使命-5th-ギフト・クラッチバッグ・勉強法・大学受験 | 大学受験デイズ-GIFT-

使命-5th-ギフト・クラッチバッグ・勉強法・大学受験

大学生とキャンパスを回っているとき、僕はここに通っている自分を想像してみた。


偏差値的には届かない大学。
今の自分のままでは手が届かない大学。


歩きながら、大学生は熱のこもった言葉を、隣にいる僕に発し続けてくれた。
それは僕がどこか曇った眼をしていたからだったかもしれない。


「いつでも夢や目標を達成するのに、障害は付き物だよ。何かに挫けそうになったら、偉大な人物は多くの否定をされ続けて銅像になったことを思い返して欲しい。」


僕の反応を見ながら、彼は言葉を臨機応変に選んでいったようだった。


「肯定されることも成長には必要だと思う。否定されることも達成には必要なんじゃないかな。それは、自分が頑張っているから、他人の目につくんだよ。」


「もし君が、自分のことをよく知らない人から否定されるならば、それは自分自身が努力して輝いて見えるからじゃないかな。もし辛くなったら、そう気持ちを切り替えるといいよ。」


確かに否定的な人間は、その人個人が持つアイデンティティーを超える何かを相手が追い求めるからこそ、それをバッシングするのだろう。


彼が熱い言葉をぶつけてきてくれたにも関わらず、自分の視線は足元に落ちていた。


そしてこう言った。


『でも、不安や否定やマイナスの感情に、すぐに揺らいでしまう自分がいます。無理なのかもしれません。』


彼が立ち止まった。
僕の方に体を向ける。




「ならなおさら夢を貫こうよ!合格を掴みとろう!!今の自分を超えてやろう!!!」


「俺も一人じゃ何もできなかった。だけど、自分の仲間で居てくれる人がいるからこそ、闘える。今だって一人じゃないんだよ。君も、俺も、一人じゃない。」


この言葉を放った時の大学生は、僕の眼をまっすぐに見ていた。

何かを僕に訴えているような眼だ。


その眼を見た時、自分の気持ちが湧き上がってきた。
がむしゃらに目標を目指していた時の気持ちだ。


あの頃の感情の中にも、不安な気持ちはずっと抱えていたし、今もひとりで東京に来たことも何処かで強がっていたが不安で一杯だった。

合格なんてできない、それもうすうす感じていた。

夢を見ているんだ、そう思い込もうとしたこともあった。







でも、、、どうしても諦めきれなかった自分がいた。







僕はただただ、頑張っている自分に素直になりたかった。

今までもだらしない自分のことがずっと嫌いだった。

何かに全力で夢中になれない自分がずっとずっと嫌いだった。


でも、今は熱く夢を追いかけている自分のことをやっと受け入れられるようになってきたんだ。

やっと初めて自分を認められるようになってきたんだ。


誰かに、否定されてもいい。

人に、馬鹿だと笑われてもいい。


諦めて笑うなら、傷ついても泣く方がいい。

そしてなにより今の自分の気持ちを信じたい!


素直な感情が、全身に駆け回った。

どのくらい時間が経過したのかはわからない。
多分数秒だろう。


少し震えた声でこう答えた。

『先輩の言葉、本当に胸にきました。今の自分の気持ちに素直になって、最後まで挑戦し続けます。最後まで、やり遂げます。』


これは自分自身に対する誓いだった。先輩という言葉は自然と出た。


「約束だね。」

正門まで歩き、別れの時が近づいていた。僕たちも打ち解けていた。

『来年、目指した大学に合格して、欲しかったクラッチバッグを持って大学に通います。』


すると彼が、
「これ持って行きなよ。今の自分自身の気持ちと宣言を忘れないために。そして、これを見るたびに、今の気持ちを思い出して欲しいんだ。」
と僕にクラッチバッグを渡してくれた。


「今の自分の気持ちだけは絶対に忘れちゃダメだよ!それを持って、夢を掴む自分に約束しなくちゃだね。」


「そして、もし合格できなくても、10年後にこれを見たとき、必ず、言葉にできない気持ちになるよ。その感動できる心も、贈り物だよ。ギフトだと思うんだ。」


言葉が胸に突き刺さる。来て良かったと心から思えた。


感じた気持ちは素直に口に出せず、こう返していた。


『ギフトって贈り物って意味ですよね?』


「ギフトって二つの意味があるんだよ。ひとつは贈り物。
そしてもう一つは、
天から与えられた才能。」


クラッチバッグをそっと見つめる。


きっと彼もまたここまで来るのに、僕にはわからないくらいの経験があるのだろう。

それを初めて会った自分に渡してくれる、そんな優しさに涙が出そうになった。

お互いの名前も知らない。

ただ落ち込んだ心を励ますためだけに、そのためだけに動いてくれた。

その行動に、深く感動し泣きそうになった。


「今、その熱い気持ちになった自分がいたってことが、大きな誇りだし、将来の財産やかけがえのない思い出になるよ。それは熱くなっている今にしか、手に入らないものじゃないかな。」


僕の手にそっと渡してくれたクラッチバッグは、とても重く感じた。

この中は決してカラじゃない。




「俺も、もっと頑張ろうって気持ちになれたよ、ありがとう。」


彼がそっと右手を差し出してくれた。




(感謝するのは、僕の方です)


言葉が出せなかった。

だから心の中で何度も繰り返し言った。


僕も右手をそっと差し出す。


固い握手の手から、僕自身に何かが伝わってきたように感じた。


彼は最初と同じやさしい笑顔で笑いかけてくれた。
僕も笑った。


最後に僕たちは連絡先を交換して別れた。


この特別な出会いには、大きな感動があった。
そしてそれは希望となり、再び情熱を燃やし始めた。



言葉が勇気をくれ、クラッチバッグが誓いを支えてくれることになる。


信念は、必ず伝わる。
そこに距離はいらない。




帰り道、見知らぬ東京のターミナルで僕は新幹線を待っていた。流線形をした乗り物が入ってくる。入口のドアに自分の姿が写った。

そこには消えない気持ちと誓いを手に入れた自分自身がいた。



「成功を決定づけるのは『本能』である。
偉大な人を偉人たらしめるのは、分析力ではなく、追いつめられた時の直感なのだ』
ガルリ・カスパロフ