人間革命 第9巻 展開 172ページ
そこで戸田は、まず、一九五四年(昭和二十九年)の十一月二十二日、文化部の設置を発表し、鈴本実を文化部長に任命した。部長一人の文化部にすぎなかったが、戸田は、さまざまなデータを検討し、構想を練った。そして、その構想の若芽を放置して枯らすことなく、育ててみようと、彼は決意したのである。
厳密な調査が進むと、創価学会員の全国分布図の上に、丸印は四十カ所余りにも達した。意外な数である。
戸田は、分布図に目を凝らしながら太い息を吐いて、にっこり笑って鈴本実に言った。
「ほう、こんなにあったか。あとは人の問題だな。私利私欲に目もくれない高潔な人材がいればいいわけだ。人選の方は、見当がついているか?」
「いや、それが大変です。なかには政治的な経歴をもった人もおりますが、下手に野心的に動く人では困りますし、そうかといって、ただ信心が強盛なだけでは、どうにもなりません。人選は非常に困難な状態です。どこに基準を置いたらよいのか、先生、それに迷ってしまいます」
新文化部長の鈴本は、思いあまったように顔を曇らせて、内心の弱音を吐露してしまった。
そして、鈴本は、戸田の前に出ると、いつも思わず本当のことを言わずにいられない自分を不思議に思った。
〝活躍の場はある。しかし、人がいない。文化部の前途は、まことに暗澹たるものだ〟
鈴本は、途方に暮れていたのである。