最初から読む
※ブログの内容の殆どはせん妄と言われる幻覚症状が引き起こした被害妄想です。
初見の方が見えましたらこちらから読んで頂けると幸いです。
深い幻覚から覚めた私は、薄暗いICUのベッドの上に両手両足を縛り付けられ拘束されていた。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230324/11/gucchon9074/d8/5f/j/o0600040015259885219.jpg?caw=800)
現実?
自分の置かれている状況を理解するには時間が足りなかった。
私を見つめる看護師の目は、まるで死んだ魚のように濁っていた。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230324/11/gucchon9074/0e/5b/j/o0640064015259874098.jpg?caw=800)
病院で縛られるなんてことが果たしてあるのだろうか?
ましてや、俺は死にかけてるんだぞ。
仰向けで固定されているせいで寝返りすら打てない。
疲弊した喉を振り絞って、ロープを解いて欲しいと看護師に懇願するも私の声が届かないのか、それとも無視を決め込まれているのか返答は無かった。
ベッドサイドをロープごと引き抜こうとしたがそれだけの体力が私には残されていなかった。
身体中の力をふりしぼり叫んだ、病室に響き渡る声で殺されると何度も叫んだ。
動く限りに手足をバタつかせて暴れた。
それでも看護師は無視を決め込んだ。
その時いたのは、看護師長に若い看護師がふたり。
やはり、衰弱状態の私を縛り付け心不全と見せかけて殺害するつもりなのでは?
普段ではありえないような妄想だが、ある日突然病気に倒れ10日近く意識がなかった私にとってその時の状況は、非日常のそれであった。
勘繰り
ふとしたことで、看護師長が患者の家族から袖の下を受け取ったのを私が目撃してしまった。
夕方に見たその光景すら解像度の高い幻覚だったのかもしれない。
それを隠蔽するために、看護師長が看護師ふたりと共謀して私のことを殺害しようとしている。
看護師は利用されている側だが、病院で出世していくにはそういうことも、もしかしたらあるのかもしれない。
不信感に不信感が相まって被害妄想が増幅していった。
そして、ここは病院。
その中でも、重篤な急性機能不全の患者を24時間体制で管理するICUという場所は、死という場所に一番近い場所でもある。
そこで従事している看護師たちは日常的に死という事象と向き合い、シビアに対応している。
彼らにとっての死とは、私の考える死の重みなんかよりも遥かに軽い。
そう考えると一気に自分が殺害されるということが現実味を帯びてきた。
死因なんてなんとでもできる。
ここは病院。
医療事故なんてどうやってでも隠蔽できる。
殺されたのに、病死で処理されてしまう。
考えれば考えるほど、逃げ道は無くなった。
閉鎖的なICUという空間の中にいるのは共犯関係で当直の看護師、それに重篤な症状で眠っている他の患者数名、そして今日意識が戻ったばかりで全身を拘束されている私。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230324/13/gucchon9074/10/c8/j/o0640048015259912041.jpg?caw=800)
身動きも取れず、叫んでも誰も反応してくれず、モニターに映る心拍数や血圧の数値が下がっていくのを目視しながら自分に迫る死を思った。
数時間後にはこの世に自分はいない。
明日またお見舞いに来てくれると約束した両親が次に見るのは、元気な私ではなく荼毘に付された冷たくなった私。
せっかく生かされた命を、こんな看護師たちのエゴで奪い去られるのは嫌だ。
タイムリミットは朝の交代まで、そこまで生き延びれば次やってきた看護師にすべてを伝えてこの件を事件化してもらえる。
そこまで、何が何でも生存してやる。
死んでたまるか。
抵抗
ベッドの視界に入るナースルームから聞こえる声が、すべて私をどう殺害するかに聞こえてくる。
5感から入ってくる情報すべてが私を死へと導いていく。
自身の体力が明らかに落ちていることが分かった。
きっとこのままでは、なにもしなくても朝には私は死んでしまうだろう。
体力も時間も限られている。
有限の体力と時間、使い切った時が私が死ぬときだ。
