前回の続きです。


 

科学が人類の神となって、ずいぶん年月がたちました。

人類は飢えから開放され、馬がいない鉄の馬車を走らせ、鉄の翼を持つと天使のように空を飛ぶようになりました。

 

そのころです。

科学はある偉大な発明をしたのでした。

それは天界の神にのみ許されていた、創造主の御業でした。

人類はついに太陽を作り出すことに成功したのでした。

 

しかし太陽といっても小型の太陽でしたし、一瞬で消えてしまうような小さな太陽でした。

ただ一瞬だけ作り出される小さな太陽であっても、その光と熱は凄まじく一瞬で一つの都市を消し去るほどの力がありました。

 

そのころ戦争好きの人類は2回目の世界中を巻き込んだ戦争をしていました。

戦争を終わらすため人類は天界の神の力を借り、2つの太陽を地上に作りました。

2つの都市は消え去り、そして2回目の世界中を巻き込んだ戦争は終わりを告げました。

 

その威力を見た人々の科学崇拝は更に進み、各国は他国よりも多くの太陽を持とうと競い合うようになりました。

そして人類は7万個もの太陽を作り出せる力を持ちました。

 

するとどうしたことでしょうか、人類はあれほど大好きだった戦争をしなくなってしまったのです。

もちろん小さな小競り合いや戦争はありましたが、世界中を巻き込むような戦争が無くなってしまったのです。

それは、7万個の太陽が地上で作られた時、人類自体が滅んでしまうことを人々が知ってしまったためでした。


 

物質の神、科学は言いました。

「結果オーライ。やはり人類には科学の力が必要なのさ。なんだよ、人々が沢山死んだだの、危険だだの散々言ったりして。天界の神の力を手に入れたら人々は戦争を止めてしまったじゃないか。戦争が無くなったのは、科学のおかげじゃないか。おまけに効率のいい発電施設まで作って。やっぱり人間を導いてゆくのは科学しかいないのさ。」

科学は一時期自身を無くしかけていましたが、また大いにその力を発揮し始めました。

 

「今度は宇宙さ!僕は人類を宇宙に連れてってやるのさ。いやいやそれだけじゃないよ。空に浮かぶ天体、月まで人類を連れて行ってやるんだ。」

その科学の言葉を聞いた時の人々の喜びようは、それは凄いものでした。

まさに科学の名のもとに世界が一つになるのではないかというほでの熱気でした。

 

そして科学はみごとに人類を宇宙に、そして月まで連れて行きました。

 

もはや科学を悪く言う者など誰もいなくなりました。

人類は科学の名のもとに永遠の楽園を築こうと心に誓うようになりました。


 

そして、そのころです。

動物園の一匹の猿が、手話で物質の神、科学に話かけてきました。

<これはこれは、科学様。私は人間に手話を教わった利口な猿です。あなた様のお噂は、いつも人間達から聞いていました。いやーそれにしても素晴らしい。何でもお空のお月様まで行ったとか。いやー素晴らしい。>

科学は少し照れながらも、答えました。

「いえ、いえ、そんなことはないですよ。信者の人間たちが頑張ったおかげですよ。」

<いや、いや、ご謙遜なさって。ところで一つ聞きたいのですが、お月様にはどんな食べ物がありましたか?美味しいバナナなどはありましたか?あれば一房もらいたいのですが。>

