前回までのあらすじ

大学病院に入院中、看護実習生を預かった私

しかし、初日から人見知りコンプレックスを抱えていて全く会話が続かない

当人も自覚があり、看護師になるため変わらなきゃいけない、変わりたいという強い意志を聞く

私はあくまでも患者として、この実習生に本気で向き合うことにしたのだが

果たして2週間という限られた時間の中で、実習生は成長する事が出来るのか・・・

 

 

3日目

実習生を預かっている間は自粛しようと考えていたのだが、私は日々の運動を再開した

もちろん実習生も一緒に連れ出す

散歩がてら病院の敷地を2km/日(約30分間)のウォーキング

病棟に戻ってから病室ある7階まで必ず階段で登り降りをする

階段昇降は運動時以外でも、常にエレベータを使わず一日2回~3回昇降していた

これを入院中ほぼ毎日行っていたので、長期入院でも下半身の筋肉が落ちる事が無かった

 

ああそうだ、これは新型コロナウィルスが世に現れるより前の話なのだが

免疫抑制治療を行っている私は勿論、病棟勤務者はマスク装着が必須となっている

季節はまだ9月、散歩ペースとはいっても身体への負荷は相当なものになる

現役世代の大学生でも嘸かしキツかっただろう

だが、本人にも思うところがあったのか、額にビッシリ汗をかきながらも隣を歩く

 

散歩中は対話スキルを上げる

私から振る話題に対して相槌や共感ではなく、意見として返して貰う

自分の考えを相手に伝える練習だ

話題の内容としては、行ってみたい場所とか、やってみたい事など

歩きながらでも思いつけるような簡単なものでいい

 

午後になって、私は外来に呼ばれた

他の実習生は患者が不在になるとナースセンターで待機をしている

車椅子患者の場合は本職ナースの許可ありきで外来前まで付き添う程度だ

だが、私の実習生は診察室の中までついて来た

医師は少し怪訝そうな表情をしていたが、私が構わないと言うと診察を続けた

さすがにオジサンの身体までは見たくなかったかも知れないが・・・キョロキョロ

 

私はこの時ステロイドの多量投薬(ステロイドパルス治療)により

「ステロイド糖尿病」を併発していた

加えて右の腎臓付近に尿路結石も見つかっていた

 

結石は見つかった時点で大きさが12mm程、既に自然排石は絶望的だ

退院後に一般病院での手術は決まっていたが、結石の位置が膀胱に近いほど負担が少ないらしい

運動に階段昇降を加えたのは、結石を落とすのに上下運動が良いと教えてもらったからだ

但し、この結石の大きさだと過度の運動は反って痛みや血尿が出るだろう

泌尿器科の医師にはそう告げられていた

(結石手術についてもエピソードがあるので、またの機会に話そう)

最終的に退院時(手術前)で約10cmほど結石は落ちていた

レントゲンを見て、医師が素で驚いていたのは言うまでもない

 

病室に戻り談話していると、他の実習生が訪ねて来た

「××ちゃん(担当実習生)、ちょっと戻って」

実習生達はナースセンターへ戻っていった

が、すぐに病室へ戻ってきた

「大丈夫?」と聞くと、椅子に座り直し少し照れくさそうに話してくれた

 

どうやら同じ病棟の実習生の間で話題になっていたらしい

特に高齢の患者さんは、実習生がお昼休みから戻ると昼寝している場合が多かったり

午後は御親類の面会者が来ると邪魔になりそうなので早々に退室する

丸一日実習生が患者と居ることは殆どないようだ

合間はナースセンターで情報交換とかをしているらしい

そんな状況の中、ひとりだけ初日からお昼を除いてずっと戻って来ない

そりゃ、心配もするわなガーン

私は独り身だし、実家界隈は大学病院まで車で1時間半ほどかかる

入院に関しては親類に来なくて良いと伝えていた

おまけにステロイドの副作用で睡眠障害が出ており、昼も夜も眠気が来ない

聞いてて不覚にも声を出して笑ってしまった

 

私は「無理しなくて良いから、自分のタイミングで出入りしなさい」と実習生に告げた

実習生は「私も気を付けます」と言い、3日目の実習を終えた

 

 

4日目

この頃から実習生が変わり始めたと記憶している

血圧測定の練習も「もう一回いいですか」「逆の腕もお願いします」と自発的に行動し始める

実習生の測定器は自宅にある電動式ではなくて、シュコシュコと空気を入れるタイプだ

私の両腕には巻いて膨らむやつ(名称が解らん)の跡が沢山ついていた

 

最初は他の実習生と同様にサンダル形状のナースシューズを履いていたのに

多分、昨日あたりから運動靴タイプを履いて来るようになっている

 

会話の内容も、例えば入院生活で不便に感じる事を私に聞いてはメモしたり

外来を受けた後は病気の経緯や症状などを聞いて来るようになった

 

インスリン注射の針を刺す場所(おへそを中心に時計回りに打っていた)

これをよく忘れてしまうんだと話していたら1時間ほど退室したいと言い

ナースセンターで管理表(自分視点から見たお腹の絵)を自作して持ってきた

 

対話の中で何か出来る事を探しているのが、ひしひしと伝わってくる

 

回診が来るとベッドを回り込んで邪魔にならないところに立ち

本職ナースの手際を観察するようになっていた

確実に行動面も変わり始めていた

 

 

実習5日目

実習期間折り返しの日、この日は午前中だけ実習生が来ていた

夕食を終えた後だったかな

実習生の預かり許可を相談された看護学科の先生が再び私の病室を訪ねて来た

「少しお時間よろしいでしょうか」

 

先生から伝えられたことを要約すると・・・

今日の午後は大学の看護学科で、各実習生のレポート発表会が行われた

その中で××さん(私の担当学生)の発表内容が飛び抜けていたそうだ

正直なところ、先生から見ても大人しくて心配していた生徒だったらしい

一体どうなっているのか話を聞きたくて来たようである


私は、実習生本人が看護職に対してどう考えているのかを聞き

最初から上手くやろうと考えさせず、恐れさせず、とりあえず一歩踏み出してもらう

それを私が先導したり説くわけでもなく、ただ見守っているに過ぎない

確かに年齢的にも「孫」ではなく「娘」の距離感なので

向こうも話し易い、打ち明け易いという点はあるかも知れないが

もし先生が驚いたのなら、それは彼女自身が何かコツを掴みかけている

それだけじゃないですかね

偉そうに言ってすいません、でも実際に私は特別な事はなにひとつしていない

医学や医療の知識も持たない、ただの入院患者ですからね(笑)

 

先生が「大変勉強になりました」と深くお辞儀をされるのでちょっと慌てた

頭を上げると「引き続きお願いします」と言い残して戻って行った

 

終始平然を保っていたのだが・・・

もちろん内心では拳を振り上げガッツポーズである笑い泣きシャー

だが、来週本人から報告があるまでは褒めないでおこう

誰がツンデレだと?

 

自信を持つことは、メンタル育成の起爆剤だ

さぁ後半戦 そして実習終了 どうなる?爆  笑

 

 

後編に続く