◎AUTUMN '66
▼オータム’66
☆The Spencer Davis Group
★スペンサー・デイヴィス・グループ
released in 1966
CD-0303 2012/10/29
スペンサー・デイヴィス・グループ3枚目のアルバム。
秋らしい1枚、ちょうど46年前の今頃にリリースされたもの。
ロック界には天才と呼ばれる人がいます。
およそ70年に及ぶロックの歴史で、いったい何人の天才がいるのだろう。
何十人くらいはいるのかな、もうひとつ桁が上かな。
スティーヴ・ウィンウッドは、「真の天才」と呼べるひとりであると、このアルバムを聴いて確信しました。
今の言葉でいえば、「神」かもしれない。
ただ僕は、生きている人に対して「神」という言葉を使うのは抵抗があるので、僕の言葉としてはスティーヴを「神」とは言いません。
「神が宿っている」ならいいけれど。
なんといってもスティーヴは、このアルバムが出た時はまだ18歳、未成年(日本でいえば)、ですからね。
あ、文章に()をよく挿入するのは丸谷さん風、ついでにこの辺りの口調も(笑)。
「神童」という言葉が合うかもしれない。
いずれにせよ、これだけ早熟の天才は、ロック界を見渡しても他にはほとんど思い当たりません。
わずかにフリーは、デビュー時まだメンバーがみな10代だったくらいですが、でも、それも比較にならない。
スティーヴ・ウィンウッドは、18歳のこの時点で既に3枚のアルバムを作り、大ヒット曲を放っていたグループの中心人物だったのだから。
スティーヴのどこが天才かというと、やっぱり咀嚼能力とその上に成り立つ創造能力でしょうね。
しかしそれだけではない。
スティーヴには、音楽への強い思いを感じます。
その思いというのは、周りがやっているからとか、カッコいいから、というのとは違い、あくまでも音楽そのもの及び好きな音楽を演じていた先達への思い。
ロックが流行っているからこうすればカッコいい、などという下心を感じない、まっすぐな音楽への思い。
毅然としているところにもそれを感じます。
あ、でも僕は、下心があることが悪いと言うつもりはありません。
それもロックだから。
それにスティーヴ自身も、もてたい、カッコよくなりたいという思いがまったくなかったはずはないでしょうから。
ただ、スティーヴは、見てくれだけの人とは違うという意識は確かにあったことでしょう。
思いだけで何かを成せるなら人間はもっと楽しいのかもしれないけれど、当時はまだロックが創生期で、すき間がいっぱいあって、ちょっと抜き出ていると目立って実力を発揮することができたのでしょう。
しかしそれにしてもスティーヴの才能は際立っていて、そういう時代だから余計にそう感じます。
1曲目Together 'Til The End Of Time
ブレンダ・ハロウェイのヒット曲ということですが、声が若くてとげとげしいことを除けば、18歳でここまで歌えるのかとただひたすら驚いてしまう。
ところで、作曲者であるFrank Wilsonはモータウンで活躍した作曲家兼プロデューサーですが、つい先月亡くなられたということで、知りませんでした、R.I.P.
2曲目Take This Hurt Off Me
作曲者のひとりがDon Covay、あれあれつい先日ジェフ・リンでも見た名前だぞ。
調べてみると、ジェフが歌ったMercy Mercyと同じアルバムに入っているようで、これは急いでそのCDを買わないと。
この曲はスモール・フェイシズも歌っていて、当時は人気の曲だったのでしょう。
軽やかでソウルという感じはしない、この辺はまあ普通の若者という感じがまだします。
3曲目Nobody Knows You When You're Down And Out
あれですよ、エリック・クラプトンなどであまりにも有名なあの曲。
いきなりピアノで語り始めてしまう、歌だけではない、この表現力。
よく「カミソリのような切れ味」「血も滴る瑞々しさ」などと言いますが、この頃のスティーヴほどその比喩が似合う人も他にはちょっといないかな。
聴いていると、この曲の盛り上がったところなんか特に、ほんとうに、スピーカーの周りの空気が切り刻まれて血が滴り落ちてくるようにすら感じます。
歌詞に"Champagne and wine"とあって、おいおい18で酒浸りか、と思ったけど英国では18歳から飲酒できるようでちょっとほっとします。
正直言えば、でも、その言葉をしっくりと来るように歌うにはまだ若すぎるかな。
4曲目Midnight Special
C.C.R.で有名なトラディショナル・ソングですが、最初は同じことを歌っているなとは思ったけど同じ曲だとは気付かなかった。
話は逸れますが、これは、きっちりとロックにしてしまったジョン・フォガティのアレンジ能力が素晴らしいということでしょうね。
ここではスペンサー・デイヴィスが歌っています。
正直、スティーヴに比べるとまったくもって普通の人というところかな。
ただ、カントリー調のちょっと緩い穏やかなこの曲はスティーヴが歌うよりも合っているかもしれず、その辺のセンスがまたすごいともいえます。
5曲目When A Man Loves A Woman
そうですパーシー・スレッジで有名なあの名曲中の超名曲、それを齢18にして歌ってしまうなんて!
