前回の続きです。
人類は動物たちの言葉を借りれば「バカの時代」とも言える二度の世界大戦とその後の混乱時期をくぐり抜けると、平和で豊かな「コレクターの時代」を迎えました。
人々の日課は争いごとから、コレクションを集めることが日課となりました。
特に人々に人気があったコレクションは、紙切れコレクションでした。
その紙切れは手のひらサイズで、有名な偉人の絵が描かれているだけの粗末な紙切れでした。絵を鑑賞する以外には、鼻をかんだり、お尻を拭いたりするぐらいしか用途のないものでした。
しかし人々はこの紙切れをたいそう気に入り。
「私は去年は、500万枚の似顔絵付き紙切れを手に入れたよ。」
「ははは、そうですか。私は去年は1000万枚ほど手に入れましたよ。」
「え、そんなにですか。なんとうらやましい。私はまだまだ努力が足りないようですな。ははは。」
というのが、人々の日常会話になりました。
そしてこの紙切れ人気は人類全体を覆い尽くすほどどの爆発的なブームだったため。
私の作った帽子と1000枚の紙切れと交換して欲しいとか、私の持っている車なら200万枚で譲りますよとか、このあいだ家を立てたので紙切れを3000万枚持っている人がいれば交換しますよと似顔絵付き紙切れと便利な道具との物々交換が頻繁に行われました。
この紙切れ物々交換は人々の生活を今まで以上に豊かにしてゆきました。
食べ物、着る物、家、車、便利な電動器具など、生活に必要な物は、似顔絵付き紙切れさえ持っていれば何でも手に入りましたから、より多くの紙切れを手に入れようと人々は必死に働くようになりました。
その結果、人々は生活に必要なものはほとんど全て手に入れることが出来るようになりました。
それでもこの似顔絵付き紙切れのブームは収まらず、どんどんと加熱するばかりでした。
人々は大切な紙切れをなくしては大変だと、紙切れの預かり所なるものを作り、そこへ保管してもらうようになりました。
預かり所からは紙切れを預かった証に、預かった紙切れの数量を記載した帳面を渡されました。
人々は豊かになり使わずに余った紙切れは大切に預かり所に預け、その預けた枚数を記載した帳面の数字の額が上がるたびに、ニマニマと笑っては幸せを感じるというのがブームになっていました。
そんな時代だったものですから、世の中で利用される紙切れの枚数には非常に敏感で、その年やその月に使われた紙切れの枚数を数えたり、今後使われる紙切れの枚数を予測したりするのが日常になっていました。
人々が思っていたより使われた紙切れの枚数が多いと「景気が良いね。」と挨拶をし、人々が思っていたより使われた紙切れの枚数が少ないと「景気が悪いね。」と挨拶をしました。
人々にとって景気が良いか悪いかは、一大事でした。
というのも、世の中で使われている紙切れの枚数が減ってしまうと、コレクションの似顔絵付き紙切れが手に入りにくくなるからでした。
そこで政府は「景気が悪いね。」と人々が言いだすと、似顔絵付き紙切れを沢山持っている一流コレクターから利子を付けて返すからと沢山の紙切れを借りて、あまり紙切れを持っていない人達に仕事を与えて紙切れを渡すということをしました。紙切れをあまり持っていない人達は、生活必需品をあまり持っていませんでしたので、生活に便利な道具を手に入れるために紙切れを沢山使ってくれましたので、世の中で使われる紙切れの枚数が増え、人々は「景気が良いね。」と言うようになり。預かり所の帳面を見ては、またニマニマするという生活をしていました。
そんなある日のことです。
人々はなんだか不思議な気分になったのに気づきました。
最初のうちは預かり所の帳面を見てニマニマするのは新鮮で楽しかったのですが、そのうちそれにも慣れてきて、自分がどうやってニマニマしていたのか分からなくなってしまったのです。
人々は科学を信じ文明を発達させ、嫌というほど戦争をして、やっと平和で豊かになり。
コレクターの時代を迎え、ニマニマするという幸せを掴んだはずなのに。
目の前から忽然と幸せが消えてしまったような感覚に襲われたのです。
「自分はいったい何のために生きているのだろう。」
そんな風に考える人達が次から次へと出てきたのです。
人々には答えが必要でした。
労働をするにも何の目的もなく働くのは、ただのストレスにしかなりませんし。
何のために働き、何のために生きているのかという、答えが必要だったのです。
そして、そういった考えが頭のなかでグルグルと渦巻いては消え、渦巻いては消えとするうちに、ある結論に達したのでした。
そうだ、ニマニマが出来なくなったのは、自分達が労働で貰っている紙切れの数があまりにも少いからではないのか。だから、今までのようにニマニマ出来なくなってしまったのではないのか。
そうとも、もっと紙切れの枚数を増やせば、また以前のようにニマニマ出来るようになるはずだ。
人々はそう思いました。
でも、人々にはどうやれば紙切れの枚数を増やすことが出来るのか、さっぱり分かりませんでした。
そんな時です。
ある者が言いました。
「そうだ、隣町に似顔絵付き紙切れを自由自在に増やすことの出来る錬金術師がいると聞いたことがあるぞ。その人に頼べば紙切れを、もっともっと増やしてニマニマ出来るようになるのではないのか。」
それを聞いた町の人々は「それはいい!それはいい!」と拍手喝采をし、皆で錬金術師を尋ねることにしました。
つづく。
では、続きは次回としたいと思います。