ICUの中にいる看護師は全員グルだ、たまに巡回で回ってくる女性看護師も看護師長に懐柔されているのか私の声が届かない。
あとはときおり、入り口のインターフォンが鳴り、夜勤の研修医と看護師が外で雑談するのが聞こえた。
チャンスはそこしか無い。
さすがに研修医までグルになって私を殺害しようなんてするはずもないだろう。
なんとか外にいる研修医を、大声で中まで呼び込み縛られている現状を知ってもらう。
そうすれば応急措置もしてもらえる。
意識の朦朧とした中でたどり着いた最後の抵抗だった。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230324/13/gucchon9074/18/a0/j/o0339050915259922807.jpg?caw=800)
無駄に騒げば体力が減り死期が早まる。
私のすぐ側で死神が微笑んでいるような錯覚がした。
眠ってしまわないように意識を働かせながらその時を待った。
そして、遂にその時が来た。
インターフォンが鳴り、看護師が扉を開ける。
ベッドからおよそ20Mくらいか、カーテンがあって光景は見えないが温厚そうな男性の声がこちらまで響いてくる。
おーい
おーい
たすけてくれー
力が入らずか細い声だが静かなICUには十分な声量だった。
その声に気が付いた研修医が大丈夫か看護師に問う。
幻覚症状のある患者なので大丈夫と看護師は返答して中に入れようとしない。
しかし、私にとっては文字通り生死を左右する瞬間だった。
全力で手足をバタつかせ、全力で声を振り絞りなんとしてでも手足を縛られ自由を奪われ今にも殺されかけている現状を見てもらいたかった。
救ってもらいたかった。
生かしてもらいたかった。
死にたくない、生きて明日を迎えたい。
なりふり構うことなどできなかった。
私の原動力は生への執着、それだけだった。
研修医
私の懸命な抵抗が功を奏し、研修医を病室に入れることに成功した。
まだ20代後半と思われる若い研修医はとても優しかった。
入院して医療としての恩恵は授かっていたものの、医療従事者から人間としての優しさを施してもらったのは初めてだった気がした。
自然と涙が溢れ出た、堰を切って溢れ出た涙は止まることを知らなかった。
命が繋がった。
この研修医にすべてを委ねよう。
心からそう思えた。
看護師からどう説明を受けたのかわからないが、手足の拘束は私が看護師に暴力を振るったのが理由だと説明を受けた、外してくれなかったのは私がまだ錯乱状態な中で解放するとまた暴れて点滴やモニターの線を抜いてしまいかねないからだという。
理由はどうあれとにかく拘束を解いてもらうのが最優先だ。
暴れてしまったのは幻覚のせいで、今は正常だし暴れることは絶対にしない。
そう約束し縄を解いてもらうことに成功した。
そして朝までの間、看護師以外の第三者にICU内に常駐してもらう確約を取り付けることに成功した。
ようやく掴んだ生き延びるための蜘蛛の糸をそう簡単に手放すわけにはいかない。
生きるか死ぬかの正念場に倫理もモラルも関係なかった。
急変
これで、看護師から殺されることは回避できた。
研修医に幻覚や不安なことをすべて吐露したことで一旦気持ちは落ち着いた。
しばらく研修医が、ICUに常駐してくれるという。
それまでに具合が悪くなったらいつでも対応してくれるという言葉を聞いて、一気に私は安堵した。
ようやく眠れる。
明日を迎えることができる。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230324/10/gucchon9074/e8/60/j/o0612040815259865347.jpg?caw=800)
しかし、死神はそう簡単に私のことを許さなかった。
安堵した途端に容対が悪化した。
胸が苦しくなり、呼吸が乱れた。
心拍計が不穏な数値を刻み、額からは脂汗が止まらなくなった。
せんせいたぶんおれだめかもしれない
最後の力を振り絞って研修医に助けを求めた。
研修医は黙って頷くと、ICUの壁にあるボタンを押して携帯電話でどこかに電話をかけた。
しゅじゅつですか?
研修医は小さく頷いた。
せんせいをしんじます。
しっぱいしてもうらみません。
よろしくおねがいします。
虫の声で研修医に伝えた。
私の隣には永遠と死神が纏わりついて離れようとしなかった。
(続く)
※今回のブログは筆者がせん妄状態の中で起きた話です。
事実と異なる内容が含まれている可能性もあるのでフィクションとして読んで頂けると幸いです。