「古事記」をあるくー淡路島とイザナギ・イザナミ | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

 島の始まりは淡路島?

 「男はつらいよ」を見ていると、寅さんが露店で商売をするときの口上を述べるシーンがよく出てきた。そのなかで「ものの始まりが一ならば、国の始まりは大和の国、島の始まりは淡路島…」というくだりがある。無知無学なおじさんという設定の寅さんだが、この言葉は現存する日本最古の史書「古事記」に由来する。「史書」とはいっても全三巻のうち上巻は神話、中巻は伝説、下巻は当時なりの「近現代史」で終わるものだ。

 「国の始まりは大和の国」というのは、飛鳥に朝廷があったということでなんとなく納得かもしれないが、なぜ「島の始まりは淡路島」なのか。「古事記」によると、天地が形成され、「神代七代(かみよななよ)」という最初期があった。その終わりにイザナギという男の神が現れ、イザナミという女神と出逢い「国生み」をしたので、日本列島が生まれたことになっている。

 ちなみにこの「国生み」というのはイザナギがイザナミの「引っ込んだ部分」をみつけ、イザナミはイザナギの「出っ張った部分」が気になり、「陰と陽がまぐわって」この日本列島ができたということになっている。この大らかさがこの国の始まりなのだ。

 通訳案内士試験道場の地理の授業で毎回皆さんに問うのが、「兵庫県の五つの旧国名は?」というものである。播磨、摂津、丹波、但馬までは出るのだが、「淡路」というのはなかなか出ない、「置いてきぼり」にされがちな地域でもある。そもそも「兵庫県」ほど寄せ集めの県は他にない。律令体制のもとでは畿内だった摂津のほか、山陽道の播磨、山陰道の丹波と但馬、そして南海道の淡路と、「畿内三道」の寄せ集めなのだ。そのうち淡路島は四国と同じ「南海道」に属しており、江戸時代には阿波の徳島藩の一部だったが、廃藩置県の折に阿波から分離し、兵庫県の傘下に入ったという。

 

明石海峡大橋を越えて

初めて訪れた1990年には、明石から船で岩屋港まで渡った。港には江島というごつごつした岩の島があったが、そここそイザナギ、イザナミが国生みをしたときの初めての島だといわれている。なお、淡路島の南の紀淡海峡には沼島という小島が浮かび、そこが「長男」ともいわれているが、神話というものが目の前の現実の島と限定されるのも面白くない。「比定地」、すなわち「ここじゃないだろうか、いや、きっとここだ。」という場所がいくつかあるのも想像力をかきたててくれるというものだろう。 

が、その後は阪神淡路大震災直後に完成した明石海峡大橋をこえてすぐ島に到着する。抜群にアクセスが良くなった。北側の入口の淡路SAからはこの美しくもしなやかな世界一のつり橋が、六甲山を借景として横たわる。

 

旧官幣大社の伊弉諾神宮

島の西側に伊弉諾神宮があるので向かってみた。社伝によると、最初にこの島を生んだ後、「大八洲」(おほやしま)」すなわち北海道と南西諸島を除いた現在の日本列島を次々と生んだイザナギ・イザナミが、後に娘の天照大神に国の運営を任せてから隠棲したのがこの地だという。「皇祖天照大神の祖神」という立場だったからか、明治政府が定めた社格の最高位である「官幣大社」にまでなった。

「国生み」という国家的偉業を強調したいからか、日本地図が描かれた石碑が置かれている。それによると、この神社の真東は伊勢神宮、そして夏至の日の出の方向は信濃国諏訪大社、日の入りは出雲大社、冬至の日の出の方向は紀伊の熊野本宮大社、そして日の入りは日向の天岩戸神社と重なり、ここが日本の名だたる神社の交差点であることを示している。ちなみにこれらの神社は「古事記」のなかでも極めて重要な場所であるので、おいおい紹介したい。

とはいえ伊弉諾神宮境内の規模は各地の「旧官幣大社」の中でも小さく、また社殿も明治時代になってから建てられたものだ。そのためか長い歴史によって醸し出される厳かな空気が漂っているわけではない。むしろ地元の氏神様という感じだ。試しに絵馬の願い事を見てみると、訪日客の外国語表記のものはほぼなく、地元の〇〇高校合格とか、インターハイ優勝の祈願など、地元民の願いを受けとめる場所になっていて、ほほえましい。

名だたる神社のブランドを借りて自分を大きく見せるような、言い換えれば「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」ようなことをしなくても、地元の人々の心の支えになっていればそれで十分ではないか、などと思いながら、神宮を去った。

後で調べてみて興味深かったのは、江戸時代までは祭神はイザナギ・イザナミの二人だったのが、明治時代にはイザナギ一人となったと思えば、昭和に入るとなぜか元通り夫婦ともに祀られることとなって現在に至っているということだ。江戸時代まで夫婦だったのが明治になって出世すると同時に「単身赴任」したかと思うと、元通り夫婦で暮らすようになったことの背景にはどのような意味があるのだろうか。そのなぞ解きをするためにも、出雲に向かわねばならない。

 

 

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