◎Got To Get You Into My Life
▼ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ
☆The Beatles
★ザ・ビートルズ
released in 1966
2016/4/21
本家BLOGで上げている「ビートルズの213曲」シリーズの抄訳記事です。
少し間があきましたが、今回も僕自身の心の流れで、同じREVOLVERから前回記事のI Want To Tell Youの次の曲。
つまりこれで4曲連続で上げたことになります。
いつも言いますが、僕はビートルズのある1曲を思い浮かべると、LPで次の曲、またその次と続けて思い出してしまうのです(笑)。
Got To Get You Into My Lifeはビートルズ7枚目のアルバムREVOLVERのB面6(=CD13)曲目として1966年8月5日に世に出ました。
作曲者はポール・マッカートニー、ヴォーカルもポール。
Got To Get You Into My Life
The Beatles
(1966)
なおこの曲、ステレオヴァージョンとモノーラルヴァージョンではフェイドアウトの長さが違い、モノの方が少し長くなっています。
この曲は1966年4月7日から6月17日までの5回のセッションで録音を重ねて完成しました。
モータウンに触発されたというこの曲のレコーディングには外部の5人のブラス奏者が参加していますが、うち2人は当時ジョージー・フェイム&ザ・ブルー・フレイムズのメンバーでした。
そのメンバー(うち上2人がブルー・フレイムズ)
エディ・ソーントン(スーパーオールドトランペット)、
ピーター・コー(テナーサックス)
イアン・ヘイマー
レス・コンドン(共にトランペット)、
アラン・ブランズクーム(テナーサックス)
ブラスは5月18日の12時間にも及ぶセッションで録音されましたが、その日の録音では音を出さずにスタジオの外で見ていたジョン・レノンが、録音が終わってスタジオ内に駆け込んできて「やったね!」と叫んだのだそうです。
そのジョンは、この曲をポールの傑作のひとつであり、ポールにしては歌詞がうまく書けていると生前最後のインタビューでほめたたえています。
いつもはポールの特に歌詞について辛辣なことを言っていましたが、こういう素直な反応は微笑ましいというか嬉しいし、それがあってのジョンの「やったね!」なのでしょうね。
この曲はとにかくブラスの音が強烈ですが、当時のエンジニアであったジェフ・エマリックは、マイクを管楽器の口に近づけて録音するという当時としては常識外れのことを試して得られたものだそうです。
そしてこれは、ポールがクスリ=LSDの体験を歌った初めての曲でもある。
クスリ問題については、ううん、擁護はしない、僕もビートルズを過度に神格化するのは好きではない、彼らも人間だった、ということで先に進ませていただきます。
◇
僕は、中2の12月に初めて聴き、それこそぶっ飛びそうになりました。
もちろん僕はクスリはやったことはない。
あくまでも想像で話すと、先ずイントロのブラスが、「この世のものではない」という感覚で迫ってくる。
ぞくぞくっとしますね。
この曲の場合はブラスの音そのものがその体験を想像させますが、クスリの影響ってそういうものなんだって当時学びました。
歌詞もまた鮮烈、最初を訳してみると
僕はひとりだった
ドライヴに出ることにした
でもそこで何を見つけたのかは分からない
違う道路を走ってみれば
また別のことが頭に浮かんでくるに違いない<
ジョン・レノンは一足先にDay Tripperでクスリの暗喩を使いましたが、ポールもここでは"ride"、外に出ることに喩えているのが興味深い。
僕は初めて聴いてこの歌詞にとんでもなく驚いたものでした。
違う道、"another road"というのはもちろん「普通とは違う」「いつもとは違う」やり方という意味でしょうからね。
ポールのヴォーカルがまるで笑うような声であるのも、クスリの体験を想起させる重要な要素だと思います。
サビでタイトルを歌いますが、歌メロがきれいに流れておらず、叫ぶようなとっ散らかった音であり、しかもポールの歌声は「ド」の音で終わらず中途半端なところをブラスが歌い継ぎ、ようやく歌が終わるというこの破綻の仕方がまたすごい。
歌でいうなら、1番の0"28"の部分すなわち
♪ Every single day of my life
と、2番の同じ部分0'56"の部分すなわち
♪ Say we'll be together every day
同じ場所で音の数が違うけれど、それが決して不自然ではなくこの場合むしろその破綻が自然に感じられます。
そもそもGot To Get You Into My Lifeという、言葉の意味よりも小気味よい韻の響きが強調されているタイトルもなんというか、理性より感覚が勝っている状態であることを想起させます。
その韻の感覚はまたポール独特のものでもありますね。
とにかくブラスが強烈だけど、ベースもポールらしいリズム感、グルーヴ感と音のとりかた、さすが。
他の3人、ジョン、ジョージ、リンゴはリズムトラックを録ったところで、あとはポールのやりたいように、というところでしょうね。
しかしポールの様子を12時間見ているのも大変だったかも。
リンゴのドラムスは音としてよく聴こえてくるけれど、前のI Want To Tell Youとは違い目立ってはいないですね。
ジョージはオーバーダブしたパッセージは1'49"のところからで、聴くとどうもギターが2本入っているように感じられる。
