儒教的観点から上野公園を歩く | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

 

「儒教」とは

 訪日客相手に日本文化を語る通訳案内士を養成してきた私だが、実に不可解なことがある。通訳案内士試験二次面接において佛教ネタと神道ネタはしばしばでてきても、儒教については少なくとも今世紀問われたことがないのだ。しかし新渡戸稲造が日本学の名著「武士道」で述べたように、日本人のこころの中には儒教が生きてきた。

とはいえ試験にでないため、通訳案内士であっても儒教について「上下関係と男女関係に厳しい封建的な思想」という程度の表面的な理解しかなかったりする。ただ気づかないだけで、実は我々の意識に今なお儒教的マインドがしみ込んでいる。今回は儒教の聖典とされる「論語」等を片手に、日本列島を縦断し、我々にしみこんだ儒教的マインドを再発見してみよう。

 ただし引用する「論語」の書き下し文は幾種類もある上、堅苦しいので省略する。かわりに原文(白文)を現代中国語で発声し、その時のひらめきと自分自身の解釈をつづりたい。「論語」はそれ自体を読む以上に偉い先生方の解釈を読み合わせるのが「通」の楽しみ方であろうが、それらとは異なる、いささかの偏りと誤読まで含めた訳かもしれないことをはじめにお断りしておく。古典の理解というものは百人いれば百通りの解釈があるということであえてこの方法をとってみたのだ。

 儒教的マインドを求める旅はまず東京は上野公園からスタートしてみたい。東京一の桜の名所であり、動物園や不忍池のボートなどではしゃぐ子どもたちの声が響く上野公園と、四角四面でお堅いイメージの強い儒教とは何の関係があるのだろうかと思われる方も少なくないだろうが、ここは東京における儒教発祥の地なのだ。

 

王仁と「親日派」

 上野公園のシンボル、西郷隆盛像の背後百メートル行かないところに、「博士王仁像」がある。王仁とは五世紀に「千字文」や「論語」を伝えたという伝説の百済人である。しかし王仁はここまで来ていない。彼の墓とされるところは大阪府枚方市にあり、活躍したとしても現在の大阪周辺以外に考えられない。 ただ「論語」の主人公である孔子を祭る廟「忍岡聖堂」が初めて江戸に建てられたのがここだったため、ここに記念碑を建てたのだ。

ちなみに「忍岡聖堂」を建てた林羅山は京都建仁寺の禅僧だったが、朱子学に傾倒して藤原惺窩(せいか)の弟子となり、独立して江戸に下ったのだ。さらに言うなら惺窩は文禄慶長の役の際、捕虜として朝鮮から連行された朱子学者姜亢(カンハン)の弟子であるから、朝鮮とこの地は別の意味でゆかりがあるといえよう。いずれにせよ朱子学は惺窩・羅山ら京都発祥の学問ということで「京学」といわれるようになった。

記念碑をよく見ると昭和15年、つまり紀元2600年を記念した1940年に創建されている。数々の朝鮮人の名の他、日本人としては日中戦争時の首相、林銑十郎や近衛文麿、ポツダム宣言受諾を決定した時の首相、鈴木貫太郎らの名が連なり、さらに「近世日本国民史」など、数々の著作で愛国意識を高揚させた徳富蘇峰、大アジア主義の巨頭、頭山満など、偏ってはいるがそうそうたる顔ぶれだ。

 この碑は朝鮮から渡来した王仁博士を朝鮮人として日本の首都に顕彰したいという思いから建てられた。当時は「内鮮融和」といいながら厳然たる差別のあった同胞に対し、わが国こそ本来は日本に儒教を伝えるほどの文明国である、という思いを伝えたかったのであろうが、それを取り巻く人々は時代が時代だけあって、頭山満を除けば朝鮮を利用するために協賛したと見える政治家も少なくない。

 ちなみに特別賛助者としてその名を刻まれている韓相龍は、「朝鮮の渋沢栄一」と呼ばれた実業家として知られるが、皇民化政策を推進した結果、終戦数か月前に貴族院議員にまでなり、終戦の二年後に亡くなった。彼は戦後「私利私欲のために民族を売った親日派」として徹底的に糾弾された。彼はもしかしたら皇民化政策の先に天皇の下日本人も朝鮮人も平等という社会を見ていたのかもしれない。が、韓国ではそれは全く受け入れられまい。

 

「政治の道具」としての論語

あの世の韓は「論語」の中の、自分の意見を聞いてくれる主君を求めて、数千人もの弟子を引き連れつつ遊説して回ったが聞き入れられなかった孔子を思い浮かべつつ、「論語」を引用するかもしれない。

「人様が評価してくれないっからってふくれっ面しないのが学問で鍛えた男というものだろう(人不知而不慍、不亦君子乎)」

 儒教的精神に生きる朝鮮民族がこの私の引用を聞くと、「あんな民族の裏切り者を孔子様(韓国語では「コンジャニㇺ」と尊称で呼ぶ)にたとえるなんて」、といきり立つことだろう。しかしここで気を付けておきたいのは、「論語」は聖典かもしれないが、それを引用する人間は自分に都合の良いように解釈し、自己の利益を確保、できれば拡大しようとするということだ。東アジアにおける「論語」の在り方は、道徳律として自分のなかに育てるものである一方、政治の道具として人を説得させ、ひいては服従させるための道具であったという事実を忘れてはなるまい。

 ちなみに石碑の横には小ぶりの新しい石碑もある。韓日両語で彫られたその石碑には2016年に韓日文化親善協会という社団法人が設置した王仁の像のレリーフと関係者の名が連なっている。「韓日」と謳いながら日本人の名はない。しかも伝説の人物かもしれない王仁が全羅南道霊厳郡出身の「韓国人」ということになっている。何が何だか分からなくなってきたが、「論語」を伝えたという王仁がその時代に都合の良いナショナリズムに利用されるという不幸な歴史は21世紀になっても続いていることだけは確認できた。(続)

 

PR

①   「歩いて学ぶ通訳案内士」上野コース

今回と次回の舞台となる上野を歩きながら英語と同時に日本史を学ぶ講座を以下の通り開きます。

6月26日(日)午前9時半~午後1時、午後2時~午後5時半

コース:午前:東京国立博物館内にてスピーチ特訓

    午後:アメ横→不忍池→旧岩崎邸→上野公園

参加費:午前5000円、午後5000円、一日9000円

詳しくはこちらからお問合せください。

https://secure02.red.shared-server.net/www.guideshiken.info/?page_id=109

 

②   地理、歴史、一般常識、実務直前対策7月開始!

7月の毎週末と八月のお盆前後に地理、歴史、一般常識、実務の講座を以下の通り開催いたします。合格率の高さだけでなく、本当に身に就く学びをご体験ください。

http://guideshiken.info/ (最新情報その1)

 

③    オンラインサロン「ジモティに聞け!」

地理・歴史・一般常識はzoomで楽しもう!
毎週木曜午後10時から、各都道府県出身または滞在歴のある案内士試験受験者に、地元を紹介していただきます!楽しみながら学べるこのオンラインサロン、ぜひご参加ください。

パーソナリティ:英中韓通訳案内士 高田直志
日時:毎週木曜と日曜の22時から2300(無料)
視聴・参加するには
対象:通訳案内士試験を受験される、または本試験に関心のある全ての方。
事前にこちらからご登録ください。(登録・視聴は無料です。)
https://secure02.red.shared-server.net/www.guideshiken.info/?page_id=109