◎THE WORLD IS A GHETTO
▼世界はゲットーだ!
☆War
★ウォー
released in 1972
CD-0357 2013/2/4
ウォーの5枚目のアルバム。
このアルバムは、1973年にビルボードのアルバムチャートでNo.1を獲得し、その年の年間チャートでも1位に輝いています。
僕は、20代まではビルボードを中心に洋楽を聴き進めていたので、このアルバムの存在は高校生の頃にはもう知っていました。
「世界はゲットーだ」というタイトルが子ども心に印象的でした。
ただ、初めて聴いたのはまだ5年くらい前のこと。
たまたまどこかでリマスター盤が出ていることを知ったからでした。
そしてつい最近、昨年12月に、このアルバムの40周年記念盤が出ました。
今回はそれを聴きながらの記事です。
◇
このアルバムは上記のような大成功を収めたにも拘わらず、僕は、ウォーを聴くという人には会ったことがありません、実生活でもネットでも。
さいたまに住んでいるソウルマニアの友だちに会った際に、ウォーを聴いていると話したところ、そんな酔狂なやつがいるんだと冗談めかして言われ、その友だちですらまともには聴いたことがないという。
ついでに僕の恥ずかしい過去を話すと、二十歳を過ぎたくらいまで、ウォーのことを、ブルース・スプリングスティーンがカヴァーしたWarを歌った人たちのことだと思っていました・・・
アイアン・メイデンのIron Maidenのように、バンド名が曲名になっている例もありますからね。
ちなみにそのWarを歌っていたのは、モータウンのエドウィン・スターですが。
どうしてかなあと考えると、どうも、今の世の中においては中途半端な存在なのかもしれない、と思いました。
人に自分が聴いている音楽を説明する時、どんな音楽、こんな人たちに似ている、あんな雰囲気、と喩えて説明することはよくあるし、それが結構伝わりやすいですよね。
ウォーの場合、それができない。
そもそもジャンルで話すことが難しい。
大枠ではファンク、ファンクをソウルの一派と考えるとソウルということになり、実際に店でもソウルやR&Bのコーナーにあります。
僕がその存在を知った頃は、「ブラックロック」の一派とも言われていました。
Wikipediaではジャンルは以下のように書いてあります。
Funk, electric blues, soul, R&B, funk rock, reggae fusion, latin, brown-eyed soul
余談ですが、ウォーはWikipediaに日本語のページが(まだ)ないのが、やっぱり、と思いました。
ウォーは、さまざまな音楽の要素を高次元で融合させることに成功したバンド、と評されています。
実際に聴くとまったくその通りに感じます。
高次元で、というところがミソで、だから他に似ている音楽はちょっと思い当たらない。
思い当たらないので、喩えようがないのです。
◇
でもここでは文章で綴るしかないBLOG、敢えてどんな音楽かを話してみます。
ソウル。
ウォーの音楽は、ソウルよりうんと黒っぽいと感じます。
ソウルという音楽が、売れるために黒人の音楽としては軽くなってしまったことへのアンチテーゼとして出てきたのかもしれない。
なんだろう、この黒っぽさは。
ウォーの曲のリズムには、アフリカを感じさせる粘つきとうねりがあります。
軽い曲でもそのリズムに乗ると重たく響いてきます。
ただ、黒っぽくなるにつれて逆にロックに近づくという昔からある音楽の謎はここでも生きています。
ファンク。
ソウルよりは近いかもしれない。
でも、一般的なイメージとしてのファンクからみると、遅いですね、テンポが遅い。
だからぐいぐいと攻めていく音楽ではない。
ないんだけど、ノリが悪いわけではなく、そのリズムには自然と体が動いてしまうし、切れがいい。
大地のリズム感、そんなところでしょうか。
ただ、遅いファンクもあると考えれば、ひとことで言わなければならないのであれば、これがいちばん近いかもしれません。
ブルーズ。
まあこれに影響を受けていないポピュラー音楽は、ない、とは言わないけれど、基本でしょうからね。
割と単純なコード進行の曲でも、しかし、いかにもブルーズという響きではありません。
レゲエ。
