『リリィ、はちみつ色の秘密』(原題: The Secret Life of Bees)は、ジーナ・プリンス=バイスウッド監督による2008年の米国映画。原作はスー・モンク・キッドのベストセラー小説を原作にする。
キャストは主人公の少女リリィにダコタ・ファニング、養蜂家のオーガストにクィーン・ラティファ、オーガストの妹をアリシア・キーズ。
1964年、サウスキャロライナ州シルヴァン郊外に、父親と二人きりで暮らす14歳のリリィ・オーウェンスは4歳の時に母を亡くした。父のテレンス・レイ・オーウェンスは桃の果樹園を経営し、家政婦に黒人のロザリンを雇っているが、リリィはロザリンが唯一の友達であり、姉のような存在だ。
ある夜更けに寝つけないリリィは、部屋中に蜜蜂が群舞しているので、眠っている父を起こすが、父がリリィの部屋に入ると蜜蜂は一匹もいなかった。これをリリィは天使の啓示と後に感じる。
朝起きるとリリィの部屋に一匹だけ蜜蜂がいたのを、リリィは空き瓶に捕獲して、ロザリンとテレビを見ると、大統領が公民権法案に署名した報道が伝えられる。
その夜も寝つけないリリィは部屋から果樹園に駆け出す。桃の木の下を掘ると、そこには空き缶に入れられた母の遺品が入っていた。母の写真、母の手袋、そしてフレームに入った黒い聖母子像を、満天の星空に横たわりリリィはママを想って抱き抱えた。
翌日、リリィはロザリンと町へ買い物に出かけるが、白人至上主義者たちにからまれてしまいロザリンは怒りを顕にして、男たちに反抗して殴られて警察に連行されてしまう。サウスキャロライナは米国南部でも差別主義の根強い深南部で、公民権運動に反対する保守的白人が多いエリアだった。
ロザリンは警官の監視下のもとに病院のベッドに拘束されていたが、リリィはロザリンを助けて町から逃走し家出した。リリィはママの遺品の“黒い聖母"のフレームの裏に書かれていた“サウスキャロライナ州ティブロン"の町を、二人は目指してシルヴァンの町を離れた。
ティブロンの町で、食事を摂るために、バーベキューポークを購入しに商店へリリィは入ろうとしたが、店の入り口に蜂蜜が陳列されているのを見る。その蜂蜜の瓶のラベルには、ママの遺品にあった“黒い聖母"の同じ絵が描かれていた。
店主にリリィは“黒い聖母"の養蜂場がある所在を聴いて、ロザリンと二人でボートライト家を訪ねた。そこはカリビアン・ピンクの家で黒人の女たちが沢山出入りする不思議な感じのする佇まいだった。
リリィは意を決して、ボートライト家の扉をノックして、ロザリンと供に農場で住み込みで働かせてもらえるように懇願する。ボートライト家は長女のオーガスト、次女のジューン、三女のメイが暮らしていた。
養蜂場で働くことになったリリィは翌日にオーガストに仕事の指導を受ける。農場には将来、弁護士を目指す黒人のザックが働いていて、リリィは自分は将来、作家志望だと打ち明け、二人は親近感を持ちながら養蜂場の仕事に励む。
そんな、ある日、ザックはリリィを映画に誘うが、その当時のサウスキャロライナは映画館の入り口も客席も、白人と黒人は別々だったが、同席するリリィとザックに白人至上主義者たちにより暴行を受ける。さらにザックは何処かへ連行されてしまい行方が判らなくなってしまう。
ザックが白人たちに拉致されて、メイ・ボートライトはショックのあまり自殺してしまい、リリィがボートライト家に来てから不幸が続くのは自分が現れたためと考えるようになる。
ザックはティブロンの町の新歩的な白人弁護士の力を得て無事に帰還できたが、リリィはボートライト家を去ることに決めた。しかし、オーガストから意外な事実を聴いてしまう。リリィのママは子供の頃にオーガストが乳母で、ママとパパの秘密を知っていた。そして、リリィはママを死に至らしめた過去の秘密をオーガストに打ち明ける。
この映画のテーマは“母と娘"の愛を描いているが、母の愛情を得ることをなく育った少女の成長譚でもある。また人種差別と偏見を超えた大きな家族愛がテーマの核心にした珠玉の作品。
さて、映画の舞台は深南部である。食卓には必ずコーングリッツやコーンミールが主食として常備されている。これらを素材にコーンブレッド、パンケーキ、コーンフリッターが作られていた。
また、食材としてだけではなく、映画の冒頭では、T・レイ・オウェーンスは娘のリリィに折檻する装置にしているが、この場面はコーングリッツに馴染みの無い日本人には理解に及びにくいだろう。
リリィの誕生日にロザリンが焼いてくれたケーキは、コーンミールが素材だと思われるし、ボートライト家は養蜂家なので焼かれたパンにはたっぷりの蜂蜜がかけられていた。またレモネードの甘味もハチミツが入っていたに違いない。
ハチミツといえば黄金色が相場だが、リリィとザックが蜂の巣箱を開けると紫色の蜜が巣板に入っていたシーンは美しい場面だった。紫色の蜂蜜を見たのは始めてだったが、黒い聖母の装束も紫色であったのは愛の法悦としての象徴であろう。(了)