生薬と香草の楽園 その2『エルダー或いは接骨木』 | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言







 キリンビバレッジが2007年から販売している“世界のKitchenから”シリーズはとてもよいコンセプトだと感じている。今、最新の商品は“Sparkling Water”なのだが、これはエルダー・フラワーを酒や香水を蒸留する釜で花の香りのついた飲料のエルダー・フラワー・プレッセを炭酸入りの商品としている。


 

 エルダー・フラワーとは、日本のニワトコの近縁で、ニワトコは生薬名を“接骨木”という。この生薬はニワトコの樹皮を焼き湿布のようにして利用される由来の名前である。西洋のニワトコは主に春に咲く花を食用に昔から利用されている。



 キリンビバレッジの商品は、エルダーの花の香料を使用していて天然の味ではない。先日、英国製のオーガニックの“Tierra”というエルダー・フラワー・プレッセを購入して飲んだ。その香りは柔らかく穏やかな春を感じさせてくれる味わいである。


 

 イタリアでは、このエルダーの花を利用したリキュールで“サンブーカ”が有名である。このリキュールは日本では人気がないけれでも、1989年に黒い色をした“オパール・ネラ・ブラック・サンブーカ”が、ハイラム・ウォーカー社から発売されて一時期は括目された商品となっていた。



 西洋のニワトコは花は白く実は黒くなる。この黒い実をイメージして造られたリキュールがブラック・サンブーカである。本邦ではニワトコは早春に目立たないベージュ色の花を咲かせて、紅い実を梅雨時期につける。北海道のエゾニワトコも夏に紅い実を早々に日当たりのよい草原に色付く。



 この本邦のニワトコの実は、種として青森県の三内丸山遺跡から多数出土されているが、古代人はこれから酒を醸していたようだ。ボクもこの話からエゾニワトコの実で醸造酒を密造して実験をしたことがある。



 日本ではエルダーの花を食用には利用していないが山菜として早春に若葉を摘む。この樹皮を黄柏末と酢を混ぜてうどん粉状に練り、これを骨折した幹部に湿布すると熱を吸収すると伝わる。ボクは昨年に肋骨4本、腰骨に骨盤2ケ所を骨折して入院していたが、骨折すると暫く微熱に襲われる。その熱を除去する作用が接骨木の生薬にはあるのであろうと思われる。



 西洋のニワトコは効能として、その花が、発汗、解熱、むくみ、利尿などに使われている。天然成分には斯様な効能があるけれども、合成の香料には治癒や漢方の力は及ばない。