☆Press
★Paul McCartney
▼プレス
▼ポール・マッカートニー
from PRESS TO PLAY (1986)
VC-0001 2014/1/31
ビデオクリップの話をしたいと思っていました。
「ベストヒットUSA」を観るようになったことがもちろんひとつ。
1曲だけの話をしたい時にアルバムを「だし」に使っていましたが、それにも限界があるし、「だし」にされたアルバムの他の曲にも申し訳ない。
そして何より、僕はいわば最初の「MTV世代」だから、音楽の話をするのに、ビデオクリップの話もしたい。
というわけでビデオクリップの話も始めます。
貼り付け方は前回の記事で「発見」したので(笑)。
曲というよりは映像の話が中心になるかな。
ただ、僕なりに縛りを設けました。
「僕が見たことがあるビデオクリップを取り上げる」
かつて見たもの、クリップ集のDVDにあるもの、「ベストヒットUSA」やその他で最近見たもの、そしてFacebookにアーティストのオフィシャルで上げられたものでも、とにかく見たことがあるものをYou-Tubeで探して上げる、ということにします。
能書きが長くなりましたが、これからよろしくお願いします。
◇
さて、僕は、何事も最初にはこだわりたい人間。
1回目はもちろんポール・マッカートニー。
曲はPress。
1986年のアルバムPRESS TO PLAYからのリーダートラック。
当時の僕は浪人生でしたが、音楽は普通に聴いていました。
そして1986年12月にわが家で初めてCDプレイヤーを買いましたが、86年は新譜をLPで買っていた最後の年になります。
このビデオクリップは、あれ、どっちだろう、「ベストヒットUSA」か朝日放送系の「MTV」で初めて見ましたが、もう目が飛び出るほどうれしくて楽しかった。
ポールが地下鉄に乗っている。
ただそれだけのビデオクリップ。
でも、そこが面白い、だからこそ楽しい。
ポール・マッカートニーが地下鉄に乗ってきたら、どうしますか?
これは、ポールよりも、地下鉄の客がどんな反応をするか、そこを映し出しているのが面白い。
細かいことは後でまた話すとして、先ずは観て聴いてください。
冒頭、地下鉄が駅にやって来る。
ロンドンの地下鉄って、屋根が丸いんだ、正面から見るとかまぼこみたい(笑)。
エスカレーターを急ぐ人、乗車券を自動販売機で買う人、自動改札に乗車券を入れる人。
なんでもない日常が映し出される。
そこへポール・マッカートニーがエスカレーターに乗って登場。
普通にしているつもりかもしれないけれど、やっぱり自然にかっこいい、生まれつきそういう人なのだと思う、颯爽と登場するように見えてしまう。
しかしこの時のポールは、白髪なのかな、染めているわけじゃないだろうけど、髪の毛が灰色がかっていて、まだ10代だった僕はいささかショックを受けた記憶が。
ポールが地下鉄に乗る。
車両のドアがポールの頭の辺りで曲がっていて、その上まで開くのがなんだか面白い。
雨が降ったら車内に雨が入るだろ、と思うけれど、東京の多くの地下鉄のように地上を走ることはないでしょうね、余計な心配でした。
車内は180cmくらいのポールでも頭が天井に着きそうだから、ダルビッシュが乗ったら頭を下げないとだめだろうなあ(もちろん当時はダルビッシュは知らなかったですが)。
車内の人の反応はさまざまで、微笑み返す人、サインを求める人、仲間とポールについて何か話しているような人、見て見ぬふりをする人、興味を示さない人、迷惑そうな人・・・
ポールは口ずさんでいるけれど、日本だと、いくらポールでも迷惑がられるのではないかな。
ポールもなんとなく照れくさそうな態度ではあるんだけど。
僕が当時印象的だったのは、ロンドンには白人黒人アラブ系東洋系、あらゆる人々が普通にいるのだということで、特に黒人がこんなにいるんだって。
まだ僕は大学に入る前であり、林望さんの本が出る前という時代でもあって、当時の日本では英国のことはあまり知られていなかった。
だから僕は、白人ばかりなのだと思っていた節があったのでした。
ただ、意地悪な僕は、ポールがビートルズ時代の海賊盤で、Get Backにのせて「パキスタン人はパキスタンに帰れ」と歌ったことを思い出してしまった・・・
0'57"のところで女性がカメラを出してにこっとしている。
もちろんフィルムカメラ。
今だったら、半分くらいの人が携帯やスマートフォンで撮るんだろうなあ。
時代を感じますね。
時代を感じると言えば、女性の服装や髪型もなんだか懐かしい。
僕はファッションには暗いのでどこがどうとはいえないんだけど、でも、今この服装の人がいると、きっと今の時代のセンスじゃないと思う。
ダイアナ妃のような髪型の女性も見受けられるのも時代ですね。
1'05"のところ、座っているポールが誰かを指さして笑うシーン。
この指さし方、顔つき、このカッコよさがポールだよなあ。
1'17"から20"辺りのところ、ポールはホームに降りて出口に向かう。
ポールが曲がり角にさしかかったところで列車が出て行くと、ホームは強烈な風に襲われる。
ポールは演劇のように派手な顔を作って驚き、手で風を漕ぐようなしぐさで風に向かって歩く。
このオーバーアクションもまたポールだよなあ。
東京ドーム公演でもそうだった、特に007が終わった後で「アツイ」と言ったところなど。
サインを求める人も多いですが、男性も結構いるのが意外といえば意外でした。
ただ、ポールだからといって騒ぎになるようなこともないのが、大人というか。
3'20"辺りから、地下鉄の通路でバイオリンを弾くきれいな女性を見て、そのバイオリンのケースにコインを入れるポール。
