深夜0時をすぎる頃、ようやく私は詐欺グループのアジトへと足を踏み入れることができた。
間取りは3LDKのファミリータイプ。
某ディスカウントストアで売られているエアーベッドを膨らませて玄関ドアを密閉し防音対策がしてあった。
最上階のいちばん端の部屋なのは他の部屋への音漏れや外部から目視されるのを防ぐためだと推測したがそれに加えて全ての窓ガラスには乱雑にダンボールが貼り付けられており、完璧に目隠しがされていた。
しかしその上からカーテンなどというものはない。
無駄な装飾品はおかず、なにかトラブルが起きた時にいつでも撤退できるようになっていた。
玄関から両側に個室の扉を見て置くまで進むと軽く20畳ほどあるLDK部にたどり着いた。
どうやらそこが詐欺行為をする拠点となる部屋のようだった。
そこには小さな小机が数基両端に設置してあり、壁際に32インチほどのテレビが地べたにおいてあるだけの殺風景な部屋だった。
共犯
そこに私以外のメンバー3人がテレビを見ながら談笑しており、これから私を含めて4人で詐欺行為をするだということをようやく知った。
入り口を入ったときからうすうす気がついてはいたが、その部屋の中は大麻の煙と匂いがむせ返るほど充満していた。
夜も深け大麻の効果に酔っている新しい仲間と自己紹介しあうこともなくお互いに嘘の名前だけを交換した。
リーダー格のナツメはまだ20代前半だった。
全身に刺青の入ったトシさんは30代前半の兄貴分。
まだ、グループに入って間もないケンちゃんは20代中盤。
私も含めまだ全員が若者だった。
挨拶もそこそこに私にも大麻の巻かれたジョイントが廻された、名前も素性も分からない通しですぐにうちとけ合うのは難しく、会話以外でコミュニケーションを取り合うのに大麻はもってこいだったのだと思う。
もちろんほかのメンバーも覚せい剤は厳禁だし、アジトまでの道中を鑑みれば大麻と言えども持ち運びリスクがあるので禁止だったようだが彼らの価値観では大麻くらいはバレないから大丈夫だといったところだったと思う。
詳しい内容はまた明日説明する。
と、ナツメに促されとにかく大麻を吸っては甘い菓子を貪りながらテレビに移流れるバラエティ番組をみんなで鑑賞した。
ほかの仲間は談笑していたが私はその気にはなれなかった。
元々大麻自体が好みでは無いし 、それまでの生活の苦しさやアジトまで車での疲労感からバットトリップしてしまいすぐに倒れるように眠ってしまった。
起床は6時30分
犯罪者集団にはそぐわぬ早い起床だった。
リーダーのナツメが持参したiPodから流れるEDMの音楽で私たちは目を覚ました。
前日の大麻が若干残っており気だるさはあったがなんとか起きて洗面を済ませ、キッチンで各々簡単な食事を済ませた。
米は前日からタイマーを設定していたので明け方には炊きたての米が出来上がっていた。
インスタント味噌汁にふりかけに缶詰、各々がアジトに入る前に購入して来た御飯のお供をシェアリングして簡単に朝食を済ませた。
7時30分より朝のミーティング。
その時のグループの手法としては関東圏内の一つの市町村をねらい一斉に電話をかけてターゲットを見つけるというものだった。
高齢者の氏名と自宅電話番号が市町村別にまとめられたリストが10種類ほど事前に用意され、前日のうちに話し合って翌日攻める街を決めた。
ミーティングでは電話をかける件数の目標や金額の目標をお互いに発表した。
私は初日ということもありまずは100万円という目標を立てて発表した。
それが簡単なのか難しいなんて検討もつかなかった。
ミーティングも終わり、鍵のかかった箱からストレートタイプのPHSを人数分取り出し各自部屋の周囲に外向きに置かれた小机に座りいよいよ詐欺を実行することになった。
時間はちょうど朝の8時。
システム化された組織犯罪。
私はリストの一番上に記されている番号を震える指先でひとつづつ押していった。
(続く)