

ワタシ「あ、はい」

と相変わらずマヌケな返事

そうして、会話もなくワタシとあひるに似た先輩は、時間が過ぎるのを待ちました。


授業がおわり教室から出て音楽室の前を通るとだいたい50%くらいの割合で、その男子学生に遭いました。

いつもは小部屋の窓から廊下に出るのですが、その日は逆に窓から入っていきました。


しばらくそのままだったので、興味を抑えられなくなったワタシは、そっと開いている窓に近づき、中をのぞいてみました。

すると、例の男子学生は床に座りこみアコースティックギターを弾いていたのです。

彼はワタシに気づき、またニヤリとしました。
ワタシもつられて愛想笑い……


しばらく沈黙。


空気に耐えられず、人見知りなくせにとうとう話しかけてしまったワタシ。