「え、バナナですか?そんなものは、ないですよ。」

猿はがっかりしたように言いました。

<え、なかったのですか。では、メス猿はどうですか。器量の良い私好みのメス猿はいましたか?>

「え、メス猿だって。そんなものはいないですよ。」

<え、いないんですか。・・・科学様、では一体月には何があるのですか?何か持って帰った物はあるのですか?>

科学は待ってましたというように、ニコリと笑うと言いました。

「うむ、エッヘン。そりゃーもちろんあるとも。その質問を待っていたのだよ猿君。聞いて驚くなよ、石だよ!月の石を持って帰って来たんだよ!」

<え、月の石?・・・石ですか?・・・それはどうやって食べるのですか?>

「え、食べるだって!」

科学は唖然とした顔をすると続けました。

「食べれるはずないじゃないか。石なんだよ・・・」

<え、食べれないんですか。・・・科学様。あなたは一体何のために月まで行ったのですか。月には何があるのですか?>

「そうだね・・・月にあるのは、石と砂地だけだな。あとは真空かな・・・」

<え、石と砂地しかない!・・・なのに、わざわざ月まで行ったのですか?>

「オホン、オホン、オホン、・・・ここは埃っぽいな」

科学は慌てたように言いました。

「さあ、もうそろそろ帰らないと。」

猿は何かを察したのか慌てて言いました。

<お待ち下さい!お待ち下さい!科学様。どうやら私は失礼なことを言ってしまったようでした。すいませんでした。お礼というわけではないのですが、実は科学様のお噂はこの動物園でも有名で、隣の檻のゴリラさんも一度科学様に会ってみたいといっておりまして。ただ私は普通の猿なものでして、方言が強いゴリラ語までは分かりません。でも長年お隣同士ですからなんとなくニュアンスで、こう考えているんだろうなぐらいのことは分かるのですが。ゴリラ語の通訳まではさすがにできないのです。どうでしょう、月まで行った科学様のことです、ゴリラ語の翻訳機ぐらいは簡単に作れるのではないかと思った次第ですが。多分ゴリラさんも科学様の功績をたたえたいのかと思うのですが、よろしいでしょうか。>

科学は少し嬉しくなると答えました。

「何だ、そんなことかい。ああ、いいとも、いいとも。ちょちょいのちょいと作ってやるさ。」

科学は嬉しそうに猿さんの依頼を引き受けることにしました。

 

数日後。物質の神、科学はゴリラ語翻訳機を持って来ると、ゴリラさんの檻の前で言いました。

「やあ、やあ、ゴリラ君。僕はこの動物園でも有名な物質の神、科学だよ。今日はゴリラ君のために、ゴリラ語翻訳機を持って来たよ。僕の言葉が分かるかな、ゴリラ君。」

ゴリラさんは 寝転がったまま顔だけを科学の方へ向けました。

科学は首を傾げましたが言葉を続けました。

「やあ、やあ、ゴリラ君。僕はついこのあいだ、空に浮かぶ月へ行ったんだよ。月は石と砂地しかない所だけど、そこから月の石を持って帰ってきたんだよ。どうだい凄いだろう。」

ゴリラさんは 寝たまま鼻くそをほじくると、指でピンとはじきました。

「え・・・」と科学は言葉をつまらせましたが。

<そうか、ゴリラ君には少し話が難しすぎたのかな。よしここは人間たちが戦争を止めた話でもしてやろう。>と思いました。

「やあ、やあ、ゴリラ君。僕は太陽も作れるんだよ。といっても本物の太陽に比べると小さくて一瞬で消えてしまうんだけどね。それでも人間が作った都市の一つぐらいは消し去ることができるんだよ。どうだい、凄いだろう。ところが人間ときたら戦争好きでその太陽を2つの都市で使って、2つとも消しちゃたんだ。もちろん人間も沢山死んじゃったんだけどね。そしたら人間達はどうしたと思う、これは凄いとなって7万個もの太陽の卵をつくったのさ。でも人間達は後で気づいたんだけど、7万個もの太陽を地上で使ってしまったら地球上の生物がみんな死んでしまうと気がついたんだよ。可笑しいだろ、あははは、・・・そしたら今まで戦争ばかりしていた人間たちはビタリと戦争を止めてしまったんだよ。そりゃそうだよ、自分達が滅ぶような真似なんかしたくないからね。間抜けだね、あははは、・・・結局人間たちが戦争を止めたのは、全て科学のおかげなのさ。僕がいなければ人間達なんかなんにも出来ないのさ。これまで人間たちを導いてきたのは僕、科学だし。これからも人間達を導いて行けるの僕、科学しかいないのさ。なにしろ戦争好きの人間達に戦争を止めさせたのは僕なんだからね。あははは、・・・そう思うだろ、ゴリラ君。」

ゴリラさんはおもむろに立ち上がると、ウホ

、ウホ、ウホ、と何度も胸を叩くと「おまえ、バカだろう。」と言い。ゴロンと横になると、そっぽを向いてボリボリとおケツをかきました。

「え!・・・」

物質の神、科学はどんどんと顔を赤らめると「ウッキー!」と吠え、手に持っていたゴリラ語翻訳機を地面に叩きつけました。

「僕は、壊すことだって出来るんだからな!」

 

動物園からの帰り道、物質の神、科学はつぶやくように言いました。

「まったく、今日は最悪の日だ。・・・ちくしょう、動物ときたら、なんでもかんでも本音で言いやがる。僕がどれだけ人間達のために発明をしてきたか分かっているのか。ちくしょう、・・・。もう動物の本音なんか聞くのはうんざりだ、これからは人間用の翻訳機しか作ってやんないからな。」

 

こうやって時はまた流れてゆきました。

 

つづく。


 

では、続きは次回としたいと思います。

 

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