歌の抑揚の付け方に独自のものがあって、それが必ずしもうまいというわけではないのでしょうけど、それをけれんみなく堂々とやり遂げてしまう、ただただそこがすごい。
6曲目When I Come Home
当時英国で活躍していたジャッキー・エドワーズとスティーヴの共作でここでは初のオリジナル。
逆にオリジナルは時代を感じますね、もちろんいいのですが。
7曲目Mean Woman Blues
作曲者のクロード・ディメトリアスは主にロカビリーの作曲者ということで、スティーヴというかSDGの音楽の幅の広さも分かりますね。
このアレンジは前半はロカビリー、後半はブルーズといった趣き。
8曲目Dust My Blues
これは一発で分かった、エルモア・ジェイムズの曲。
スティーヴがすごいのは、オリジナルと同じように歌おうとはこれっぽっちも思っていないところでしょう。
歌はどう聴いてもスティーヴ、でもスライドギターはエルモア。
9曲目On The Green Light
スティーヴひとりが書いたオリジナル。
インストゥルメンタルで、ブッカー・T&ジ・MGズ風といえばいいのかな。
スティーヴはリードギターでもあるんだけど、うん、やっぱり、コンサートでも思ったようにギターも巧いよ。
10曲目Neighbour, Neighbour
この曲はカヴァーですがオリジナルの調べがつきませんでした。
これもスペンサー・デイヴィスが歌っている素軽い曲だけど、こっちは声の質が割とスティーヴに似て聴こえます。
まあでも、そうなると、違いがよく分かるともいえるのですが・・・
11曲目High Time Baby
スティーヴのオリジナルで、曲は割と単純なブルーズだけどもうそこから抜け出しかかっていて、むしろ1980年代の英国勢につながる部分を感じるのがすごい。
「はっはっはっはっ」と笑うように歌う部分、なんとも大胆不敵な18歳。
間奏のピアノの音のとりかたがトリッキーでまたすごい。
12曲目Somebody Help Me
ジャッキー・エドワーズの曲でここでいう当時よくあったスタイルのビート・グループ的な素軽い曲。
アルバム本編はこれが最後だけど、まだアルバムを突き詰めるというところまでは至っていなかったことは分かります。
まあでも、このアルバムは、それ以前にスティーヴ・ウィンウッドという天才に触れるだけで圧倒されてしまうのですが。
さて、僕が買った紙ジャケット盤には8曲のボーナス・トラックが入っています。
13曲目Gimme Some Lovin'
なんといってもこれが入っているから欲しかった!
ロックンロールのマスターピース、永遠に輝く名曲、ロックが好きな人ならどこかで必ず耳にしているロックの代名詞的1曲。
この曲はほんとに時代も世代も何もかも突き抜けた存在であることが、こうして他の曲と並べて聴くとよく分かりますね。
この曲は、昨年のエリック・クラプトンとのコンサートでももちろん演奏しました。
でも、会場の反応はいまいちで、正直、この曲でこんなに盛り上がらないというのが僕には意外でした。
なんとなく会場の様子を見ていると、なんだか楽しくていい曲をやっているな、という感じで基本は静観でした。
そんな中で、イントロの「でんでんでんでんでん」「へいっ!」の合いの手を入れるのを僕は大声でやって、周りから浮きまくっていました(笑)。
ここまで書いてそういうのもなんですが、この曲には説明も何もいらない、ロックの心ここにあり、そんな名曲ですね、いや、名曲という言葉でも足りない。
そんな名曲を紹介できるのは、BLOGを営む幸せのひとつでもありますね。
余談ですが、昨年僕はスティーヴ・ウィンウッドが好きになってからスペンサー・・デイヴィス・グループも買おうとネットで調べると、4年前に国内盤紙ジャケットSHM-CD盤が出ていたことを知り、スティーヴが在籍したオリジナルアルバムの3枚を買うことにしました。
うち最初の2枚は、いつも行く大型郊外型書店「コーチャンフォー」に在庫があってすぐに買いました。
しかし、3枚目であるこれはそこにはなく、市内の他の店にもなく、ネットで調べるともちろんというか廃盤状態で、Amazonの出品者価格が9000円とか、とんでもなく高くて諦めました。
ほしい物リストに入れておいたところ、1年ほど経ったつい先日、2900円まで下がったので、送料込では新品より高いけど、仕方ない、揃えたいのでついに買いました。
出品者はディスクユニオン新宿本店、感謝です、今度東京に行ったら店に行きます(笑)。
15曲目I'm A Man
こちらもヒット曲で、サビでもわっと覆ってくる歌メロとコーラスがぞくぞくする。
16曲目I Can't Get Enough Of It
なんだか急いで歌ってしまえという感じ、やっぱり過去よりはこれより後の1980年代につながる感じ。
どちらもスティーヴ・ウィンウッドとプロデューサーのジミー・ミラーの共作でオリジナルですが、ボーナストラックではスティーヴの作曲能力の早熟さも分かるのがこのCDのうれしいところ。
その昔「ポッパーズMTV」という番組で、ピーター・バラカンさんがスティーヴ・ウィンウッドについてこんなことを言っていました。
(当時人気絶頂だった)フィル・コリンズがすごいと言われていますが、スティーヴ・ウィンウッドはフィル・コリンズなんか比べ物にならないほどすごい人なんですよ。
スティーヴが日本ではあまり人気がなかったことを嘆いていたのかもしれないですが、実は僕も当時はスティーヴが大嫌いだったので、へえそうなの、くらいにしか思いませんでした。
しかし、バラカンさんのその言葉はなぜかその時心に頭に焼き付けられ、昨年、漸くスティーヴ・ウィンウッドを聴くようになって、その言葉の意味が分かってきました。
リアルタイムで接していたバラカンさんの実感がこもった言葉だったということも。
そしてこのアルバムを聴いて、スティーヴ・ウィンウッドは真の天才と分かりました。
偶然かどうか、僕が買ったこのアルバムのライナーノーツは、まさにそのピーター・バラカンさんが書いています。
もはや心酔している僕だから、最後にもう一度だけ言わせてもらおう。
スティーヴ・ウィンウッドは真の天才です。