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  戸田は、色の黒い彼が、目の縁に隈をつくり、青年らしさを失い、老い込んだように悄然としてしまっているのを見ていると、からからと笑いだした。
 「新しい仕事というものは、いつも難産だよ。だいいち、君を文化部長に任命することだって、なかなかの難産だった。人は誰でも、いい面もあるし、悪い面もある。その一面だけを取り上げて考えても、なかなか人選は進まないだろう。君を文化部長にしたのも、何人かの候補者のなかで、『この人より、こっちの人の方がいい』『いや、この人こそ適任ではないか』と比較検討を繰り返しているうちに、落ち着くところに落ち着いたわけだ。
 人選の作業は、厳正な比較対照にカギがある。私心や感情を去って、あくまでも目的に適った候補者は誰だろうと考える時、幾人もの候補者を比較しているうちに、やがて適任者が浮かび上がってくる。
 ある地域で大勢の学会員ができた時、そのなかに、中心者となり得る人ができていないはずはない。
 広宣流布は、どこまでいっても、結局は御本尊様の仕事です。自分たちがやっていると思うのは、一種の傲慢です。御本尊様の仕事なら、ヘマをするはずはない。その時、その段階で、中心者となり得る人はいるんです。悲しいかな、われわれ凡夫の目には、それが見えないだけだ。いつ、いかなる場合も、透徹した信心が要請されるわけだ。それで、われわれの凡眼も、仏眼の一部となることができる。
 ほかの世界ならともかく、わが学会のなかで人選の困難に逢着するのは、こちらの目玉に問題があるんだよ。御本尊様は、適任者となり得る人を、必ずつくってくださっているはずだ。よくよく透徹した目で、もう一度、よく見てごらん」