うち1本のアルペジオで入ってくる方の音がギブソンSGっぽい。
そして1'55"のところで音程の違う2本のギターによるチョーキング(ベンディング)の音が入るけれど、うち1本はSG、もう1本はエピフォン・カジノのように聴こえます。
(違ったらごめんなさい)。
ギターについて、最終的にひとり分、おそらくジョンの分がまるまるカットされていて、だからブラスの音が厚いのだし、終わり近くでギターが入ってくることがより効果的なのでしょう。
父親がクラリネット奏者だったポールは、ロック界において管楽器のセンスが図抜けているわけですが、この曲がその始まりであり、そういう意味でも記念碑的な傑作でしょう。
ポールの中でもソウルっぽい曲、そうですね確かに。
この前のアルバムRUBBER SOULの冒頭のDrive My Carはモータウンのベースラインを取り入れていますが、それに続いてもっと本格的にソウルをやってみた曲。
ポールのヴォーカルはもちろん本物のソウルミュージックのそれとは違う質のものだけど、ソウルフルな歌い方ではあると思います。
シカゴがこの曲を聴いて「ブラスロック」を思い立ったというのは知られた話ですが、影響力も半端じゃないですね。
もちろん、悪い方の影響は受けたくないのですが・・・(笑)。
◇
この曲に関する個人的な思い出をひとつ。
1990年、ポール・マッカートニー「初来日公演」に際し、事前にアメリカのどこかの公演のセットリストがサンケイスポーツの記事に載っていたのを僕は見ました。
そこにはこの曲、Got To Get You Into My Lifeも。
へえ、この曲やるんだと妙に嬉しく期待が膨らみました。
他はだいたいシングルヒットした有名な曲と当時の新作FLOWERS IN THE DIRTからの曲で予想はつきましたが、これは予想していなかった。
ところが、実際の来日公演でこれは演奏されませんでした。
もちろんコンサート全体に満足ましたが、それだけは残念だった。
ここに書いたように今でもはっきりと記憶に残っているくらいに。
やっぱり僕にとってもこの曲の衝撃は大きかったのでしょうね。
ちなみに、その記事のリストにあってもう1曲演奏されなかったのが、Ebony & Ivoryでしたが、そっちはなんとなく納得だったのが、不思議といえば不思議でした。
この曲のポールによるライヴの映像が幾つかありました。
先ずはホワイトハウスでオバマ大統領夫妻を前にした演奏。
Got To Get You Into My Life
Paul McCartney
今のバンドのメンバーですね。
ブラスはテープを使っているのでしょうね、歌は口パクじゃないけど。
まあ、こういう場ではそれは問題ではないでしょう。
しかしそれにしてもホワイトハウスでクスリの曲をやるって・・・
今はもうそういう細かいことをいう時代じゃないのかな(笑)。
あ、そうか。
オバマ大統領はシカゴの人だからか、とひとり合点。
続いて1979年ロンドンでのライヴ。
Got To Get You Into My Life
(Paul McCartney &) Wings
ウィングス名義ですが、テレビショーか何かでしょうかね。
若くてテンポも速い。
こっちはブラスがちゃんといますね、4人ですが。
そしてデニー・レインとリンダさんも。
そして2009年ニューヨーク公演より。
Got To Get You Into My Life
Paul McCartney
こちらはキーボードのウィックスがブラスを再現していますね。
シカゴのライヴもありました。
Got To Get You Into My Life
Chicago
ピーター・セテラ若くて脂ぎってる(笑)。
これ、すごい、感動した、ソフトで売ってないのかな。
最近You-Tubeで初めて観た中では最も気に入った。
やっぱりこの曲のノリがすごいんだな、ライヴ向きですね。
そしてやっぱり最後はこれ、アース・ウィンド&ファイア。
Got To Get You Into My Life
Earth Wind & Fire
アースのこれはビートルズのベストカヴァー曲のひとつでしょう。
アースのヴァージョンは、冒頭から2つ目のくだり、Another road...another kind of mind thereの部分の"kind of mind"をシンプルに"sign"に変えていますが、そのことでよりアースらしくなっていると僕は感じます。
いったい何のサインなんだろうって。
そういえば明日4月22日は「アースデイ」ですね。
◇
そうそう言い忘れていたことがふたつ、ひとつめ、ジョージー・フェイム&ザ・ブルー・フレイムズの2人が参加しているということで、ジョージー・フェイムはヴァン・モリソンと一緒にアルバムを作っている。
つまりこの曲はヴァン・モリソンともつながるのが嬉しいですね(笑)。
影響は受けてないかもですが、アルバムMOONDANCEのブラスの使い方はやっぱり印象に残りますね。
そしてもうひとつ、この曲はクスリに騙されてしまいがちですが、よく読むと、歌詞の内容は至ってまっとうなラヴソングなんですよね。
でも、概念としてのラヴソングとして捉えるとやはり何かがちょっと、いや、かなり変わった歌ではありますね(笑)。
もしかしてそうした飛んだところがヒッピーに受け入れられたのかも。
この曲は今月6日からずっと口ずさんでいて収まりがつかないので記事にしました。
これで僕の気持ちも解放されて、また別の曲に頭と体が向くことでしょうね。