リズムがレゲエの曲はもちろんありますが、これは時代を強く反映していますね。
それにレゲエは今となっては、リズムとしてはまったく普通のものですからね、これをレゲエと言ってしまうのは違う気がします。
フュージョン。
このまま進めばいわゆるフュージョンなのかな、とは思うけど、僕はフュージョンはほとんど聴かないのでなんともいえません。
ただ、「混じっている」という感覚が洗練されているのは確かです。
そういえばウォーの音楽は、様々な要素が融合しているにも拘わらず、ジャズ的要素はほとんど感じられません。
どうしてかは分かりようがないけれど、ジャズ的なことを採り入れるのは当時はもう新しくなかったのかもしれません。
ラテン。
そうかその手があったか。
ただ、前述のようにアフリカ的な要素も強く感じるのは、結局のところ、人種のるつぼであるアメリカらしいところなのでしょう。
ちなみに、CDの裏トレイの紙に当時のメンバーの写真がありますが、その中のひとりがゾマホンさんのようなアフリカの民族衣装をまとっています。
ロック。
ロックというのは、さまざまな要素がまじりあった上で成り立っているものですからね。
だから逆に、ウォーはロックなのかもしれない。
◇
1曲目The Cisco Kid
今回このアルバムを取り上げたのは、40周年記念盤が出たことと、もうひとつ理由が。
日本時間では今日、アメリカでは2月3日日曜日は「スーパーサンディ」。
NFLスーパーボウル、サンフランシスコ・フォーティナイナーズ対ボルティモア・レイヴンズの試合が行われます。
49ersのクォーターバックは、コリン・ケイパニックという2年目の選手。
シーズン当初は他の選手が先発でしたが、その選手の負傷によりチャンスが巡って来て、シーズンを好成績で終わり、プレイオフも勝ち抜いてスーパーボウルに出場することになりました。
いわばシンデレラボーイ、そのケイパニックは走ることが得意で、普通のクォーターバックは攻撃が崩れた時に非常事態として走るのですが、ケイパニックは予定されたプレイとしてよく走ります。
そのケイパニックの姿を見て、「シスコ・キッド」、この曲が頭に浮かんだのでした。
まだ若くて時には無謀ともいえるほどに走るその姿はまさに「キッド」。
ところで「シスコ・キッド」とは、アメリカンコミックの登場人物で、他にも多く歌われている人とのことで、歌詞もそれになぞらえたものだと思われるのですが、いかんせん「シスコ・キッド」を知らないのでなんともいえません。
ちなみに、今日の犬とCDの写真は、サンフランシスコ・フォーティナイナーズのレプリカジャージもハウの肩口に添えてみました(笑)。
曲は歌メロがはっきりしている歌で、ビルボードでも2位まで上昇、確かにポップで分かりやすい。
でも、今の感覚からすると、地味とは言わないけれど、そこまでヒットしたというのは想像しにくいかもしれない。
当時はいろんな音楽が次々と生まれ、人々も興味を持って接していたのでしょうね。
だからこれもある意味70年代を象徴する曲といえるでしょう。
そしてよく聴くとリズムがディクシーランドですね。
だけどそれが分からないくらいに「高次に」いろいろな音楽が織り交ぜられています。
2曲目Where Was You At
この曲はブルーズを感じますね、カントリーブルーズというか、ブルーズハープも入っているし。
リズムはレゲエ、ミドルテンポだけど軽快に進んでゆく。
何人かで楽しくユニゾンで歌うのは、自由の時代の名残という感じもします。
3曲目City, Country, City
インストゥロメンタル曲だけど、カントリーっぽい緩やかな部分と、フュージョンっぽい緊張感がある部分が交互に現れるのは、まさにタイトルのごとく、田舎と街を対比させているのでしょう。
もしくは、街にいても気持ちは田舎、ということを言いたいのか。
いずれにせよ、どちらかだけでは成り立たない、というメッセージを感じます。
13分ある長尺ものですが、
4曲目Four Cornered Room
ブルーズというよりはブルーズの原型みたいな感じで、ゆったりとして、とろっとして、しかしリズムは切れている。
歌と語りが繰り返され、歌の部分は印象的、語りは劇的で感情的。
