「古事記」をあるくー出雲 国引き神話と黄泉比良坂 | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

飛行機で向かう出雲-国引き神話

「古事記」の全体に目を通したのは四十代になってからだが、出雲で生まれ育った私はその名を知る前から紙芝居や絵本や大人たちの昔話や神楽などを通して、その世界観にはなじんできた。なにしろ上巻の三分の一の舞台となるのが出雲だからだ。

関東地方から出雲に行くにはいくつかの方法があるが、最も一般的なのは羽田空港から出雲空港か米子空港に降り立つことだ。その際はできれば窓側の席を確保したい。そうすると「古事記」への地元民による補足兼反論として書かれたかのような地誌「出雲國風土記」(以下「風土記」)の世界が堪能できるからだ。

例えば出雲空港に離着陸するときは、南西の方向に活火山の三瓶山が見え、出雲平野の西側を長浜という砂浜が南北に横たわり、出雲大社や日御碕(ひのみさき)のある島根半島西部に至る。

「風土記」によると、八束水臣津野命(やつかみずおみつぬみこと)という巨神が出雲にやってきたが、出雲はあまりにも狭い。そこで海の向こうの新羅に余った岬が見えたので、綱をつけて引っ張り、出雲にくっつけようとした。その際に杭として三瓶山を大地に打ち込み、離れないように縄をつけたものが長浜になったという。するとさしずめ出雲大社のある島根半島東部は新羅の飛び地ということになろう。

一方、米子空港に離着陸するときは、「伯耆(出雲)富士」の異名をとる大山から北西の方向に突き出た巨大な砂州、弓ヶ浜半島が見え、その先には島根半島の東端が横たわる。これも八束水臣津野命によって「高志(こし)」すなわち北陸あたりから余った土地を引っ張り、大山を杭に、弓ヶ浜半島は綱に、そして島根半島東部が北陸の一部となったという。実にスケールの大きな話である。環日本海交流のハブが出雲であったことを物語っているようだ。

黄泉比良坂(よもつひらさか)-この世とあの世の境

機体が滑走路にズシンという音を立てて着地すると、反射的にスサノオを想う。が、その理由は後に述べるとして、まずは中海の南に位置する松江市東出雲町に向かいたい。ここには「古事記」で、火の神を生んで女陰が焼けて亡くなったイザナミと、それを呼び戻そうと黄泉の国に向かったイザナギが「本邦初の夫婦喧嘩」をしたという黄泉比良坂(よもつひらさか)がある。

細い山道を車で登っていくこと数分で、駐車場に着く。車を降りて丘に上がると、日本の石柱の間にしめなわが張られている。結界であろう。あたりは霊気が漂う。向こうに巨岩が見える。磐座(いわくら)だ。この後、出雲ではなんども磐座を見ることとなるが、この磐座はこの世とあの世の境だという。「古事記」には黄泉の国の穢れたものを食べたため、腐敗した自分の身体を夫に見られたイザナミが、怒り狂って夫を追いかけてきた修羅場の様子が描かれているが、その舞台がここらしい。

結局イザナギは大きな岩を置いて道を防いだが、その巨岩が目の前の磐座だという。巨岩によって道をふさがれたイザナミは、「あんたの国の民を毎日千人ずつ殺してやる!」という呪いの言葉をかけると、イザナギも「それなら毎日千五百人ずつ子どもを産ませてやる!」と応酬する。「売り言葉に買い言葉」であろう。しかしそのため日本の人口は毎日五百人ずつ増えるのだ、と「古事記」は説明している。

計算してみると、一日五百人増えるのであれば、一年に18万人以上人口が増えることになる。奈良時代ならいざ知らず、日本は2005年に約1億2800万人を記録して以来、15年後の2020年には約1億2400万人にまで減っている。特にコロナ禍の2020年には出生者数が激減したこともあり、前年に比べて人口が50万人以上減っている。「イザナミの売り言葉」が「イザナギの買い言葉」に勝ったかのように。

 

天照大神とスサノオの誕生

ところで、妻から逃げ切ったイザナギがその後宮崎で禊をすると、左目から天照大神を、右目から月読命(つくよみのみこと)を、そして鼻からスサノオを生んだ。「古事記」にはその母親がだれかの記述はないが、「日本書紀」ではイザナミの子ということになっている。そして天を司る天照大神と、海を司るスサノオが対比的に書かれるが、母と慕うイザナミが「根の国」にいるため、会いたくて駄々をこねるスサノオを、父のイザナギは高天原から追放した。

ちなみに「根の国」とは黄泉比良坂の巨岩でこの世から遮られた「あの世」を意味する。「古事記」が編纂された奈良時代において、出雲はまさに「根の国」だったのだろう。そして明治時代に懸命を考えるにあたって、「島根」という名にしたのも、表面的には県庁所在地の松江が「島根郡」にあったこと、そして日本という「島」の「根(ルーツ)」であることを暗示するためだったのだろう。

私は出雲空港に機体が着陸する瞬間にはスサノオのことをとっさに思うと先に書いたが、それも高天原=天=上から根の国=出雲=下に降りてきたのが、まさにスサノオだったからに他ならない。

駐車場に戻ろうとすると、石碑を見つけた。昭和15年(1940年)、つまり神武天皇即位二千六百年記念の国威発揚の年に建てられたものだ。そして「古事記」の旅をすると、必ず「昭和15年」という節目の年に建てられたモニュメントに出くわす。出雲では比較的少なかったが、やはり「古事記」が真実として読まれていた当時のこと、国家権力の神話利用の波に乗った出雲人も一定程度いたということを改めて発見した。

 

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