⑧義―津軽海峡を越えた会津藩士たち | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

⑧義―津軽海峡を越えた会津藩士たち

 下北半島にできた斗南藩

同じ青森県といっても、西側の津軽と東側の南部地域は気候的、言語的、文化的にも大きく異なる。「南部」とは方角を表すのではなく、中世から幕末まで南部氏が治めていたためこのように呼ばれる。その南部地域でも北側の下北半島は、かつて「不毛の地」とされる荒れ地で、明治初期にここを開墾したのは戊辰戦争で敗北した会津藩士たちだった。彼らは新政府によって住み慣れた会津を追われると同時に、この不毛の地を与えられ、廃藩置県の数年前、「()(なみ)藩」と銘打って入植がはじまったのだ。

 着の身着のままで下北半島にやってきた彼らは、まず住む家もなく、冬を過ごすための薪もない。飢えと病にさいなまれ、津軽海峡を越えて北海道に再移住する者もいたという。しかしそのような中でも地元の人に学問を教え、「文化の伝道者」としての役割を果たしつつ開墾してきたのも旧会津藩士たちである。

むつ市の大湊には、新潟港から移住しに来た彼らが到着した船着き場や、旧斗南藩史跡の公園が残され、近くには彼らの集団墓地もある。そして彼らが開拓して酪農を行った三沢市には道の駅「斗南記念観光村」ができており、彼らの苦労の日々が偲べるようになっている。

 

「明治維新」150年記念でよかったのか?

2018年は長州=山口県出身の安倍内閣の時代だった。そのとき政府は「明治維新150年記念行事」を各地で催したが、北日本各地では事情が異なった。私はこの年、斗南藩の史跡の所々で「義の想い、つなげ未来に」という会津若松商工会議所の幟が立っているのを見た。

同じ年、津軽海峡を越えた函館五稜郭では、「義は我にもある」というタイトルの戊辰戦争の史跡を紹介するパンフレットを見かけた。武士道の徳目の中でも大切にされる「義」。会津や奥羽越列藩同盟はそれを否定され、朝廷に逆らう逆賊とされた。まさに「勝てば官軍」である。そして安倍政権は北日本の人々の気持ちを知ってか知らずか各地で「明治維新150年記念行事」を行ったのだが、北日本では「戊辰戦争150年記念行事」を行った。21世紀になってもこの認識の断絶は埋まっていないことが証明された。

「不器用な」東北に生きつづける武士道

「武士道」を世界に知らしめた新渡戸を批判的に見つつも、彼のふるさとの東北の近代遺産を見るにつれ、周りの価値観に合わせて社会的地位を築いたのではなく、あくまでも自分の大切なものを守り通して身を亡ぼす「不器用な人々」の中に、かえって武士道が生きてきたことを感じてきた。

新渡戸の生まれたころには幕藩体制があり、藩のために生き、藩のために死ぬのが義であった。新渡戸が大人になると、藩の代わりに忠誠を誓う対象が天皇であり、国家になった。武士道は「精神遺産」としてもてはやされ、利用された。しかし戦後はそのことへの反省か、武士道はタブーとなった。とはいえサラリーマンたちの忠誠の対象は会社という形で残った。

そして今、武士道があるとしたら、それは藩や国家や会社など、他律的なものではなく、たとえ不器用ではあっても自分で選んだ道に忠実に生きることにあるのではないか。その意味でも武士道は今なお生きている。

東北の新渡戸が、「武士道」の中で戊辰戦争のことについて触れなかったのは、口にできないほどの辛い人生を負ってきた同郷の人々のズーズー弁による叫びを、格調高い英語で述べることの強烈な違和感を知っていたから、もしくは語りきれないことを知っていたからかもしれない。

そのようなことを考えつつ、この北国の地から南に、家路をたどった。(了)

 

 

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