白夜-14th-モチベーション・勉強法・大学受験・クラ
約束の日 まで、時間の流れが遅く感じた。
この日の時刻は深夜だった。
起きている時間にしていた勉強に疲れ、机の上にペンを置き、ふと右を向く。
この部屋の東側には、大きな窓が一つある。
1年前は、何の意味もなく、ぼうっと横目で空を眺めた窓だった。
1年後は、この窓から昇りゆく太陽を幾度となく見た。
唐突にゲーテの言葉を思い出す。
『大胆な行動には、天賦の才と魔力が宿る。』
行動を変えるためには、意識を変える必要があり、その変化が最終的に運命を変えていく。
多くを求めれば、それはより大胆になり、やがてリスクを恐れなくなる。リスクを超え始める。
いつしか自分も挑戦するレベルの大学だと考えていた受験校に、本気で合格したいと思い始めていた。それは思い上がりかもしれない。偏差値的にも合格できるかはわからない。
だが逆に、模擬試験の成績にどれほどの決定力があるのだろうか。その数字は、未来を知っているほど重く、絶対的なのだろうか。
そうは思えなかった。
時に不合格になった時のことも考えたりした。受験を決めた時から浪人はしないと誓っていた。
家の都合のこともあったかもしれない。でも、それだけじゃなかった。
限られたチャンスの中で全力を尽くすからこそ、その軌跡が誇りになる。もし人が永遠に生きられたならば、機会も永遠となり、怠惰に堕ちいた時間を送り続けてしまうだろう。
だから今日の1秒1秒にさえも、未来を刻みつける気持ちで問題を解き続けていった。制限ある時の中で、本気で走りたい。ベストを尽くしたい。
時間はもう夜の1時半になっている。
東の窓からは白夜が見えた。今日の晩は月明かりがとても強い。
部屋の電気をすべて消し、窓を開ける。
冷たい夜風を最初に耳から感じると、少し離れた木の影が踊って見えた。
こんな夜には何が起きても不思議じゃない。
もしかしたら、小石が歌い出すかもしれない。
机に向いすぎておかしくなったのだろうか。
言葉にならない予感だけがしている。
インスピレーションは人を動かす。
自分もそれに従い二階から降りて、静かに玄関の扉を開く。
誰もいない空の下に出た。広い芝生の上を歩いて行くと、月の光が自分の影を映しだしていることに気がつく。
自分も立ち止まると影も止まる。
しばらくそれを見て、その影にこう問う。
(何か見える?)
それは何も言わず動きもしない。
諦めて空を見上げると、空気が澄んでいるせいか、星が良く見える。
きっと広い規模で見たら、この大きく感じる世界も、小さな一部にしか見えないのだろう。
だから多分、この今日という一日も、長い一生の中から見たらほんの一瞬なのだと思う。
その一瞬を見た人に、この輝きと同じような気持ちを与えることができるならば、先へと歩いていく意味があるのかもしれない。
ここまで予感に突き動かされてとった行動でもあった。
今も確かな根拠なんて一つもない。
だけど、気がついた人だけに機会はその存在を明かしてくれる。届いた人だけが変われる何かがある。
志望大学生からもらったギフトもその一つ。届けられた言葉もその一つ。きっと長い物語のほんの一部。
ふいに動かなかった影が体を震わせた。
影は素早く家に消える。
小石が歌う声をBGMにしながら、その日は深く眠った。