NINE LIVES スティーヴ・ウィンウッド | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

自然と音楽の森1日1枚-May15SteveWinwood


◎NINE LIVES

▲ナイン・ライヴス

☆Steve Winwood

★スティーヴ・ウィンウッド

released in 2008

CD-0048 2011/05/15


 スティーヴ・ウィンウッドの9枚目で現時点では最新のスタジオアルバム。

 何枚目を表す単語をアルバムタイトルに入れる人は結構いますね。


 「ベテランのアルバムは安心して聴ける」

 いきなりですが、スティーヴ・ウィンウッドのこのアルバムは必ずしもそうとは限らないことを証明している1枚です。


 そう書くとこれはひどいアルバムなのかと問われそうですがそうではありません。

 僕は上記の言葉をこのアルバムや彼に対する最大級の賛辞として贈っているつもりです。


 スティーヴ・ウィンウッドの波が来ていて流れが僕の中にあることはうるさいほど書いてきましたが、これはもちろんその中で買いました。

 ブックオフで国内盤紙ジャケットDVD付き限定盤を2450円で見つけ、定価は3780円だからそれほど安くないけど聴きたいという心の流れには抗えず、でも300円のクーポン券があったので2150円で買いました。

 最近買った中古CDでは群を抜いて高いですね、まあそれはどうでもいいことですが。


 家に帰ってCDプレイヤーにかけて最初に思ったのが・・・

 なっ、なんだこれっ!??!?!??

 

 この1つ前のアルバムABOUT TIMEはスティーヴのアルバムではいちばん気に入ったと記事で報告しましたが、そのすき間がなく広がっていて心に覆いかぶさってくるような音を想像していたところこのアルバムはまったく違いました。

  

 逆、音が鋭くて細かくて心のすき間に刺さりこんできて痛いくらいの音でした。


 最初はだからすごく戸惑いもっというとかなり抵抗感がありました。

 前作をまだまだ聴き込んでいた時期だったのでこのアルバムは暫くは聴かない、もっとずっと聴かないかもしれないとまで思いました。


 だけどやっぱり気になって25連装CDプレイヤーに入れっ放しにしておきました。

 せっかく高いお金を出して買ったんだからという思いもないではなかったけど、基本的にはスティーヴ・ウィンウッドのアルバムが悪かろうはずがない、ただ今この瞬間は自分が拒否しているだけだという思いもあってのことです。


 このプレイヤーの場合こうして入れておくと自分が意図しないかたちで再生されることがあります。

 そんな中でこれがかかり、やっぱり抵抗はありましたが、でも止めたり代えたりせずに聴き続けていると、なんだか不思議と引き込まれるのを感じました。

 

 買って1週間くらいしてようやくちゃんと意図的に毎日聴くようになりましたが、そうなるとやっぱりどんどんよくなってきました。


 このアルバムはブルーズの影響がよく出ていて僕が聴いたスティーヴの中でもとりわけブルージーに響いてくる1枚です。

 彼は英国ロックのひな型の残党ですが、このアルバムでは彼がそれまでやってきたルーツの音楽を噛み砕いて自分の側に引き寄せるのではなく、ブルーズというルーツに自分から入っていった上で内部から変えて新しくしてゆこうという意気込みを僕は感じました。

 それは見事に成功し、雰囲気はブルーズであってもやはりどう聴いてもスティーヴ・ウィンウッドの音楽になっています。

 彼としてもこんな音楽はやっていそうでやっていなかったという感じの音です。


 音の面の違いを考えてみると、まずはオルガンがすき間を埋め尽くすのではなく空間の中のどこか一か所でポイント的に使っているのがひとつ。

 これはミキシングによるものもあるかもしれないですね、僕は詳しくはないのですが。
 リズムについても90年代以降に取り組んできたいろいろなエスニック的要素を完全に自分の感覚として活かしていて、切れ込みが激しくかつネバついていて間が多いリズム感が前作と違うと感じさせた部分でした。


 この年になってまだ前のアルバムとまったく違う毛色のアルバムを出してくるスティーヴはあらためて意欲的に音楽を作り続けている革命家であることを悟りました。

 だからこのアルバムは安心して聴けないのです。

 聴き手にも新たな局面に向かう心構えとちょっとした勇気が求められています。

 しかも違うことをやりながらも自分の色に染め切った音楽であって聴く者を大納得させてしまう力量とセンスにはもう脱帽するしかありません。


 全体のイメージは、比喩表現を使うなら、前作は宇宙的な広がりがあり、一方このアルバムは荒野の大地を感じさせます。

 

 若々しくも威厳を放っているこのアルバムの魅力は、まるで猫の微笑みのようなスティーヴのジャケット写真からも伝わってきます。

 まさに猫のように9つ目の命を得て生き生きとしたアルバムですね。



 ところで。

 音楽を聴きながら生活をしていると、ある期間は一定のアーティスト(複数の場合もあり)をずっと聴き続けることがある、というよりそれが普通だと思います。

 僕が今日ここでこのアルバムを取り上げたのは、正直言うとスティーヴ・ウィンウッドの波がそろそろ終わりかけていてその波が次のアーティストに移ろうとしているのを自分で感じているからであり、今の機会を逃したくなかったからです。

 別にスティーヴ・ウィンウッドとお別れするわけじゃないもちろんずっと聴き続けるけど、音楽はそのような波がいくつもあって聴く幅を広げてゆくのが楽しみでもありますからね。

 ただ、スティーヴ・ウィンウッドは今年に入ってから僕の中でかなり重要な場所にいるアーティストになったことだけは疑いようがありません。


 ありがとう、ミスター・スティーヴ・ウィンウッド!

 これからもいろいろ教えてくださいね。


 ちなみに次の波が来そうなアーティストは、名前が同じ人です・・・(笑)・・・



◎このCDこの3曲

Tr1:I'm Not Drowning

 「僕は溺れていない」というのはまだまだ現役だと主張しているのかはたまた僕はブルーズに溺れているわけではないと言いたいのか・・・

 呪文のように繰り返される緊迫感あるギターリフにのって重く粘っこくアルバムが始まります。


Tr2:Fly

 80年代ブラコンを今一度粗く処理し直して昔に引き戻したような音。

 優しい響きだけど、今回僕が思ったのはスティーヴや優しすぎないところが僕の距離感には合うということでした。


Tr4:Dirty City

 もはや朋友といっていいエリック・クラプトンが相変わらずのコクもキレも広がりもある素晴らしいギターソロを聴かせてくれます。

 この2人の組み合わせは一昨日出たばかり・・・(笑)・・・

 だけどこの2人が今は仲がいいのはなんとなくほっとしますね、いいですね。