「振り込みに合わせた差押え」は違法という判例の現状。



給与支給日に預金の全額を差し押さえられて生活が困窮したとして、住民税を滞納していた徳島市の30歳代男性が、税の徴収業務を担う「徳島県市町村総合事務組合」を相手取り、給与や慰謝料約77万円を求めた訴訟の判決が2月、地裁であった。国税徴収法は給与のうち最低生活費など一定金額については差し押さえを禁止。地裁は「差し押さえ可能な範囲を超えている」として、組合に給与の一部約7万6000円の返還を命じた。(佐藤萌)


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 判決などによると、男性は2016年頃、うつ病で仕事を退職。2年以上収入が途絶え、住民税を滞納した。19年4月頃からアルバイトを掛け持ちし、収入は月15万円程度だった。19年6月、組合から差し押さえ通知が届いた。


 男性は生活の困窮を訴えたが、組合は20年2月の男性の給与支給日に、口座にあった約13万円を全額差し押さえた。口座残高が0円になった男性は、家賃や光熱費を支払えなくなった。友人に生活費を借り、食事は1日1食で、水で空腹をしのいだ。「助けを求めること自体がつらかった」と男性は振り返る。


 数日後、インターネットで「給与の差し押さえは一部」とされていることや、裁判で入金直後の給与の全額差し押さえは「違法」との判例を知った。組合に伝えたが「1998年の最高裁判決に基づいている。問題ない」と言われた。男性は2020年5月に提訴した。


 組合側は裁判で「口座への入金が給与である可能性に気づくことは困難だった」と反論したが、光吉恵子裁判長は、男性と組合側の会話が「勤務先から給与があるとの認識を前提としていた」とし、組合側の主張を退けた。一方、慰謝料など約70万円については認めなかった。


 判決後の記者会見で、男性は「同じ苦しみを味わう人が、一人でも少なくなってほしい」と語った。両者は高松高裁に控訴しており、組合は「高裁の判断を仰ぎたい」としている。


「預金」との線引き曖昧 


 総務省によると、一部の自治体は、効率化で課税事務を共同で行う一部事務組合を設置している。徳島、愛媛両県は県内全市町村で、香川、高知両県は近隣の市町村で、それぞれ組合を組織している。


 現在の給与支払いは口座振り込みが一般的だが、国税徴収法は制定時に主流だった手渡しを前提としている。このため「給与」と「預金」との線引きは曖昧だ。


 徳島の組合が根拠とした1998年の最高裁判決では「振り込まれた場合は預金と区別ができなくなる」と、差し押さえを原則可能と判断。全国の自治体はこれに基づき、差し押さえ禁止の財産も、口座に振り込まれた段階で「預金」としてきた。


 2013年3月、一定以上の差し押さえが禁止となっている児童手当について、入金9分後に差し押さえた鳥取県に対し、鳥取地裁は「振り込みに合わせた差し押さえ」として違法判決を下した。これを機に、入金直後は「実質的な差し押さえ」とする判例が各地で示されるようになった。


 総務省の統計では、全国で地方税の累積滞納額は6065億円(23年度)で、00年代前半をピークに減少傾向にある。しかし、近年でも税滞納に陥る人は少なくなく、依然として課題となっている。


 原告側の弁護士の一人で、鳥取の訴訟などにもかかわった勝俣彰仁弁護士は「納税は義務だが、生命や生活を脅かすような差し押さえは二度とあってはいけない」と話す。


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