前回の続きです。
ことの始まりは、物質の神様「科学」でした。
科学は言いました。
「まったく、なんてことだ!愛の神は、一体何を考えているんだ。」
科学は自分の信者達の人間に言いました。
「いいかい、よく聞くんだ。愛の神は、地球のまわりを星々が周っていると言っているんだよ。そんな馬鹿なはずがないじゃないか。私がいくら計算しても、太陽の周りを地球や他の星々が周っているんだよ。愛の神の言っていることは嘘ばかりだ。人々よ、これがその計算式だ。見てみなさい。」
人々は計算式を何度も何度も見返し、何度も何度もうなずくと言いました。
「物質の神、科学よ。やはりあなたが正しい。愛の神の言っていることはインチキのようです。」
「そうとも、そうとも。」科学はうなずくと愛の神様に言いました。
「愛の神よ、あなたはずいぶんと色々間違った教えを説いているようだ。あなたのやっていることは、人々を惑わしているだけでなんの役にも立っていない。これからは私が人々を導いていこう。あなたの時代はもう終わったのだよ。」
それを聞いた愛の神様の信者は怒りましたが。どうにもこうにも、科学の計算式が間違いだと証明することはできず。結局科学の言う通り、教えの内容を変えるしかありませんでした。
科学の指摘はまだまだ続きました。
「まったく、なんてことだ。愛の神に、道徳の神もそうだ。死後の世界だの、天国だの、地獄だの、そんなものがどこにあるのだ。私は愛の神や道徳の神が必死になって言うものだから。ずっと望遠鏡を覗いてきたが、どこにもそんなものは無いじゃないか。いい加減にしないか。」
愛の神様や、道徳の神様の信者たちは言いました。
「物質の神、科学よ。それは、あの世というもので、人間の目には見えない世界の話なのですよ。」
科学は不機嫌そうな顔をすると言いました。
「まったく、それがインチキというものだよ。目には見えないものなんか観測できないじゃないか。存在を観測できないものは、ただの真空というものだよ。そこには何も無いんだ。死後の世界だの、天国だの、地獄だの、そんなものがあるわけないじゃないか。」
愛の神様や、道徳の神様の信者たちは困りました。でもこう言いました。
「物質の神、科学よ。愛の神や道徳の神のおっしゃっていることは、何もあの世の話だけではありません。愛の神は、人と人とを繋ぐ愛こそが私たちを救って下さると説きました。それに道徳の神は、欲望を捨て道徳を守ることが人々の救いになると説いて下さったのです。」
しかめっ面をすると科学は言いました。
「まったく、これだから困ったものだ。いいかい、愛なんてものは食べることさえできないんだよ。おまえたちはお腹が減ったらどうするんだ。愛を食べて飢えをしのぐのかい?ばかばかしい。お腹をすかした人たちを救っているのは、農園だよ。馬や工具で田畑を耕し、用水路を引き田畑に水をやり、時には農薬をやり害虫を駆除し、切れの良いハサミでチョッキンチョッキンと収穫をするのさ。工具に用水路、農薬に切れの良いハサミ、どれもこれも科学が作り出したものじゃないか。科学のおかげでお腹を満たしているのじゃないか。何が愛だ、愛が何の役に立つっていうんだ?」
愛の神様の信者たちは、考え込むと黙ってしまいました。
物質の神様、科学は続けました。
「それに道徳の神が何だって。欲望を捨てろだって、とんでもない。もっと美味しいものを沢山食べたいっていう欲望があるからこそ、沢山の食べ物を収穫しようと工夫し科学を発展させてきたんじゃないか。欲望がなくなったら、飢えて死ぬだけじゃないか。・・・おっおっと、道徳がどうのって言いたいんだろ。そりゃ欲望を膨らませ、盗んだり、騙したりするやつだっているだろう。そんなのは、法律を作ってとっ捕まえて牢獄に放り込めばそれでいいだけだろ。違うのかい?」
道徳の神様の信者は、何か言いたそうでしたが黙ってしまいました。
科学は物質の神様でした。
科学は形あるものは何でも分解し計算式にしては、また新しい計算式にして組み立て、全く新しい物を作ることができました。
でも、「愛」や「道徳」には形がありませんでした。
科学は計算式にできないものは理解ができなかったのです。
人の心に形など無いことに、科学は気づきませんでした。
科学の教えは世界の隅々まで広まってゆきました。
それと同時に、愛の神や、道徳の神を信じる人はどんどん少なくなってゆきました。
そんな様子を見て、哲学者の中には「神は死んだ」と言うものまで出てきました。
でも、神様は死んだわけではありませんでした。
人々には信じるものが必要でした。
人々は信仰の対象を変えただけで、人々の心の中で神様は生き続けました。
でもその神様は、形の無いもののことには無頓着でした。
でも、多くのものを作り、多くの人の心を満たし、人々から感謝されました。
そしてその神様の栄華は永遠に続くものだと、人々は思うようになってゆきました。
つづく。
では、続きは次回としたいと思います。