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開目抄下
文永9年(ʼ72)2月 51歳 門下一同
問うて云わく、摂受の時折伏を行ずると、折伏の時摂受を行ずると、利益あるべしや。 答えて云わく、涅槃経に云わく「迦葉菩薩、仏に白して言さく○『如来の法身は金剛不壊なり。しかるにいまだ所因を知ること能わず、いかん』。仏言わく『迦葉よ。能く正法を護持する因縁をもっての故に、この金剛身を成就することを得たり。迦葉よ。我、正法を護持する因縁もて、今この金剛身を成就することを得たり。常住にして壊れず。善男子よ。正法を護持せん者は、五戒を受けず、威儀を修せず、応に刀剣・弓箭を持すべし○かくのごとく種々に法を説くも、しかもなお師子吼すること能わず○非法の悪人を降伏すること能わず、かくのごとき比丘、自利しおよび衆生を利すること能わず。当に知るべし、この輩は懈怠・懶惰なり。能く戒を持ち浄行を守護すといえども、当に知るべし、この人は能くなすところなからん乃至時に破戒の者有ってこの語を聞き已わって、みな共に瞋恚してこの法師を害せん。この説法の者、たといまた命終すとも、なお持戒・自利利他と名づく』と」等云々。章安云わく「取捨宜しきを得て、一向にすべからず」等。天台云わく「時に適うのみ」等云々。譬えば、秋の終わりに種子を下ろし田畠をかえさんに、稲米をうることかたし。 建仁年中に法然・大日の二人出来して、念仏宗・禅宗を興行す。法然云わく「法華経は末法に入っては、いまだ一人も得る者有らず、千の中に一りも無し」等云々。大日云わく「教外に別伝す」等云々。この両義、国土に充満せり。天台真言の学者等、念仏・禅の檀那をへつらいおそるること、犬の主におをふり、ねずみの猫をおそるるがごとし。国王・将軍にみやづかい、破仏法の因縁、破国の因縁を能く説き、能くかたるなり。天台真言の学者等、今生には餓鬼道に堕ち、後生には阿鼻を招くべし。たとい山林にまじわって一念三千の観をこらすとも、空閑にして三密の油をこぼさずとも、時機をしらず摂折の二門を弁えずば、いかでか生死を離るべき。
文永9年(ʼ72)2月 51歳 門下一同
問うて云わく、摂受の時折伏を行ずると、折伏の時摂受を行ずると、利益あるべしや。
答えて云わく、涅槃経に云わく「迦葉菩薩、仏に白して言さく○『如来の法身は金剛不壊なり。しかるにいまだ所因を知ること能わず、いかん』。仏言わく『迦葉よ。能く正法を護持する因縁をもっての故に、この金剛身を成就することを得たり。迦葉よ。我、正法を護持する因縁もて、今この金剛身を成就することを得たり。常住にして壊れず。善男子よ。正法を護持せん者は、五戒を受けず、威儀を修せず、応に刀剣・弓箭を持すべし○かくのごとく種々に法を説くも、しかもなお師子吼すること能わず○非法の悪人を降伏すること能わず、かくのごとき比丘、自利しおよび衆生を利すること能わず。当に知るべし、この輩は懈怠・懶惰なり。能く戒を持ち浄行を守護すといえども、当に知るべし、この人は能くなすところなからん乃至時に破戒の者有ってこの語を聞き已わって、みな共に瞋恚してこの法師を害せん。この説法の者、たといまた命終すとも、なお持戒・自利利他と名づく』と」等云々。章安云わく「取捨宜しきを得て、一向にすべからず」等。天台云わく「時に適うのみ」等云々。譬えば、秋の終わりに種子を下ろし田畠をかえさんに、稲米をうることかたし。
建仁年中に法然・大日の二人出来して、念仏宗・禅宗を興行す。法然云わく「法華経は末法に入っては、いまだ一人も得る者有らず、千の中に一りも無し」等云々。大日云わく「教外に別伝す」等云々。この両義、国土に充満せり。天台真言の学者等、念仏・禅の檀那をへつらいおそるること、犬の主におをふり、ねずみの猫をおそるるがごとし。国王・将軍にみやづかい、破仏法の因縁、破国の因縁を能く説き、能くかたるなり。天台真言の学者等、今生には餓鬼道に堕ち、後生には阿鼻を招くべし。たとい山林にまじわって一念三千の観をこらすとも、空閑にして三密の油をこぼさずとも、時機をしらず摂折の二門を弁えずば、いかでか生死を離るべき。
