これからの資本主義のカギは北陸にあり?! | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

弱肉強食の資本主義社会

富山からも個人や法人に金を貸し付け、商品として流通させ、現金が戻ってきたら利子とともに返してもらう金融機関が生まれた。かつて四大財閥に名を連ねた安田財閥である。バブル経済の崩壊後、グローバル化に対応しきれなかったためか安田財閥は急速に傾き、三井、三菱、住友各財閥に比べるとその存在が地味にも思える。が、その中核の安田銀行は戦後富士銀行となり、2000年にはみずほ銀行に参加して現在に至る。

マルクスは資本家同士の競争についてこう述べる。

資本の集積の過程には、資本家間の競争がある。大きな資本は小さな資本に勝つ。競争は常に小さな資本家の没落に終わり、その一部はなくなって、残りは勝者のものになる。大勢の資本家の資本が、ひとりのもとへ集まると、それは強力な資本になる。この集中は資本家の活動の規模を増大させることで、自分の使命を完了する。(1-25)

結局安田財閥の富士銀行はみずほ銀行に吸収されたのがまさにこの言葉を表している。しかし安田財閥は弱肉強食の資本主義社会における単なる負け組なのか?創業者の生き方を見ていくと、そうとも言い切れないことが分かってきた。

個人資産が国家予算の八分の一!?

安田財閥創始者の安田善次郎は、世界のマルクスの説を覆すような経営を行った。彼の家は半農半商の家系だったが、小金をためて武士の籍を買った「名ばかり武士」だった。そんな家庭で1838年に富山城下に生まれたのが善次郎だった。

少年時代の彼は藩がカネを貸してくれる大坂の商人を接待しているのを見た。士農工商という厳格な身分制度があったにもかかわらず、トップがボトムを接待する。要するに世の中カネだ、と思った彼は、江戸に出て商いを始めた。どうやら一時はギャンブルに走ったが、足を洗ってまっとうな両替商の道を歩むことにしたらしい。

明治初期に江戸時代の両、分、朱から十新法の新しい円、銭、厘に統一する「新貨条例」が出されたが、先行き不透明な新政府の出した貨幣を人々は信用せず、新貨は暴落した。しかし新政府の将来を確信した安田はそれを大量に買い込むと、後に新貨が急上昇したため、一財を築いた。これが「銀行王」の異名を持つ安田善次郎の始まりである。

彼は関西大手の百三十銀行をはじめとする数多くの破綻寸前の銀行を買収していった。破綻寸前の銀行を買収するというのは並大抵のリスクではないが、銀行がつぶれれば社会への影響が大きい。銀行買収といっても公益の損失をおさえるためである。

ただ彼はせっせと金をため込むだけではない。その使い方にこだわった。死亡時の個人資産は国家予算のなんと八分の一。今でいえば十数兆円である。これだけ蓄財しても、死ぬまで金儲けのことを考えていた。それは世の中のために有用な財政投融資を行うためであり、また日清・日露戦争等の時に出された国債を買い上げるためであった。

 

質素倹約で陰徳を積む

彼のモットーは「陰徳を積む」ことだった。善行は人に褒められたくてやるものではない、という彼の信念から、日比谷公会堂や東大安田講堂等を寄贈したが、生前は匿名だった。それでいて生活は質素そのもので、朝食は味噌汁と漬物だけ。茶人でありながら業務上の客には菓子は出さず、茶も一杯だけと、倹約に務めていた。逆に言えばそうして貯めたカネを財政投融資に回し、国債の購入に使ったのだ。カネは作るのは難しいが意味あることに使うのはもっと難しいのだ。

 しかし世間からの評判はすこぶる悪く、金をしこたま稼いで使わない「ケチ」「守銭奴」と誤解されていた。ついに1921年、神奈川県大磯の別荘に、弁護士を名乗る右翼の男に押し入られ、刺殺された。朝日平吾と名乗る佐賀県出身のこの男は、殺害直後に自殺したが、「決起」の理由をこのようにしたためている。

奸富安田善次郎巨富ヲ作(ナ)ストイエドモ富豪ノ責任ヲハタサズ、国家社会ヲ無視シ貪欲卑吝ニシテ民衆ノ怨府タルヤ久シ。予ソノ頑迷ヲ愍(アワレ)ミ仏心慈言ヲモッテ訓(オシ)ウルトイエドモ改悟セズ。ヨッテ天誅ヲ加エ世ノ警メトナス。

