秋はやっぱり夕暮れか | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

東京と秋の鳥たち

 最後に最も詳細に、心を込めて書かれている季節が秋である。曰く「夕日が稜線と一つになるころ、カラスがねぐらに帰ろうと、カアカアとなきながら数羽ずつ飛んでいくのも胸がキュンとする。それ以上に雁など渡り鳥が隊を組んでサーっと飛んでいって、小さくなっていくのもいい。陽もとっぷりと暮れると、秋風の音が聞こえる中、虫の声が響くのなど、なんともいえない。(秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるはいとをかし。日入りはてて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。)」

これこそ高校時代の古典の老先生が言ったままのわがふるさとの秋である。だが関東平野のコンクリートジャングルには、カラスはいても、ゴミ捨て場をあさり、時には人を襲うとりであり、「あはれ」とは程遠い。

しかし都心に残る森林、国立科学博物館付属自然教育園を晩秋に訪れた時、その考えが多少変わった。紅に染まる林を歩きつつ、木々を見ると、所々にカラスがとまっていたが、その時ある故事を思い出したのだ。

中国では、カラスは大きくなったら年老いた親に餌を運ぶ、親孝行な鳥とされる。よってそれがカアカア言いながらねぐらに帰るのを見ると、親子愛が思い起こされるため、清原さんのような中国通のインテリは、「カアカア」が「かあさーん」と聞こえたのか、親を思う子のこころを連想して胸がキュンとし、「あはれ」を感じたのだろう。私はというと、手放しであはれを感じたわけではないが、古典の知識で左脳的に良さを認めようとする自分に気づいた。

 また、東京で雁の編隊は一度しかみたことないが、隅田川や江戸川、東京湾付近では秋から冬にかけて無数のユリカモメを見る。あれだって北国から飛来する立派な渡り鳥だ。都の鳥としても知られるが、在原業平も「伊勢物語」のなかで京都から東下りをして隅田川で「ミヤコドリ」と呼ばれていたユリカモメをみて思いにふける名場面がある。

「秋は夕暮れ」→「秋はやっぱり…」

別の機会、晩秋の夕方に都庁に登ったとき、渡り鳥の編隊こそ見られなかったが、富士山に向かって陽が沈むのを見た。刻一刻と変化する色彩のグラデーションを見ながら、素直に認めた。

秋はやはり夕暮れ。これだけは千年前の京都の貴族も、千年後の東京の庶民の私も共有できる美しさだ。とはいえ誰でも心動かされる春の桜と秋の紅葉を全く「あはれ」「をかし」の対象として見ない清原さんは、通り一辺倒のことが嫌いな作家だったに違いない。

そして私が人生に季節を重ね合わせる場合の「人生の秋」とは70代後半以降である。親孝行な(?)二人の我が子らに見送られ、山の向こうからやってくる阿弥陀様のような渡り鳥のお迎えをまち、この世をお(いとま)するのもまた「いとあはれなり」である。

まとめると「冬は昼前、青春期。春は昼過ぎ、中年期。夏こそつとめて、熟年期。秋は夕暮れ、高齢期。」これがmy枕草子@ tokyoである。中高時代に暗記させられたこの冒頭部分だが、千年の美の権威に唯々諾々とひれ伏さず、各自なりの「my枕草子@○○」を考えてみるのも古典の楽しみ方として面白いではないか。実際清原さんの魅力は「my枕草子@平安京」を最初に言い出したとこにあるのだから。 

最後に、高校時代に「枕草子」は都会人には分からない、と言ったふるさと想いの老先生も、すでに人生の秋を終えられた。草葉の陰から我らおっさん、おばはんになった教え子たちを見ていて下さるに違いない。

 

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