石川県VS新潟県 伝統工芸合戦 | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

石川県VS新潟県 伝統工芸合戦

経済産業大臣指定伝統的工芸品のうち、都道府県別で最も多いのは京都府の17件、二番目は新潟県および東京都の各16件、三番目は沖縄県の15件である。新潟県は京都や沖縄のように一国の首都になったこともないのだが、伝統工芸県でもあるのだ。特に県立歴史博物館での見ものの一つが、燕の槌起銅器や小千谷の縮などの作り方を詳細に説明しているコーナーだ。

燕三条駅から徒歩数分のところに、燕三条地場産業振興センターがある。パンフレットには「鍛冶の技が息づく街、三条。槌起と研磨の技が光る街、燕。」とある。ここの一階には地元の職人たちが作った神輿がある。神輿とはいっても銅板で作ってある。重そうではあるが、これを担ぐのが燕の心意気というものだろう。

また三条市には市立歴史民俗産業資料館や鍛冶道場という体験施設が、燕市も産業史料館などがある。中でも鍛冶道場では五寸釘を金槌でたたいて一時間ほどかけてペーパーナイフを作るという体験ができる。鍛冶職人さんたちについて、指導を受ける際、意外にも地元の方言にてこずったが、よく聞くとなぜか故郷山陰の言葉にも似ている。江戸時代の北前船に乗って、山陰の人もこの地にやってきたのだろうか。そういえばここからほど近い港町の名は「出雲崎」であるのも何かの縁かもしれない。

このように、三条燕地区は正に地域を挙げて伝統的工芸品を町おこしにしているとみて間違いないだろう。正直、新潟県がここまで伝統的工芸品に対してこだわりがあるとは、気づかなかった。むしろ九谷焼や加賀友禅、輪島塗など、加賀百万石の文化を残す石川県のほうに注目していたからだ。

別の機会に工芸品を求めて金沢に向かった。石川県恐るべし、である。伝統的工芸品として経済産業大臣から指定されたものは十件と、新潟県には及ばないが、県を挙げて伝統文化を守ろうという心意気は強く感じた。まず、兼六園横には県内の伝統的工芸品が一堂に会する県立伝統産業工芸館を、県南部の加賀市には石川県九谷焼美術館を、さらに県立の後継者養成機関として九谷焼技術研修所や輪島漆芸技術研修所、金沢職人大学校など、その手厚い体制には恐れいる。

ここでみられるのは職人気質ばかりではない。九谷焼を展示するところは「工芸館」ではなく「美術館」と称している。なるほど、文禄慶長の役で朝鮮から伝わった真っ白な磁器、有田焼の影響を大きく受け、丸く真っ白な磁器をカンバスに見立て、原色の釉薬で塗られた油絵のように思えるのが九谷焼だ。九谷焼が工芸という面と美術品という面を兼ね備える所以である。ここを見学した際、地元の子どもたちの作品も展示されていたが、いずれも出色だ。岡本太郎なら、みなを金賞にしたことだろう。子供の頃から土地に伝わってきた文化を大切に、体を持って教え込む。これ以上の郷土教育があるだろうか。これが文化行政なのだ。そしてこれは前田氏の加賀百万石金沢藩の伝統なのだろう。

北陸における伝統的工芸品の両雄、石川県と新潟県、甲乙つけがたい工芸品合戦である。いつまでもよきライバルであってほしいものだ。