人によってはもっと緊張感を強調させることができそうな曲だけど、適度に緩やかなのが聴きやすくてヒットしたところかもしれません。
5曲目The World Is A Ghetto
表題曲の話の前に、ロックやソウルでよく聴く「ゲットー」についておさらい。
【ghetto】
[名](複 ~es, ~s)ゲットー. 1 歴史ユダヤ人街. 2 スラム街;大都市内の少数民族居住地. 3 孤立集団. [イタリア語]
1. 中世から近代にかけて、ヨーロッパの諸都市に設けられた、ユダヤ人の強制居住区域。20世紀までにほとんど消滅。
2. アメリカの都市で少数民族の居住している区域。
どうでもいい余談ですが、「スパゲッティ」は"spaghetti"ですが、イタリア語の末尾の母音の"i"は英語の"s"と同じ複数形であって(だからイタリア人には最後の母音が「イ」で終わる苗字が多い)、単数形では"spaghetto"となります。
まあでも、スパゲッティを1本だけ食べるというのは考えられないから(笑)。
「世界はゲットーだ」と主張するこの曲は、世界を制限されたものと見立てることにより、逆に世界中の人々は同じ境遇であることを認識し、わけ隔てのない世界平和が訪れるよう訴えている、と解釈できます。
70年代前半はそういう時代でしたからね。
10分以上ある曲だけど、ビルボードで最高7位のヒットを記録。
でも、シングルはきっと短いものだったに違いない。
と思うけれど、ボーナストラックが入ったこのCDにはそれらしきシングルヴァージョンは収録されておらず(リハーサルテイクが入っている)、もしかして、曲を途中で切ってA面とB面にしてシングルとしてリリースしたのかもしれない。
6曲目Beetles In The Bag
長い曲と短い曲合わせて6曲、43分のアルバム最後は短い曲。
軽やかなリズムにのせて斉唱するさまは祭典の音楽のよう。
そのリズムはフリートウッド・マックのTusk(曲のほう)と同じ「どんっどんどどん」というリズム。
ユートピア思想的なものを感じる反面、都会生活の中ではなかなかそれを見いだせない、現実がのしかかってくるというリアルさも感じます。
そうですね、どちらかというと理想ではなく現実が先にあるという響きがする音楽です。
かといって決して悲観的ではなく、あくまでも現実は現実として素直に受け止めている、その中で希望を持とうという姿勢は、同じメッセージを発するにしても押しつけがましさがなくて好感が持てます。
ボーナストラックは以下の4曲
7曲目Freight Train Jam
8曲目58 Blues
9曲目War Is Coming (blues version)
10曲目The Wolrd Is A Ghetto (rehearsal take)
面白いことに、ボーナストラックの曲にはR&Bやブルーズ的なものが丸見え。
アルバムはスタジオで煮詰めて作り上げたということが推察されます。
◇
高次元で融合と書きましたが、別の言い方をすれば、ものすごく高級なBGMという感じもします。
歌がそれほど前面に出ていなくて、リズムを中心とした演奏で聴かせる部分が強いからです。
ただ、だから、今では半ば埋もれてしまっているのかもしれない。
そうだとすれば、なんだかもったいないですね。
いろいろな音楽を融合して前に進もうというのは立派なロック的姿勢ともいえるし。
などと書いて、僕も実は、5年ほど前に初めて聴いた時は、何をどう聴いていいのやら分からなかった。
でも、買った以上は何度か聴いて、漸く、何かがつかめました。
何も考えなくていい、ただ聴けば体が反応してくれる。
ウォーの音楽は、少なくともこの頃までは、そういうものだったのではないかと考えます。
さて、スーパーボウルはどちらが勝つかな。
実は、僕、サンフランシスコ・フォーティナイナーズは、好きでも嫌いでもない、くらいなのです。
弟はそれなり以上に好きみたいですが。
かといってボルティモア・レイヴンズも応援してきたわけではない。
ただ、レイヴンズのクォーターバックのジョー・フラッコ選手がプレイオフになってどうやら覚醒したらしく、それがどこまで本物かを見るのは楽しみではあります。
というわけで、今年のスーパーボウルは、どちらも特に応援していないだけ逆に、試合そのものを楽しむことができそうです(笑)。