 つまり「こいつは大富豪でありながら世の中のことよりカネをため込むしか能がない奴だ。金持ちとしての務めを果たさぬこの男に民は怒っている。なんど言っても聞く耳を持たないので、天に替わって成敗してくれる。」というのだ。安田がいかに世のために金を使って陰徳を施してきたか知らない朝日の誤解に基づく犯行だった。

 

コクヨ、YKK,ニューオータニ…

 彼の死後、安田銀行(戦後は富士銀行)は1923年から71年まで日本最大の資金量を誇り、激動の時代を金銭面で支えた。そしてその礎を一代で築いたのが善次郎だった。富山駅前の明治安田生命ビル内には彼を顕彰した記念室がある。立地条件は最高ではあるが訪れる人は少ないようだ。むしろ世界的には彼よりもひ孫のオノヨーコのほうが有名だろう。しかしそれこそ裏方に徹する陰の立役者だった彼らしいといってよい。

 そのほか富山からは「越中」を由来とするコクヨ、世界のファスナーの半分近くを生産する吉田工業株式会社の頭文字をとったYKK、その名も「オロチ」など、個性的なスーパーカーで熱狂的なファンを全国に持つ光岡自動車など、数多くのモノづくりの企業だけでなく、日本を代表するホテル、ニューオータニの創業者など、一流企業が少なくないが、稼いだカネを世のために使うことを前提にする経営者が目立つ。

 思えば金沢でも砂金を惜しみなく人々に分け与えたという「金城麗澤」伝説の男がいた。能登にも輪島塗の塗師屋が不況で苦しんでいるときに仕事を与えるために我が家の蔵を輪島塗にする大地主がいた。所得再分配を自ら行う富裕層がいたのも、稼いだ金をお布施としてさし出す真宗門徒の伝統なのだろう。私はそこに、現行の「悪しき資本主義」を是正するためのヒントを見た。自ら公益のために寄付をすれば今以上のメリットがでてくる社会システムを構築する時期に来ているように思えるのだ。

「金は一年 土地は万年」のムシロ旗

 「資本論」の「超訳」を片手に何度か北国を歩いた。北海道では明治以降のむき出しの資本主義―すなわち先住民族アイヌ人や労働者の搾取により肥え太った資本家の姿を糾弾した小林多喜二の「蟹工船」の舞台を歩いた。貨幣経済の原点ともいえる、大量のゴールドが掘られ、交換価値を主にするゴールドがなぜ人々の心を奪うか、権利まで奪ったかを見てきた。

 北陸でも加賀前田藩にみられる輪島塗、金箔、加賀友禅、九谷焼等、殖産興業という名の資本主義社会を見た。それと同時に近代においては資本主義社会のもたらしたいびつさに対して立ち上がる民衆も見てきた。それが大正時代の米騒動であり、戦後のイタイイタイ病裁判である。

 旅の途中、金沢市の北側に隣接する内灘に寄った。資本主義経済の矛盾がもたらしたといえる朝鮮戦争前後、ここの砂浜周辺が米軍の砲弾試射場として提供されたことに対し、地元の民衆が立ち上がり、「内灘闘争」を起こした現場である。そして今なお米軍のトーチカのようなものが残されている。地元の歴史民俗資料館「風と砂の館」では、当時のデモ隊が掲げていたムシロ旗が展示されている。そこには「金は一年 土地は万年」と大書してある。

 「これだ!」と思った。「資本論」の批判する資本主義社会への対抗策は、土地、すなわち自然環境と住環境を維持することなのだ。その後、平地の極めて少ない能登半島で世界農業遺産として登録されている白米千枚田(しろよねせんまいだ)を見てこの狭い棚田で腰を曲げながら田植えや稲刈りをしなければならない人々のことを思った。なぜそこまでするのか。「土地は万年」だからだ。

米騒動やイタイイタイ病裁判で人々が立ち上がるのも、自然環境と住環境からなる土地を守らんがためである。そして北陸の人々の間で根強い、領主の奴隷ではない自分たちが自由と健康な暮らしを求めて立ち上がるのは正当の権利であるという、おそらく一向一揆時代から培われてきた精神が根付いている。むき出しの資本主義に対する民衆の在り方のヒントも、北陸の地にあるように思えてならない。(了) 

 

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