昭和44年(1969)に発売されたカルメン・マキの『時には母のない子のように』という唄は、当時かなりヒットした曲で記憶しているが、この年に2枚目のシングル曲で発売された『山羊にひかれて』のほうがボクは好きである。こちらもカルメン・マキが歌った寺山修司の作品。
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「山羊にひかれて」 詞/寺山修司 曲/田中未知 唄/カルメン・マキ
山羊にひかれてゆきたいの
遥かな国までゆきたいの
しあわせそれともふしあわせ
山のむこうに何がある
愛した人も別れた人も
大草原に吹く風まかせ
山羊にひかれてゆきたいの
想い出だけをみちづれに
しあわせそれともふしあわせ
それをたずねて旅をゆく
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寺山修司の「少女詩集」は角川文庫で現在でも入手できるようだが、表紙絵の装丁が昔と変わってしまった。昔は林静一の画で装丁されていて、他にも角川文庫の寺山作品では林静一の表紙を飾っていたのが印象的である。「少女詩集」の文庫の他に、単行本の「不良少女入門」なんかも林静一のカバー絵が内容とベスト・マッチしている。
「半分愛して」 詩/寺山修司
半分愛してください
のこりの半分で
だまって海を見ていたいのです
半分愛してください
のこりの半分で
人生を考えてみたいのです
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『寺山修司 作詞・作詩集』ソニー/3670円/ティナー・ラッツ朗読による「半分愛して」が収録されているが、その昔に junko (川上順子)という主婦がシャンソン歌手としてデビューした時に、この「半分愛して」をレコーディングしている。
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「半分愛して」 詞/寺山修司 曲/服部公一 唄/junko
月が雲から半分 のぞき
グラスにお酒が 半分あるの
海は今夜もまっくらくらで
幸せ気分が 半分するの
私を半分愛してください
全部は いやよ
全部は こわい
庭のダリアが半分咲いて
部屋の明かりも消した
酔えば頭もまっくらくらで
半分笑って 半分泣いた
私を半分愛してください
全部は いやよ
全部は こわい
青いメロンを半分食べて
明日のために半分残す
あなたなしでは生きられぬから
夢も不安も残しておくの
私を半分愛してください
全部は いやよ
全部は 明日
混迷の現代に於いて若い女性の自由な生き方を示唆し、新しいモラルの必要性を説く寺山の女性論は、自由な女として個人的な人生を築くための新しいモラルを大胆に提唱しているが、「家出のすすめ」女性版として出版されたのが、1974年(昭和49年)初版の単行本と、1981(昭和56年)年初版の文庫の帯にあるが、時は流れて女性の意識も感覚も今では多様に変化してしまった。
あとがきに、少年と少女、幼年と幼女、老年と老女という言葉があるのに、どうして、青年に対する「青女」という言葉がないのだろうかという寺山の疑問に、女性にとって、もっとも人生が美しく感じられる時期に、「青年」とよばれ、男性と一緒にしか扱われないのは、女性の社会的差別は、案外こうした言葉の日常性の中から始まっているのかも知れないと寺山は洞察し語っているが、寺山修司流のフェミニズムは現代でも色褪せていない。