女性はとってもうれしそうに微笑む、分かるその気持ち、ほんとうは演奏をやめて話しかけたかったに違いない、でも演奏を続けるところがいい。
冒頭でもアコーディオンを弾く男性が写っていたけれど、当時の日本はストリート・ミュージシャンはほとんどいなかった、御法度に近いものがあって、これらのシーンを見た時に音楽がいかに文化として日常生活に根付いているか、日本との違いを感じたものです。
ただ、日本では今も、駅の中はだめじゃないかな、どうだろう。
この前東京に行った時、JR秋葉原駅前でアコースティックギターを弾いて歌う人を何回か見たけど、厳密にいえば駅の構内ではなく、ちょっと外の路上で歌っていたはず。
あ、でも、路上でもやっぱりなにがしかの許可がいるのかな。
3'50"の辺り、エスカレーターの手すりを滑り降りる少年(青年かな)。
いかんぞ、よい子は真似をしないように。
4'04"の辺りで、ジャズミュージシャンみたいな風貌の若い黒人男性と語り合っているシーン、何を話しているのかな、ほんとにジャズミュージシャンかもしれない。
3分台で何度か黒人男性の隣に座るシーンがあるけれど、僕は当時、それは黒人音楽への敬意を表したものなのかな、と思ったものです。
4'07"でパッツィ・ケンジットのポスターが写る。
権利関係大丈夫だったのかな(笑)。
そして僕がいちばん驚いたのは、4'08"のところで、地下鉄に乗る犬が写っていること。
いいのかな、誰かが連れた犬で、座席の下のへこんだ部分にちゃんと入って座りながら舌をはあはあしていて、慣れているのかな。
僕はそれ、もし大丈夫だとしてもちょっと恐いな。
最近はカートに乗せるか抱っこした状態で犬を店内に入れていいホームセンターが幾つかありますが、僕はまだそれもやったことがない。
4'09"で電車を降りるポールが、席に座った白髪の女性と握手するシーン。
いいなあ、いいなあ(笑)。
4'29"のところでホームから車両が出て行きますが、車掌が写っていて、頭は車両の曲がった部分より上に出ている。
そうか、「かまぼこ型」の車両は見通しがいいのか。
ということは、車掌になれる条件に身長があるのかもしれない。
帽子をかぶっていないのが日本人から見ると違和感がないでもないけれど、英国らしいといえばらしいですね。
という具合に、このビデオクリップは見るものすべてが面白く、ほんとはすべてのシーンについて書いてゆきたいくらい。
もちろんそれじゃ長すぎるのでやめておきますが、見た方それぞれ印象に残ったシーンがあるに違いない。
それは、作り物ではない、生の映像だからでしょう。
ところで当時、このビデオクリップについて、撮影のためにわざわざ乗ったのかと質問されたポールは、そうではなく普段からよく乗っていると答えたそうですね。
ポールは「英国的小市民」とよく言われますが、そうした庶民感覚が多くの人に受け入れられる部分であることがよくわかるビデオクリップでもあります。
◇
ところで、曲について。
ポールが好きな人は、異口同音にこう言います。
「ああ、Pressね、ビデオクリップ「は」いいよね・・・」
そうなんです。
アルバムPRESS TO PLAYの頃はポールも売れなくなっていて、そろそろ終わりか、などと言われていた。
そこでポールは、自分らしい音楽を作るのではなく、当時流行りの音だったヒュー・パジャムと組んで自分のほうから時代にすり寄っていったのが、結果として混迷を深めた。
まあ、ポールは、流行りの音を自分でもやってみないと気が済まない人だから、それは分かるんだけど、でも。
かといってファンがポールに何を求めていいのか、それも分からないという頃でしたね。
楽しい曲だけど、でも、それだけ、という感じがします。
僕も当時、あまり気に入らなかったらしい。
というのも、この記事を書くにあたり、7インチ12インチ問わずシングルレコードを探したのですが家になく、つまり、LPがあるからいいや、シングル買うほどでもないと思っていたのだと。
最初に聴いた時、ポールがいきなりプレスリーばりの低音で"Darling"というのを聴いて、おいおいほんとかよ、と笑ってしまった記憶があります。
おまけに、ジャケットは明らかにジョン&ヨーコを意識してますよね。
なんて人のせいにばかりしていますが、思い返せば当時は、僕自身、いちばんビートルズから心が離れていた時期でした。
だからポールの新譜「なんて」、と思ったのでしょう。
僕の心がビートルズに大きく戻ったのは、ビートルズのCDが出て、さらにポールが快作FLOWERS IN THE DIRTを発表してからのことでした。
ただ、CDの時代になってCDで聴くと、僕は、それなりに気に入りましたが。
それに"Darling"と呼びかける相手がリンダさんだったのが、今となってはそれでよかったんだと思えます。
このアルバムが、この曲が、ポールにとっては思い出したくない過去ではないことを願いたい、というのが今の僕の思いです。
(きっとDRIVING RAINは思い出したくない過去だろうから・・・)
しかし、ビデオクリップは名作といっていい。
僕の弟も、地下鉄といえばPressのビデオクリップだよ、とよく言います。
曲がまあまあでも、さすがポールはしたたか、センスがいい、といったところでしょうか。
まあ、逆にいえば、曲が曲だから、ビデオが余計に印象に残るのかも・・・
いや、映像によくあった曲、曲にふさわしい映像、ということでしょう。
***
調子の乗り過ぎて長くなってしまいました。
次回以降は、いつもこんなには長くしないつもりだし、ならないとは思います。
でもやはり、時々長くなるでしょう・・・(笑)・・・
しかし、久しぶりに見ると、やっぱりいいなあ、ポールと地下鉄で会えるなんて!
それと、今からでもシングルレコード探して買おう(笑)。