潰れた左目だけでなく、
頼りの右目もかなり視野が狭くなってきた…。
街に下りるまで、あちこち色んなものにぶつかった…。
それでも何とか時間はかかったけど、
無事街まで辿り着いたんだ…。
まずはあの建物に…
街に初めて来たとき行ったあの建物…
勿論、あの娘に逢うためさ…。
行くのはあの時以来…
またあの教えられた時間に行ったんだ…。
そして、また同じように入口の所で待ってたけど、
やはり誰も出てこない…。
暫く待ったけど、誰も出てこない…。
建物の周りを回ってみたけど… 誰もいない…。
「やっぱり今回もダメか…」
オイラは飽きられて、
また前回と同じように スミレの入った袋を建物の入口に置いて
その場を去ったんだ…。
まだもう1つ目的があるから…
次は勿論、Kのところだ…。
目の状態はますます悪くなってる…。
勘だけを頼りに道を急いだ…。
何とか辿り着いたオイラは庭に忍び込みKを呼んだ…。
「K…!K…!」
「M… Mじゃないか… こっちに来いよ…」
「K…」
「お前、傷だらけじゃないか…大丈夫か?」
「あ~これは別にたしたことないよ…」
「どうしてた?心配してたんだ…オレもちょっと言い過ぎたからな…」
「あぁ、もうあれはいいんだよ…」
「それより、Kにどうしても伝えたいことがあって…」
「何?」
「その前にこれ…Kの好きな光る石…」
「おぉ…これ、ここに来る時、持って来れなかったからな…」
「ありがとう…」
「いや、お礼を言いたのはオイラの方だよ…」
「オイラみたいな捨て猫がこうやって生きてこれたのはKのおかげ…」
「本当はありがとう…」
「いやいや…、それよりさ、M… 実はお前にまだ言ってないことがあるんだ…」
「言ってないこと?何…?」
「実は、お前が生まれて間もない時、お前の親とご主人様が事故で死んだんだ…」
「えっ?」
「オレはその場にいて、唯一生きてたお前を助けたんだ…」
「…」
「お前の左目はその事故でそうなったんだ…」
「ちょ、ちょっと待って…それ…本当の話?」
「本当の話さ… お前の首に付けてる鈴は母親の形見さ…」
「そ、そうなんだ… そうだったのか…」
オイラは溢れる涙を抑えきれなかった…。
「K、教えてくれたありがとう… オイラ、捨てられたわけじゃなかったんだね…」
「お前、もうほとんど目が見えないんだろ?」
「今話しとかないと…後悔すると思って…」
「K…、何て言ったらいいか…とにかく、ありがとう…」
「本当にありがとう…」
「M、まさかお前、その状態で帰る気か…?」
「うん、山に帰るよ…」
「無理だろ… ここに居ればいい…」
「いや、帰るよ… 自分の家に…」
「話してくれてありがとう…」
「K、元気でね… 本当にありがとう… バイバイ…」
「M、気をつけて帰れよ… また来いよ…」
もう…涙が止めどなく出て…
自分がどこを歩いているのか全くわからなかった…。
とにかく…歩いた…。
目は…もうほとんど見えない…。
フラフラだった…。
で、何かにぶつかったんだ…。
オイラはその場に倒れ、もう動けなかった…。
意識が遠のいていくのが自分でもわかった…。
でも次の瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきたんだ…。
「わぁ、カワイイ…」
オイラはかろうじて動く右目を精一杯開けて見たんだ…。
そこに見えたのは…
あの娘が首に沢山のスミレを飾り付けてた姿だった…。
「あぁ…」
オイラはありったけの力で立ち上がろうとしたんだ…。
前足… そして後ろ足…と、ありったけの力を込めて…
一瞬何とか立ち上がったが、踏ん張りがきかず
フラフラっと3、4歩左側に滑るように転んでしまった…。
次の瞬間…
左側から黒い物体がやって来て、オイラにぶつかり…
オイラは宙に舞った…。ゆっくり、ゆっくりと…
そして、地面に着く直前…
あの娘の姿が目に入ったんだ…。
一瞬だった…。やっぱり天使だった…。
そして、地面に叩きつけられたオイラは
全ての音、映像が遮断され、文字通り「無」の世界へ…
何もない世界…
でも暫くして、唐突に眩い光が現れ
どんどん近づいてくるんだ…
そして、オイラを包み込むと、オイラを呼ぶ声が聞こえてきたんだ…。
オイラはその声の方に歩いて行った…。
ちゃんと歩けるし、
どこも痛くない…。
何より…ちゃんと見えてる…。
そして、その声のところまで来ると
オイラは当然のようにその人の膝の上に丸まった…。
この感触…
この匂い…
そして、この声…
全てが懐かしく温かい…
そうなんだ… やっぱり、そうなんだね…。
「おかえり… チビちゃん…」
「うん、ただいま…」
やっとおうちに帰って来たんだ…。
オイラのおうちに…
(おわり…)
今日の曲は… Muddy Waters - 「I Feel Like Going Home」
皆様、「捨て猫Mの恋」にお付き合い下さり、ありがとうございました。
あとがきもよかったら読んで下さいね。
★ガイドMr.S★
