人間革命 第10巻 一念
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戸田は、メガネを外し、紙片に額をすりつけるようにして和歌を読んだ。微笑が頰に浮かび、にこやかな眼差しで伸一を見た。そして、彼はペンを手にしながら、一瞬、思いめぐらしていたかと思うと、さらさらと、その紙片に続けて、一気呵成に認めた。
我が弟子が
折伏行で
築きたる
錦州城を
仰ぐうれしさ
戸田は、伸一の力闘が何よりも嬉しかった。伸一の秀抜な力を、誰よりも信じていた戸田にとって、広宣流布を阻む、さまざまの魔軍と戦う若武者の雄々しさほど、彼を喜ばすものは、この世にないといってよかった。
戸田は、やがて来るであろう彼の没後の実証の一端を、今、伸一の力闘によって知りたかったのである。錦州城は、まだ築かれていない。戸田と伸一の胸のなかに秘められているだけだ。
しかし、日ならずして、伸一が幾多の労苦を越えて、その城を確実に築くであろうことだけは、戸田は、今、信じられた。構築されるであろう錦州城を仰ぐ時の、その嬉しさを、戸田は、今、まざまざと思い描いた。
戦いは、既に上げ潮に乗っていたのである。