映画と食卓(銀幕のご馳走)その26『立喰師列伝(ファーストフード)』 | 空閨残夢録

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 ファーストフードまたはファストフード : fast food)とは、短時間で調理 、あるいは注文してからすぐ食べられる手軽な食品食事 のこと。


 一方、日本のマスメディア では fast を「ファスト」と発音、表記することに決めているため、共同通信社 をはじめとする大手通信社、日本新聞協会 、NHK、日本民間放送連盟 では「ファストフード」(ローマ字表記:fasutofūdo)を統一表記としている。日本語は短母音と長母音とを区別する言語であるため、その特徴を生かして fast を「ファスト」、first を「ファースト」と言い分けることで、カタカナ 化された外来語 の意味の混乱を回避しているとの説明もある。近年は、「ファストファッション 」の浸透やメディアなどの影響により、「ファストフード」と言う者も見受けられるようになった。「fast food」が外来語であるイタリア語ドイツ語 などでも「ファスト・フッド」、フランス語 でも「ファストフッ(ド)」と fast を短母音で発音する。


・・・・・・ 以上の事柄や文面は“Wikipedia”からの一部引用した掲載記事です。



 さて、中国から期限切れの鶏肉を仕入れていたマクドナルドのチキンナゲットが社会的な事件となり報道されていますが、今宵はこのファーストフードの椀飯振舞みたいな映画を紹介しましょう。






 2006年に公開されたアニメ映画であるが、押井守監督の『立喰師列伝』である。日本のアニメなど成人してから全く見ていないし、押井守に関して知識も無く映画を観たが、これは普通のアニメーションと違っていた。それは登場人物に扮する役者をデジタルカメラで撮影し、それを3DCGの人形に貼り付けて動かす手法が採られ、「スーパーライヴメーション」と命名されている。その技術を駆使し、アニメーションと実写の新たな融合に挑んだ作品なのである。


 物語もまた全く奇妙なもので、そもそも立喰師(たちぐいし)とは、押井守が関わるアニメ作品、映画などの作品に登場する架空の職業(?)であり、また、それを生業とする人物の事であるらしいのだ。



 押井氏によると、「もし仕事を辞めたらこんなことをしてみたい」という妄想から生まれた架空の職業であるらしく、飲食店で薀蓄(うんちく)や説教をして、巧みな話術や奇行など様々な手段を用いて店員を圧倒し、その隙に飲食代金を支払わずに店を出る者のことを「立喰師」と呼ぶらしい。またライバル店を潰すために兵隊として雇われることもある。その手法は暴力や恫喝を用いず、一種の芸の域に達しており、その点が単なる食い逃げ犯人とは異なるのだという。



 この押井守の代表作には、『タイムボカーン』、『うる星やつら』、『機動警察パトレイバー』、『攻殻機動隊』などがある。アニメ映画『イノセンス』(カンヌ国際映画祭コンペ部門出品作品)により、日本SF大賞を受賞している。押井本人によれば、タイムボカンシリーズで「立ち喰いのプロ」を登場させたのが始まりだという。以後、押井が関わる作品ではしばしば立ち喰いシーンが登場し、ライフワークと公言しているらしいが、その集大成となるのが『立喰師列伝』である。


 さてさて、映画を観た感想は多分・・・・・・この映画をお薦めしてくれた友人が、映画の原作である押井守の小説を貸してくれなければ、このブログへ投稿などしなかったであろうし、落語の「時そば」を聞いたほうがズ~ット面白いと思われたが、その原作の小説なのだが、起承転結のある物語ではなく、戦後から現代に至り日本に存在したとされる「立喰師」に関する資料、伝承などをまとめ、その実態に迫らんとする研究書であるという設定で書かれているもので、一見イイカゲンなシロモノと思わしき世界にリアルな民俗学的論証により、へんてこながら衒学的な知的興奮を与えてくれるものであった。



 いずれにしても押井守監督という全共闘くずれのペダントリーをテンコ盛りで作品化する姿勢には、あんまりパットしない風貌の男の罠にボクはマンマと嵌ってしまった。さて、小説と映画に登場する人物を紹介しておこう。





 ①月見の銀二

 戦後まもない頃、闇市のそば屋で月見そばを注文しては薀蓄と説教を武器にただ食いを成した伝説的人物。往年の人気子供番組であったテレビ「仮面ライダー」に出演していた死神博士役の役者さんが生きていたら・・・この配役だったらしい。



 ②ケツネコロッケのお銀

 昭和30年代、きつねそばとコロッケを注文し、弁舌巧みに店主を煙に巻いてただ食いしたとされる人物。後に『女立喰師列伝』の主人公としても登場する。 なお、同名の人物は押井が監督したアニメ版のうる星やつらにも何度か登場し、メイン回も存在する(122話「必殺!立ち食いウォーズ!!」。ハンバーガーの哲、中辛のサブも同話で登場)。・・・・・・この女優さんはスッゴク美人です!




 ③哭きの犬丸

 東京から逃げ落ちた青年を装い、全国各地でただ食いを試みては失敗していたという。元ネタは『御先祖様万々歳!』の主人公、四方田犬丸。映画版では、逆に哭きの犬丸の伝承が作品化された例として『御先祖様万々歳!』のイラストが一瞬登場する。




 ④冷やしタヌキの政

 半端な立喰師だったが、そば屋「マッハ軒」において衆人環視の中で撲殺される。元ネタは『犬狼伝説 完結編』に登場する同名の人物。



 ⑤牛丼の牛五郎

 徒党を組んで牛丼チェーン店「予知野屋」に乗り込んでは、材料が底をつくまで牛丼を食い尽くす怪人。


 ⑥ハンバーガーの哲

 ハンバーガーチェーン店「******」(映画版では「ロッテリア」)に乗り込んでは、キッチンが破綻をきたすまでハンバーガーを食い尽くす怪人。




 ⑦フランクフルトの辰

 東京ディズニーランド(映画版ではピー音であからさまに消去される)で持ち込みのフランクフルトを喰う事に執着する男。



 ⑧中辛のサブ

 カレースタンドチェーンに現れては、その異様な雰囲気のみを武器に店主を圧倒し、ただ食いを成す人物。何処から見てもインド人にしか見えないが、インド人ではない。




 ・・・・・・斯様に登場人物を紹介するだけでも、この小説なり映画が如何に珍妙な奇妙奇天烈な作品であるものかお判りであろうと思われるであろう。・・・・・・そして、こんな珍妙な表面的な題材の底辺に革命の匂いがする不思議な映画でもある。(了)